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17.逮捕と別れ(アラン視点)
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「ポーマ子爵が逮捕されただと!?」
「はい。マーガレイド農園に火をつけただけでなく、ジャムを盗んで密かに輸出していたとのことです」
執事からの報告に、私の頭は真っ白になった。
輸出? どういうことだ。私が子爵に指示したのは、放火だけのはず……。
慌てて今朝の新聞を見ると、確かにポーマ子爵の記事がトップを飾っていた。
奴はどうやらジャムで一稼ぎするために、小屋から盗むようにと庭師に命じたらしい。
「くそっ! あの男……!」
新聞を床に叩きつける。もしかすると、密輸がきっかけで警察に目をつけられたのではないだろうか。
ポーマ子爵を選んだ私が馬鹿だった。奴は金のためなら、どんな悪事にも手を染める男と噂されていた。
だから大金を払ってポーマ子爵を雇ったのだが、子爵がそれだけでは満足せず、ジャムを売り飛ばしていたとは思わなかった。
新聞には書かれていないが、ポーマ子爵は既に取り調べで私の名前を挙げているだろう。
ホロウス家に捜査の手が伸びるのも、時間の問題だ。
私は逮捕されて、最悪爵位の剥奪も有り得る。
「くそっ! お前のせいだぞ、シャロン……!」
元はと言えば、あの女が悪い。私にこんなことをさせたシャロンが悪い。
「ア、アラン様? どうなさいました?」
「うるさい! 今考えことをしているんだ、話しかけるな!」
何も知らない執事に話しかけられて、声を荒らげる。
奴を部屋から追い出して考え続けるが、妙案は一向に思いつかない。
もう私は終わりだ……
「……お兄様、どうしました?」
「エミリー……」
気がつくと、私の可愛い妹が不思議そうにこちらを見ていた。
私が捕まれば、エミリーを守ることが出来なくなってしまう。
それは死ぬよりも辛いことだ。私にとっても、エミリーにとっても。
そうなるくらいなら……
「……よく聞いてくれ、エミリー」
「はい、お兄様。何でしょうか?」
「私はシャロンのせいで、警察に捕まることになるだろう」
「え……な、何故ですか!?」
瞠目しながら駆け寄って来る妹。私の身を案じているのだろう。心がほんの少し救われる。
「詳しい話は後だ。まずはここから逃げなければならない」
「お兄様……」
「……だから、エミリー。お前にも一緒について来て欲しい」
エミリーの肩を掴みながら告げる。
二人きりの逃避行だ。多くの苦難が待ち受けているに違いない。
それでもこの愛しい妹がいれば、耐えられる。耐えてみせる……!
「それは、お断りいたします」
「え?」
エミリーは私の手を振り払うと、素早く距離を取った。
「いけませんよ、お兄様。罪はしっかりと償わなければ」
「そ、それは分かっている。だが今回は、シャロンに天罰を下すために仕方なく……」
「そんなのわたくしには何の関係もありませんし……大方、誰かを使ってマーガレイド農園に火をつけたとかでしょう?」
「どうしてそれを……!」
狼狽える私に、エミリーは「やっぱりお兄様が手を引いていたのですね」と大きく溜め息をついた。
「お兄様がこんなに詰めが甘い人だなんて、がっかりです。あなたみたいな人に媚びを売っていたわたくしが馬鹿みたいですね……」
「な、何を言っているんだ? なあエミリー……!」
違う。エミリーはこんな酷いことを言わない。きっと私は、悪い夢でも見ているんだ。
目の前の現実からどうにか逃げようとしていると、部屋の外が騒がしくなって来た。
そして執事が慌ただしく部屋に入って来た。
「アラン様、大変です! 警察の者がやって来ました!」
「うぅ……っ」
その言葉を聞き、床に崩れ落ちる私。
縋るようにエミリーを見上げると、美しい妹はにっこりと微笑みながら、
「さようなら、お兄様」
「はい。マーガレイド農園に火をつけただけでなく、ジャムを盗んで密かに輸出していたとのことです」
執事からの報告に、私の頭は真っ白になった。
輸出? どういうことだ。私が子爵に指示したのは、放火だけのはず……。
慌てて今朝の新聞を見ると、確かにポーマ子爵の記事がトップを飾っていた。
奴はどうやらジャムで一稼ぎするために、小屋から盗むようにと庭師に命じたらしい。
「くそっ! あの男……!」
新聞を床に叩きつける。もしかすると、密輸がきっかけで警察に目をつけられたのではないだろうか。
ポーマ子爵を選んだ私が馬鹿だった。奴は金のためなら、どんな悪事にも手を染める男と噂されていた。
だから大金を払ってポーマ子爵を雇ったのだが、子爵がそれだけでは満足せず、ジャムを売り飛ばしていたとは思わなかった。
新聞には書かれていないが、ポーマ子爵は既に取り調べで私の名前を挙げているだろう。
ホロウス家に捜査の手が伸びるのも、時間の問題だ。
私は逮捕されて、最悪爵位の剥奪も有り得る。
「くそっ! お前のせいだぞ、シャロン……!」
元はと言えば、あの女が悪い。私にこんなことをさせたシャロンが悪い。
「ア、アラン様? どうなさいました?」
「うるさい! 今考えことをしているんだ、話しかけるな!」
何も知らない執事に話しかけられて、声を荒らげる。
奴を部屋から追い出して考え続けるが、妙案は一向に思いつかない。
もう私は終わりだ……
「……お兄様、どうしました?」
「エミリー……」
気がつくと、私の可愛い妹が不思議そうにこちらを見ていた。
私が捕まれば、エミリーを守ることが出来なくなってしまう。
それは死ぬよりも辛いことだ。私にとっても、エミリーにとっても。
そうなるくらいなら……
「……よく聞いてくれ、エミリー」
「はい、お兄様。何でしょうか?」
「私はシャロンのせいで、警察に捕まることになるだろう」
「え……な、何故ですか!?」
瞠目しながら駆け寄って来る妹。私の身を案じているのだろう。心がほんの少し救われる。
「詳しい話は後だ。まずはここから逃げなければならない」
「お兄様……」
「……だから、エミリー。お前にも一緒について来て欲しい」
エミリーの肩を掴みながら告げる。
二人きりの逃避行だ。多くの苦難が待ち受けているに違いない。
それでもこの愛しい妹がいれば、耐えられる。耐えてみせる……!
「それは、お断りいたします」
「え?」
エミリーは私の手を振り払うと、素早く距離を取った。
「いけませんよ、お兄様。罪はしっかりと償わなければ」
「そ、それは分かっている。だが今回は、シャロンに天罰を下すために仕方なく……」
「そんなのわたくしには何の関係もありませんし……大方、誰かを使ってマーガレイド農園に火をつけたとかでしょう?」
「どうしてそれを……!」
狼狽える私に、エミリーは「やっぱりお兄様が手を引いていたのですね」と大きく溜め息をついた。
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違う。エミリーはこんな酷いことを言わない。きっと私は、悪い夢でも見ているんだ。
目の前の現実からどうにか逃げようとしていると、部屋の外が騒がしくなって来た。
そして執事が慌ただしく部屋に入って来た。
「アラン様、大変です! 警察の者がやって来ました!」
「うぅ……っ」
その言葉を聞き、床に崩れ落ちる私。
縋るようにエミリーを見上げると、美しい妹はにっこりと微笑みながら、
「さようなら、お兄様」
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