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20.希望の光(ブノワ視点)

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「イヴァーノ様は私の友人ですからね。私の部屋に残したままだった特効薬の試作品や精製方法を記した手記も、彼に頼んで回収してもらいました。元々私を快く思わない方々がいたので、彼らに奪われないように普段から天井裏に隠していたのですが……」
「ど、どうしてだ、エステル。どうしてこの国に戻って来てくれたんだ……?」

 エステルが言い終わらないうちに俺は尋ねた。
 俺も、国王陛下も、国民も恨んでいるはずなのに、どうしてこの状況で俺たちの前に現れたのか。

 俺は僅かな希望を持っていた。
 貧乏な客からは金を取らない町医者だったエステルのことだ。
 俺たちを助けに来てくれたのではないか……と。

 俺からの縋り付くような視線に、エステルは優しい声で答えた。

「もちろん、私は皆様を救うために馳せ参じました」
「エステル……ああ、エステル!」

 俺は涙を流して喜んだ。
 俺は間違っていた。見た目だけが取り柄のナデージュ王女よりも、聡明で慈愛溢れるエステルを選ぶべきだったんだ。

「すまない、エステル! お前を捨てた俺を許してくれ!」

 気持ちを抑えきれず、エステルへ駆け寄る。
 俺を捕らえようとするアリシュラ兵を手で制止し、エステルは両手を広げて俺を抱き留めてくれた。

「エステル……やり直そう! また俺たちは愛し合えるはずだ……!」
「ありがとうございます、ブノワ様……ですが、私は一度アリシュラに戻らなければなりません。返事はその後でいいですか?」
「返事なんていくらでも待つ。だから俺の元に戻って来てくれ……」

 今まで見た中で一番綺麗な笑みでエステルは頷くと、そっと俺を引き剥がした。

「陛下、城の裏口に木箱を詰んでおきました。特効薬はその中に入っています。試作品とは違い、副作用もないので安心して服用出来ますよ」
「うむ……うむうむ、よくやったエステル! お前さえよければ、また王宮医官長に任命してやってもよいのだぞ?」
「ありがとうございます。その際はよろしくお願いしますね」

 上機嫌の国王陛下と笑顔のエステルの会話を聞いていた大臣たちも、希望に満ちた表情を浮かべる。
 これでこの国は救われる。

「それでは皆様ごきげんよう」

 最後まで笑ったままエステルは城を去った。
 愛する人との離別は寂しいが、彼女は再び戻ってくる。
 そう自分に言い聞かせ、我慢することにした。

「さて試作品の特効薬は……そうだな。エレイナに飲ませろ。勿体ないからな」
「か、かしこまりました……」

 その会話に俺は呆れていた。
 自分の妻に安全な薬を使わせないなんて……俺はこんな男にはならない。なりたくない。

 そう思っていると、木箱を取りに行っていた医官たちが血相を変えて戻ってきた。

 
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