シスコン婚約者とはおさらばです。

火野村志紀

文字の大きさ
上 下
17 / 18

17.逮捕と別れ(アラン視点)

しおりを挟む
「ポーマ子爵が逮捕されただと!?」
「はい。マーガレイド農園に火をつけただけでなく、ジャムを盗んで密かに輸出していたとのことです」

 執事からの報告に、私の頭は真っ白になった。
 輸出? どういうことだ。私が子爵に指示したのは、放火だけのはず……。
 慌てて今朝の新聞を見ると、確かにポーマ子爵の記事がトップを飾っていた。
 奴はどうやらジャムで一稼ぎするために、小屋から盗むようにと庭師に命じたらしい。

「くそっ! あの男……!」

 新聞を床に叩きつける。もしかすると、密輸がきっかけで警察に目をつけられたのではないだろうか。
 ポーマ子爵を選んだ私が馬鹿だった。奴は金のためなら、どんな悪事にも手を染める男と噂されていた。
 だから大金を払ってポーマ子爵を雇ったのだが、子爵がそれだけでは満足せず、ジャムを売り飛ばしていたとは思わなかった。

 新聞には書かれていないが、ポーマ子爵は既に取り調べで私の名前を挙げているだろう。
 ホロウス家に捜査の手が伸びるのも、時間の問題だ。
 私は逮捕されて、最悪爵位の剥奪も有り得る。

「くそっ! お前のせいだぞ、シャロン……!」

 元はと言えば、あの女が悪い。私にこんなことをさせたシャロンが悪い。

「ア、アラン様? どうなさいました?」
「うるさい! 今考えことをしているんだ、話しかけるな!」

 何も知らない執事に話しかけられて、声を荒らげる。
 奴を部屋から追い出して考え続けるが、妙案は一向に思いつかない。
 もう私は終わりだ……

「……お兄様、どうしました?」
「エミリー……」

 気がつくと、私の可愛い妹が不思議そうにこちらを見ていた。
 私が捕まれば、エミリーを守ることが出来なくなってしまう。
 それは死ぬよりも辛いことだ。私にとっても、エミリーにとっても。
 そうなるくらいなら……

「……よく聞いてくれ、エミリー」
「はい、お兄様。何でしょうか?」
「私はシャロンのせいで、警察に捕まることになるだろう」
「え……な、何故ですか!?」

 瞠目しながら駆け寄って来る妹。私の身を案じているのだろう。心がほんの少し救われる。

「詳しい話は後だ。まずはここから逃げなければならない」
「お兄様……」
「……だから、エミリー。お前にも一緒について来て欲しい」

 エミリーの肩を掴みながら告げる。
 二人きりの逃避行だ。多くの苦難が待ち受けているに違いない。
 それでもこの愛しい妹がいれば、耐えられる。耐えてみせる……!

「それは、お断りいたします」
「え?」

 エミリーは私の手を振り払うと、素早く距離を取った。

「いけませんよ、お兄様。罪はしっかりと償わなければ」
「そ、それは分かっている。だが今回は、シャロンに天罰を下すために仕方なく……」
「そんなのわたくしには何の関係もありませんし……大方、誰かを使ってマーガレイド農園に火をつけたとかでしょう?」
「どうしてそれを……!」

 狼狽える私に、エミリーは「やっぱりお兄様が手を引いていたのですね」と大きく溜め息をついた。

「お兄様がこんなに詰めが甘い人だなんて、がっかりです。あなたみたいな人に媚びを売っていたわたくしが馬鹿みたいですね……」
「な、何を言っているんだ? なあエミリー……!」

 違う。エミリーはこんな酷いことを言わない。きっと私は、悪い夢でも見ているんだ。
 目の前の現実からどうにか逃げようとしていると、部屋の外が騒がしくなって来た。
 そして執事が慌ただしく部屋に入って来た。

「アラン様、大変です! 警察の者がやって来ました!」
「うぅ……っ」

 その言葉を聞き、床に崩れ落ちる私。
 縋るようにエミリーを見上げると、美しい妹はにっこりと微笑みながら、

「さようなら、お兄様」



しおりを挟む
感想 57

あなたにおすすめの小説

下げ渡された婚約者

相生紗季
ファンタジー
マグナリード王家第三王子のアルフレッドは、優秀な兄と姉のおかげで、政務に干渉することなく気ままに過ごしていた。 しかしある日、第一王子である兄が言った。 「ルイーザとの婚約を破棄する」 愛する人を見つけた兄は、政治のために決められた許嫁との婚約を破棄したいらしい。 「あのルイーザが受け入れたのか?」 「代わりの婿を用意するならという条件付きで」 「代わり?」 「お前だ、アルフレッド!」 おさがりの婚約者なんて聞いてない! しかもルイーザは誰もが畏れる冷酷な侯爵令嬢。 アルフレッドが怯えながらもルイーザのもとへと訪ねると、彼女は氷のような瞳から――涙をこぼした。 「あいつは、僕たちのことなんかどうでもいいんだ」 「ふたりで見返そう――あいつから王位を奪うんだ」

【完結】貴方の後悔など、聞きたくありません。

なか
恋愛
学園に特待生として入学したリディアであったが、平民である彼女は貴族家の者には目障りだった。 追い出すようなイジメを受けていた彼女を救ってくれたのはグレアルフという伯爵家の青年。 優しく、明るいグレアルフは屈託のない笑顔でリディアと接する。 誰にも明かさずに会う内に恋仲となった二人であったが、 リディアは知ってしまう、グレアルフの本性を……。 全てを知り、死を考えた彼女であったが、 とある出会いにより自分の価値を知った時、再び立ち上がる事を選択する。 後悔の言葉など全て無視する決意と共に、生きていく。

今まで尽してきた私に、妾になれと言うんですか…?

水垣するめ
恋愛
主人公伯爵家のメアリー・キングスレーは公爵家長男のロビン・ウィンターと婚約していた。 メアリーは幼い頃から公爵のロビンと釣り合うように厳しい教育を受けていた。 そして学園に通い始めてからもロビンのために、生徒会の仕事を請け負い、尽していた。 しかしある日突然、ロビンは平民の女性を連れてきて「彼女を正妻にする!」と宣言した。 そしえメアリーには「お前は妾にする」と言ってきて…。 メアリーはロビンに失望し、婚約破棄をする。 婚約破棄は面子に関わるとロビンは引き留めようとしたが、メアリーは婚約破棄を押し通す。 そしてその後、ロビンのメアリーに対する仕打ちを知った王子や、周囲の貴族はロビンを責め始める…。 ※小説家になろうでも掲載しています。

許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください> 私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

婚約者から妾になれと言われた私は、婚約を破棄することにしました

天宮有
恋愛
公爵令嬢の私エミリーは、婚約者のアシェル王子に「妾になれ」と言われてしまう。 アシェルは子爵令嬢のキアラを好きになったようで、妾になる原因を私のせいにしたいようだ。 もうアシェルと関わりたくない私は、妾にならず婚約破棄しようと決意していた。

【完結】私から全てを奪った妹は、地獄を見るようです。

凛 伊緒
恋愛
「サリーエ。すまないが、君との婚約を破棄させてもらう!」 リデイトリア公爵家が開催した、パーティー。 その最中、私の婚約者ガイディアス・リデイトリア様が他の貴族の方々の前でそう宣言した。 当然、注目は私達に向く。 ガイディアス様の隣には、私の実の妹がいた-- 「私はシファナと共にありたい。」 「分かりました……どうぞお幸せに。私は先に帰らせていただきますわ。…失礼致します。」 (私からどれだけ奪えば、気が済むのだろう……。) 妹に宝石類を、服を、婚約者を……全てを奪われたサリーエ。 しかし彼女は、妹を最後まで責めなかった。 そんな地獄のような日々を送ってきたサリーエは、とある人との出会いにより、運命が大きく変わっていく。 それとは逆に、妹は-- ※全11話構成です。 ※作者がシステムに不慣れな時に書いたものなので、ネタバレの嫌な方はコメント欄を見ないようにしていただければと思います……。

君を愛す気はない?どうぞご自由に!あなたがいない場所へ行きます。

みみぢあん
恋愛
貧乏なタムワース男爵家令嬢のマリエルは、初恋の騎士セイン・ガルフェルト侯爵の部下、ギリス・モリダールと結婚し初夜を迎えようとするが… 夫ギリスの暴言に耐えられず、マリエルは神殿へ逃げこんだ。 マリエルは身分違いで告白をできなくても、セインを愛する自分が、他の男性と結婚するのは間違いだと、自立への道をあゆもうとする。 そんなマリエルをセインは心配し… マリエルは愛するセインの優しさに苦悩する。 ※ざまぁ系メインのお話ではありません、ご注意を😓

婚約を解消してくれないと、毒を飲んで死ぬ? どうぞご自由に

柚木ゆず
恋愛
 ※7月25日、本編完結いたしました。後日、補完編と番外編の投稿を予定しております。  伯爵令嬢ソフィアの幼馴染である、ソフィアの婚約者イーサンと伯爵令嬢アヴリーヌ。二人はソフィアに内緒で恋仲となっており、最愛の人と結婚できるように今の関係を解消したいと考えていました。  ですがこの婚約は少々特殊な意味を持つものとなっており、解消するにはソフィアの協力が必要不可欠。ソフィアが関係の解消を快諾し、幼馴染三人で両家の当主に訴えなければ実現できないものでした。  そしてそんなソフィアは『家の都合』を優先するため、素直に力を貸してくれはしないと考えていました。  そこで二人は毒を用意し、一緒になれないなら飲んで死ぬとソフィアに宣言。大切な幼馴染が死ぬのは嫌だから、必ず言うことを聞く――。と二人はほくそ笑んでいましたが、そんなイーサンとアヴリーヌに返ってきたのは予想外の言葉でした。 「そう。どうぞご自由に」

処理中です...