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12.火事と失意
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クラレンス様とマーガレイド農園に駆けつけると、辺りには焦げた臭いが漂っていた。
軽く咳き込んだ後、私はハンカチで口を覆いながら中へと入って行った。
「酷い……」
たくさんの木が燃えて黒焦げになっていた。地面にも、ぐちゃぐちゃになった果物が転がっている。
あまりの惨状に、体の震えが止まらない。
すると憔悴しきった表情で、警官と話をしているマーガレイドおじいさんを見つけた。
「マーガレイドさん……!」
「シャロンお嬢様? どうしてこちらに……」
「火事のことを聞いて飛んで来たんです。あの……奥様は?」
「……ショックのあまり倒れてしまいまして、今は寝込んでおります」
マーガレイドおじいさんは声を震わせながら言うと、その場に座り込んでしまった。
火事については、おじいさんと会話していた警官が教えてくれた。
「燃え方が一番激しかったことから、出火元は恐らくあそこです。その炎が木に燃え移り、延焼が広がったのでしょう」
警官が指差したのは、昨日作ったジャムを保管していた小屋だった。倒壊はしなかったみたいだけど、こちらも酷い状態だった。
警官の制止を振り切って、小屋の中に入ると、焼け焦げた臭いに混じって甘い香りが漂っていた。
そして床に散らばる大量のガラス片と、真っ黒な泥のようになったジャム。
どうしてこんなことに……
呆然と立ち尽くす私の横で、クラレンス様も無言で床を見下ろしている。
「崩れる可能性がありますから、早く外に出てください!」
警官の声で我に返って小屋から出ると、他の警官たちが小声で話しているのが耳に入って来た。
「小屋の中にマッチが落ちていたんだ。放火で決まりだな」
「マーガレイドに恨みを持っていた奴の仕業か?」
「いや、レイネス伯爵令嬢絡みの線もあるぞ。彼女とは、以前から親交があったらしいからな」
「ホロウス家との一件で、シャロン嬢を快く思わない者は多……」
私に気づいた警官がハッとした様子で口を噤む。
私は彼らに会釈して、その場から足早に立ち去った。
警官たちの会話が、頭にこびりついて離れない。
私と仲良くしていたせいで。
自責の念と、マーガレイド夫妻への申し訳なさが込み上げて来る。
「シャロン……」
胸の上で手をぎゅっと握り締めていると、クラレンス様に声をかけられた。
あ、いけない。クラレンス様のことを忘れていた。
「すみません。私は大丈夫ですから」
「……君は何も謝らなくていいんだよ」
「だ、だって、私が昨日ここに来たせいで……」
「ううん。悪いのは、火をつけた犯人だ」
クラレンス様が、俯く私の頭を撫でる。
その優しい手付きと温かさに、瞳からぽろりと涙が零れた。
クラレンス様の言うとおり、悪いのが放火犯なのは私も分かっている。
だけど私が原因だとしたら、マーガレイドさんたちに、何てお詫びをすればいいんだろう。
「……シャロン、屋敷に戻ろう」
「はい……」
クラレンス様に手を引かれて歩き出す。
すると馬車へと向かう途中、誰かの声が聞こえてきた。
マーガレイドおばあさんが、地面に落ちている枝や果物を拾いながら、おじいさんを叱っている。
「何ボーッとしてんだい! さっさと片付けをしなきゃ、新しい木が植えられないじゃないか!」
「だ、だが、また一から育てるなんて……」
「確かにあたしも、さっきまで落ち込んでたよ。いつまでも、凹んでるわけにはいかないんだ。あたしたちの果物やジャムを待ってる人が大勢いるんだからね!」
「そうだな……よし、頑張ってみるか!」
その光景を眺めていると、私たちに気づいたおじいさんが大きく手を振った。
「シャロンお嬢様、農園は暫く休業になりそうです。ですが、いつか必ず復活してみせますよ。そうしたら、またジャム作りに来てください!」
「はい……その時はよろしくお願いします!」
私も元気に手を振り返す。
そうよね。落ち込んでいる暇があったら、自分の出来ることをしないと。
軽く咳き込んだ後、私はハンカチで口を覆いながら中へと入って行った。
「酷い……」
たくさんの木が燃えて黒焦げになっていた。地面にも、ぐちゃぐちゃになった果物が転がっている。
あまりの惨状に、体の震えが止まらない。
すると憔悴しきった表情で、警官と話をしているマーガレイドおじいさんを見つけた。
「マーガレイドさん……!」
「シャロンお嬢様? どうしてこちらに……」
「火事のことを聞いて飛んで来たんです。あの……奥様は?」
「……ショックのあまり倒れてしまいまして、今は寝込んでおります」
マーガレイドおじいさんは声を震わせながら言うと、その場に座り込んでしまった。
火事については、おじいさんと会話していた警官が教えてくれた。
「燃え方が一番激しかったことから、出火元は恐らくあそこです。その炎が木に燃え移り、延焼が広がったのでしょう」
警官が指差したのは、昨日作ったジャムを保管していた小屋だった。倒壊はしなかったみたいだけど、こちらも酷い状態だった。
警官の制止を振り切って、小屋の中に入ると、焼け焦げた臭いに混じって甘い香りが漂っていた。
そして床に散らばる大量のガラス片と、真っ黒な泥のようになったジャム。
どうしてこんなことに……
呆然と立ち尽くす私の横で、クラレンス様も無言で床を見下ろしている。
「崩れる可能性がありますから、早く外に出てください!」
警官の声で我に返って小屋から出ると、他の警官たちが小声で話しているのが耳に入って来た。
「小屋の中にマッチが落ちていたんだ。放火で決まりだな」
「マーガレイドに恨みを持っていた奴の仕業か?」
「いや、レイネス伯爵令嬢絡みの線もあるぞ。彼女とは、以前から親交があったらしいからな」
「ホロウス家との一件で、シャロン嬢を快く思わない者は多……」
私に気づいた警官がハッとした様子で口を噤む。
私は彼らに会釈して、その場から足早に立ち去った。
警官たちの会話が、頭にこびりついて離れない。
私と仲良くしていたせいで。
自責の念と、マーガレイド夫妻への申し訳なさが込み上げて来る。
「シャロン……」
胸の上で手をぎゅっと握り締めていると、クラレンス様に声をかけられた。
あ、いけない。クラレンス様のことを忘れていた。
「すみません。私は大丈夫ですから」
「……君は何も謝らなくていいんだよ」
「だ、だって、私が昨日ここに来たせいで……」
「ううん。悪いのは、火をつけた犯人だ」
クラレンス様が、俯く私の頭を撫でる。
その優しい手付きと温かさに、瞳からぽろりと涙が零れた。
クラレンス様の言うとおり、悪いのが放火犯なのは私も分かっている。
だけど私が原因だとしたら、マーガレイドさんたちに、何てお詫びをすればいいんだろう。
「……シャロン、屋敷に戻ろう」
「はい……」
クラレンス様に手を引かれて歩き出す。
すると馬車へと向かう途中、誰かの声が聞こえてきた。
マーガレイドおばあさんが、地面に落ちている枝や果物を拾いながら、おじいさんを叱っている。
「何ボーッとしてんだい! さっさと片付けをしなきゃ、新しい木が植えられないじゃないか!」
「だ、だが、また一から育てるなんて……」
「確かにあたしも、さっきまで落ち込んでたよ。いつまでも、凹んでるわけにはいかないんだ。あたしたちの果物やジャムを待ってる人が大勢いるんだからね!」
「そうだな……よし、頑張ってみるか!」
その光景を眺めていると、私たちに気づいたおじいさんが大きく手を振った。
「シャロンお嬢様、農園は暫く休業になりそうです。ですが、いつか必ず復活してみせますよ。そうしたら、またジャム作りに来てください!」
「はい……その時はよろしくお願いします!」
私も元気に手を振り返す。
そうよね。落ち込んでいる暇があったら、自分の出来ることをしないと。
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