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11.隠蔽(ブノワ視点)

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 ナデ―ジュ王女が泣きながら俺の部屋に飛び込んで来た。
 いつも優雅に微笑んでいる彼女が一体どうしたのだろう……と思っていたが、話を聞いて俺は怒りで頭が沸騰しそうになった。

「あのイヴァーノとかいう男……最低な人です! この私にはブノワ様という素晴らしい方がいるのに、下心で自分に近付くなと仰ったのですよ!?」
「本当にそう言ったのですか、その男……!」
「ええ。他の医官たちも私を汚物を見るような目で……思い出すだけで辛くて胸が張り裂けそうです」

 俺の婚約者になんてことを。
 俺はすぐさまイヴァーノたちに抗議しに行こうとして、我に返った。
 奴らは今、どこにいるのだろう。そもそもうちの国に来ていることを、俺はたった今知ったばかりだ。

 廊下を歩いていた文官に聞いてみれば、何と国王陛下を激怒させて城から追い出されたらしい。
 ナデ―ジュの次は陛下か!
 どれだけ失礼な連中なんだと呆れながら、俺はうちの医官たちへ会いに行くことにした。
 イヴァーノが何を言って陛下を怒らせたのか気になるからな。


 そして信じられない話を立ち聞きしてしまった。
 エステルの薬でクロード王子の病が治った……つまりそういうことだろ?

「ブ、ブノワ様……これはその……」

 モーリスが何か言おうとしているが、上手い言葉が何も思い付かないようだ。
 俺はモーリスへと駆け寄り、奴の胸倉を掴んで問い質した。

「はっきりと言え! 今の話は何だ!?」
「な……何でもありません! エステルたちの薬は何の効果もありませんでした!」

 モーリスは震える声で叫ぶように答えた。
 が、その場しのぎの嘘だと、奴の表情が物語っている。

「……正直に話せ。嘘を付くようならこのことを城の者たちに言い触らすぞ。いいのか!?」

 俺がそう脅すと、モーリスたちは観念して謁見の間での出来事を全て話した。
 俺はそれを聞きながら、胃の中身が喉までせり上がっているのを感じていた。

「モーリス……お前たちはクロード王子が回復したのがエステルたちのおかげだと考えているのか?」
「……まだ自然回復した可能性も残されていますが」

 ただモーリスや他の医官たちの絶望的な表情を見る限りは……。
 俺は口内から搾り取った唾液を一気に飲み干し、吐きそうになるのをどうにか堪えた。

 エステルたちはクロード王子を救ったのに、罪人として全員殺された。
 国王陛下は間違っていたのだ。イヴァーノに激怒するばかりで、そんなことを考えようともしないが。

「どうするんだよ……」

 この事実が公になったとしたら。想像するだけで恐ろしい。
 俺はエステルの処刑日に会ったクロード王子の姿を思い返す。

 あの男の言っていたことは正しかったのだ。
 だが誰もその言葉に耳を傾けようとしなかった。
 実父である国王陛下ですらも。

 あの日、エステルを救うために処刑場まで向かおうとしたクロード王子は憲兵に捕らえられ、「病への恐怖」が原因で正気を失っていると医官から診断を受けていた。
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