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18.独占(ブノワ視点)

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 この国の薬が当てにならないなら、アリシュラの特効薬を頼ればいい。
 そう思った者たちは高額でもいいから薬を売って欲しいと頭を下げたが、聞き入れては貰えなかった。
 アリシュラの国王はこの国を嫌悪しており、助ける義理も必要もないと言い切った。
 他の国もそれに倣い、助けてくれという叫びを無視した。

 亡命しようとした国民もいたが、以前よりも国境の警備が厳しく、入国を認められなかったらしい。

 ナデ―ジュ王女の死から二ヶ月しないうちに、貴族、平民問わず大勢の死者が出た。
 前だったら体力のある人間は死なずに済んだが、進化した病には打ち勝つことが出来なかった。

 新しい特効薬だってまだ作れていない。
 罹ったら最後。死ぬのを待つことしか出来ない文字通り死の病に、なす術がなかった。

 一部の人間以外は。



「ぐぬぬ……薬は……薬はまだ出来ないのか!?」

 今日も国王陛下は怒鳴り散らしている。
 急かしたところで薬なんて出来ない。そんなことも分からないのか。
 分からないだろうな。プレッシャーに耐え切れず、自ら命を絶った医官もいるのに。

 城内でも、病を発症した人間が何人もいる。
 使用人はそのまま城から追い出して、国王陛下が必要だと判断した人間には僅かに残っていたエステルたちの薬を飲ませてみた。
 奴らはクロード王子のように熱を出して苦しんだが、一週間後には容態が安定した。
 変異した病にも特効薬は有効だった。

 その事実に、国王陛下もようやく自分が間違っていたと気付き始めたらしい。
 エステルたちが作った薬の材料を調べろと言い出した。
 そんなもの、この国は残されていない。
 恐らく数ヶ月前、イヴァーノたちがやって来た際に持って行った手記。あそこに細かい精製方法が書かれていたのだと思う。

「私は……くそっ! 何故私がエステルたちを捕らえろと言った時、誰も止めようとしなかったのだ!!」

 叫ぶ国王陛下に言葉を返す家臣は誰もいなかった。
 俺も無言で俯いていた。
 父上も母上も病で死んだ。特効薬は残りあと一人分しか残っていないので、使わせてもらえなかった。
 たった一人残された俺が父上の仕事を引き継ぐことになった。

 家族もナデ―ジュ王女ももういない。
 何で俺は生きているのだろう……。

「へ、陛下、エレイナ様の容態ですが昨晩に比べて悪化しておりまして……やはり、薬を……」
「ならぬ! 最後の一本は私のためにとっておけ! 女はいくらでも替えが利くが、王はこの私だけなのだぞ!?」

 エレイナ王妃陛下が病で苦しんでいるというのに、最後の特効薬を飲ませようとしない。
 このままいけば王妃陛下も数日以内に死ぬ。
 俺もいつ病に罹るか……そう思っていると、隣国アリシュラからの来訪者が登城したと報せが入った。

 アリシュラから特効薬を貰える最後のチャンスかもしれない。
 そう思い、皆が表情を硬くする。
 国王陛下だけは「あ、あんな奴ら……!」と謁見を渋っていたが、大臣たちが必死に宥めた。


 そして謁見の間にアリシュラ兵たちに囲まれながら、その客人は現れた。
 黒いフードを被った不気味な人物。

「お久しぶりでございますね、国王陛下」

 聞き覚えのある声。
 俺も、国王陛下も、いやその場にいた全員が言葉を失った。

「随分と顔色が悪いようですが、いかがなさいましたか?」

 顔を隠していたフードを外し、エステルはたおやかに微笑んだ。


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