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13.相談と手紙
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午後になってから実家に向かうと、父がマルフォー会長と応接間で話し込んでいた。
その内容は、マーガレイド農園の今後について。
ちょうどよかった。
「お父様。そのことですが、我が家から農園に支援金を出すことは出来ませんか?」
「ああ。それについてはもう決まったよ。マルフォー商会と共同で、当面の間は農園をサポートしようと思う」
父の言葉に合わせて、マルフォー会長が首を縦に振る。
「マーガレイド農園には、随分と世話になっていたんだ。再起のために、我々も手を尽くそう」
「ありがとうございます、会長!」
「それにレイオス家だけではなく、いくつかの貴族からも支援したいと、申し出が来ている。あそこのジャムには、ファンが多いからな」
火事の一報を聞いて、憤慨している声も多いという。
マーガレイド農園が皆に愛されている証拠だ。嬉しく思う反面、罪悪感がじわじわと蘇ってくる。
私は、マルフォー会長におずおずと話しかけた。
「……もしかしたら、私のことで商会にもご迷惑をおかけしてしまうかもしれません」
「ふっふっふ。うちは元々ライバルが多いんだ。敵が少し増えたくらい、どうってこともないさ」
人気があるのはとても辛い、と言いながら余裕の笑みを見せるマルフォー会長。
この鋼鉄メンタルを私も見習いたい。
「あら、シャロン。帰ってたの?」
「あ、ただいまお母……ファッ!?」
ひょっこりと応接間の様子を見に来た母は、何故か甲冑姿で、剣を携えていた。
「誰と戦うつもりですか!?」
「あらやだ、鍛練するだけよ。火事の話を聞いてイライラしちゃったから、発散させようと思うの」
「だったら、完全武装しなくたっていいじゃないですか……」
「甘いわね、シャロン。何事も、まずは形から入るのが大事なのよ」
ガッション、ガッションと音を立てながら去っていく母を、私たちは無言で見送った。
その後、父が真剣な表情で口を開く。
「シャロンはああなっちゃ駄目だからな。絶対に……!」
「あんなの、なりたくてもなれませんよ」
久しぶりに会ったけれど、母の脳筋ぶりは相変わらずだった。
以前と変わらない様子に少しほっとしつつ、リード邸に帰る。
クラレンス様は自室で、封筒に便箋を入れている最中だった。
「ただいま帰りました、クラレンス様」
「おかえり。レイオス伯爵は、支援金のこと何て仰ってた?」
「快く出してくださるそうです!」
クラレンス様に報告すると、彼は「それはよかった」と言いながら封筒に臙脂色の蝋を垂らした。
そしてそこに、ぎゅっとスタンプを押す。
すると、リード侯爵家の紋章が入った封蝋印の出来上がり。
机の隅には、他にも手紙が何通も置かれていた。
こうして一度にたくさん手紙を出すなんて、侯爵子息も大変ね。
アラン様はどうだっただろう。私が会いに行くと、いつも剣の鍛練ばかりしていたような……
「そういえば今晩のデザートはチーズタルトだって、さっきメイドが言ってたよ」
「チーズタルト!? 今夜のテストも絶対に全問正解しなくちゃ……!」
私の脳内はすぐにチーズタルト一色になって、元婚約者のことはどうでもよくなったのだった。
マーガレイド農園の火事から二週間が経ったけれど、犯人の手がかりはいまだに見つからないらしい。
何せ真夜中の犯行だ。それらしき目撃証言も出て来ない。
現場に落ちていたマッチも市販で売られているもので、持ち主を特定することも困難とのこと。
おのれ、犯人め。怒りを原動力にして、私は本日も勉学に勤しんでいた。
「本日はここまでにしておきましょう」
「はい。ありがとうございました!」
「では、また明日よろしくお願いしますね」
経済学担当の先生がにこやかに帰って行く。
次の先生が来るのは、一時間後。それまで予習でもしてようかな。
「……ん?」
ふと窓へ目を向けると、屋敷の前に馬車が停まっているのが見えた。
「んん!?」
それが王家の馬車だと気づき、私は目を剥いた。
その内容は、マーガレイド農園の今後について。
ちょうどよかった。
「お父様。そのことですが、我が家から農園に支援金を出すことは出来ませんか?」
「ああ。それについてはもう決まったよ。マルフォー商会と共同で、当面の間は農園をサポートしようと思う」
父の言葉に合わせて、マルフォー会長が首を縦に振る。
「マーガレイド農園には、随分と世話になっていたんだ。再起のために、我々も手を尽くそう」
「ありがとうございます、会長!」
「それにレイオス家だけではなく、いくつかの貴族からも支援したいと、申し出が来ている。あそこのジャムには、ファンが多いからな」
火事の一報を聞いて、憤慨している声も多いという。
マーガレイド農園が皆に愛されている証拠だ。嬉しく思う反面、罪悪感がじわじわと蘇ってくる。
私は、マルフォー会長におずおずと話しかけた。
「……もしかしたら、私のことで商会にもご迷惑をおかけしてしまうかもしれません」
「ふっふっふ。うちは元々ライバルが多いんだ。敵が少し増えたくらい、どうってこともないさ」
人気があるのはとても辛い、と言いながら余裕の笑みを見せるマルフォー会長。
この鋼鉄メンタルを私も見習いたい。
「あら、シャロン。帰ってたの?」
「あ、ただいまお母……ファッ!?」
ひょっこりと応接間の様子を見に来た母は、何故か甲冑姿で、剣を携えていた。
「誰と戦うつもりですか!?」
「あらやだ、鍛練するだけよ。火事の話を聞いてイライラしちゃったから、発散させようと思うの」
「だったら、完全武装しなくたっていいじゃないですか……」
「甘いわね、シャロン。何事も、まずは形から入るのが大事なのよ」
ガッション、ガッションと音を立てながら去っていく母を、私たちは無言で見送った。
その後、父が真剣な表情で口を開く。
「シャロンはああなっちゃ駄目だからな。絶対に……!」
「あんなの、なりたくてもなれませんよ」
久しぶりに会ったけれど、母の脳筋ぶりは相変わらずだった。
以前と変わらない様子に少しほっとしつつ、リード邸に帰る。
クラレンス様は自室で、封筒に便箋を入れている最中だった。
「ただいま帰りました、クラレンス様」
「おかえり。レイオス伯爵は、支援金のこと何て仰ってた?」
「快く出してくださるそうです!」
クラレンス様に報告すると、彼は「それはよかった」と言いながら封筒に臙脂色の蝋を垂らした。
そしてそこに、ぎゅっとスタンプを押す。
すると、リード侯爵家の紋章が入った封蝋印の出来上がり。
机の隅には、他にも手紙が何通も置かれていた。
こうして一度にたくさん手紙を出すなんて、侯爵子息も大変ね。
アラン様はどうだっただろう。私が会いに行くと、いつも剣の鍛練ばかりしていたような……
「そういえば今晩のデザートはチーズタルトだって、さっきメイドが言ってたよ」
「チーズタルト!? 今夜のテストも絶対に全問正解しなくちゃ……!」
私の脳内はすぐにチーズタルト一色になって、元婚約者のことはどうでもよくなったのだった。
マーガレイド農園の火事から二週間が経ったけれど、犯人の手がかりはいまだに見つからないらしい。
何せ真夜中の犯行だ。それらしき目撃証言も出て来ない。
現場に落ちていたマッチも市販で売られているもので、持ち主を特定することも困難とのこと。
おのれ、犯人め。怒りを原動力にして、私は本日も勉学に勤しんでいた。
「本日はここまでにしておきましょう」
「はい。ありがとうございました!」
「では、また明日よろしくお願いしますね」
経済学担当の先生がにこやかに帰って行く。
次の先生が来るのは、一時間後。それまで予習でもしてようかな。
「……ん?」
ふと窓へ目を向けると、屋敷の前に馬車が停まっているのが見えた。
「んん!?」
それが王家の馬車だと気づき、私は目を剥いた。
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