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8.謁見(医官長モーリス視点)

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 隣国アリシュラから来訪したイヴァーノたちに、我々医官たちは頬を緩ませた。
 例の流行り病は、アリシュラでも広まっていると聞く。
 特効薬を開発中とのことなので、共同で研究を進めていかないかと打診する予定だ。

 エステルを中心とした前の医官どもが作った特効薬は失敗作だった。
 それを踏まえて精製した薬の臨床試験も現在行っている最中。
 アリシュラにもその薬のデータを教えてやり、恩を売っておいて損はない。


 陛下との謁見には、我々も立ち会うこととなった。
 私自らが申し出たのだが、陛下は快く了承してくださった。

「モーリスよ、私も新しい王宮医官となったそなたたちを紹介したいのでな」
「あ、ありがたきお言葉でございます……!」

 我々はエステルたちのようにはならない。



 時間となり、イヴァーノを始めとするアリシュラの王宮医官たちが謁見の間に現れた。
 私たちは笑顔で出迎えようとしたが、彼らの様子がおかしいことに気付き、頬を引き攣らせた。

 全員何やら不機嫌そうに眉を顰めているのだ。
 隣国の国王に対して何だ、その顔は。
 これには国王陛下も片眉を上げていた。その様子に私はまずいと冷や汗を掻く。

 陛下は感情の起伏が激しい方だ。
 少しでも相手が気に食わない態度を取れば、たとえ他国から訪れた賓客だとしても声を荒らげる。
 アリシュラの医官とのパイプを持っておきたい我々としては、避けたい事態である。

「よ、ようこそおいでくださいました。わたくしは医官長のモーリスという者です。あなた方のお越しをお待ちしておりましたぞ!」

 私は無理矢理作った笑みでイヴァーノたちを歓迎する言葉を発した。
 すると陛下も釣られるように笑顔を見せた。

「う、うむ、特にイヴァーノ。そなたとはもう一度会いたいと考えていたのだ」
「……私と、でございますか?」

 イヴァーノが奇異の眼差しを陛下に向けた。

「そなたは医学、薬学ともに豊富な知識を有しているだけでなく、容姿端麗な男だ。我が娘、ナデ―ジュも一目会いたいと口癖のように申していたのだ」
「……私はただの医官に過ぎません。ナデ―ジュ王女のお眼鏡に叶う男ではありませんよ」
「ほっほっほ、そう謙遜するでない!」

 イヴァーノの自身を卑下するような物言いのおかげで、陛下の機嫌も元に戻った。
 ふくよかな体を揺らして愉快そうに笑っている。

「それで今回の訪問した理由についてだが……エステルたちの作った薬の件についてだったか?」
「はい。クロード王子が服薬したそうですが、その余りがまだあるはずです。私たちはそれを回収するために参りました」
「む……廃棄しておらぬのか、モーリスよ」
「え、ええ。新たな特効薬はあの失敗作を参考に精製したものですから……」

 だが試作薬がまだ残っていると何故彼らが知っているのか。
 訝しんでいると、イヴァーノは懐から一枚の手紙を取り出した。

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