5 / 22
5.執行(ブノワ視点)
しおりを挟む
醜い化物のような姿となったエステルの処刑は、予定通り執行された。
首に縄をかけられると激しく抵抗し、執行官たちに殴る蹴るの暴行を受けていたが。
縄で首を吊るされ、数分ほどもがき苦しんだ後エステルは絶命した。
死体から滴り落ちる液体は奴の体液だろうか。
民衆は鼻を摘まみながらゲラゲラと笑っていた。
原因不明、治療法もない病が流行するこのご時世、罪人の処刑は一種の娯楽だ。
悪人が苦しむ姿を見て愉しむ。
自分がそいつに何かされたわけでもないくせに、勝手に怒って、そいつが断罪される瞬間を待っている。
綺麗なものより汚いものを好むのが、人間の本質なんだよな。
エステルの死体が下ろされる頃には、皆満足げな表情で去って行った。
「やっとエステルが死んだのですね! ああ、これで一安心です!」
ナデ―ジュ王女に報告すると、彼女は頬を薔薇色に染めて喜んだ。
万が一処刑が中止になる恐れは最後まであった。
クロード王子が色々騒いでいたしな。
だがエステルはちゃんと死んでくれた!
新しい医官も皆優秀だと聞く。
困ることは何一つない。
「よし、では一週間後に私たちの婚約を発表しましょう」
「本当は今すぐ私とブノワ様は愛し合っていると公表したいのですけれど……」
「楽しみは後にとっておきましょう。ね?」
「ええ、ブノワ様」
ナデ―ジュ王女と微笑み合う。するとそこへ一人の文官が現れた。
「ブノワ様、お時間よろしいでしょうか?」
「……何か?」
咄嗟に王女から離れようとはせず、このままの状態で問いかける。
ここで慌てて距離を取ると、かえって怪しまれてしまう。
「実は……エステルの遺書が見つかりました」
文官の言葉に俺は言葉が出なかった。
エステルの遺書は紙ではなく、牢屋の壁に血文字で書かれたものだった。
蝋燭の一本も置かれていない牢の中は薄暗く、見張りの兵も気付かなかったようだ。
あの女が残した最後の言葉なんて興味なかったし、これからナデージュ王女とおやつのケーキを食べる予定もある。
エステルの婚約者だったという理由だけで、ここに連れて来られた。
ああ、やってられるか。糞便と血の臭いの残る牢屋から一刻も早く立ち去りたい。
「こちらです……」
文官が蝋燭で壁を照らす。
変色した血で短い言葉が残されていた。
『私はあなたを恨みません』とだけ。
この『あなた』が誰を指しているのだろう。
もしかしたら俺のことか?
別に恨まれようと知ったこっちゃないんだがな。
俺は両手で顔を覆い、悲しむ振りをしてから牢屋を出た。
その一週間後、俺はナデージュ王女との婚約を発表。
国王陛下と王妃陛下からも認められた。
俺はエステルの婚約者だったが、エステルの処刑を密かに支持していたからな。
そういう姿勢を陛下たちに気に入られたのだ。
これで晴れて俺も王族の仲間入りだな……。
首に縄をかけられると激しく抵抗し、執行官たちに殴る蹴るの暴行を受けていたが。
縄で首を吊るされ、数分ほどもがき苦しんだ後エステルは絶命した。
死体から滴り落ちる液体は奴の体液だろうか。
民衆は鼻を摘まみながらゲラゲラと笑っていた。
原因不明、治療法もない病が流行するこのご時世、罪人の処刑は一種の娯楽だ。
悪人が苦しむ姿を見て愉しむ。
自分がそいつに何かされたわけでもないくせに、勝手に怒って、そいつが断罪される瞬間を待っている。
綺麗なものより汚いものを好むのが、人間の本質なんだよな。
エステルの死体が下ろされる頃には、皆満足げな表情で去って行った。
「やっとエステルが死んだのですね! ああ、これで一安心です!」
ナデ―ジュ王女に報告すると、彼女は頬を薔薇色に染めて喜んだ。
万が一処刑が中止になる恐れは最後まであった。
クロード王子が色々騒いでいたしな。
だがエステルはちゃんと死んでくれた!
新しい医官も皆優秀だと聞く。
困ることは何一つない。
「よし、では一週間後に私たちの婚約を発表しましょう」
「本当は今すぐ私とブノワ様は愛し合っていると公表したいのですけれど……」
「楽しみは後にとっておきましょう。ね?」
「ええ、ブノワ様」
ナデ―ジュ王女と微笑み合う。するとそこへ一人の文官が現れた。
「ブノワ様、お時間よろしいでしょうか?」
「……何か?」
咄嗟に王女から離れようとはせず、このままの状態で問いかける。
ここで慌てて距離を取ると、かえって怪しまれてしまう。
「実は……エステルの遺書が見つかりました」
文官の言葉に俺は言葉が出なかった。
エステルの遺書は紙ではなく、牢屋の壁に血文字で書かれたものだった。
蝋燭の一本も置かれていない牢の中は薄暗く、見張りの兵も気付かなかったようだ。
あの女が残した最後の言葉なんて興味なかったし、これからナデージュ王女とおやつのケーキを食べる予定もある。
エステルの婚約者だったという理由だけで、ここに連れて来られた。
ああ、やってられるか。糞便と血の臭いの残る牢屋から一刻も早く立ち去りたい。
「こちらです……」
文官が蝋燭で壁を照らす。
変色した血で短い言葉が残されていた。
『私はあなたを恨みません』とだけ。
この『あなた』が誰を指しているのだろう。
もしかしたら俺のことか?
別に恨まれようと知ったこっちゃないんだがな。
俺は両手で顔を覆い、悲しむ振りをしてから牢屋を出た。
その一週間後、俺はナデージュ王女との婚約を発表。
国王陛下と王妃陛下からも認められた。
俺はエステルの婚約者だったが、エステルの処刑を密かに支持していたからな。
そういう姿勢を陛下たちに気に入られたのだ。
これで晴れて俺も王族の仲間入りだな……。
85
お気に入りに追加
3,672
あなたにおすすめの小説
婚約破棄をしてきた婚約者と私を嵌めた妹、そして助けてくれなかった人達に断罪を。
しげむろ ゆうき
恋愛
卒業パーティーで私は婚約者の第一王太子殿下に婚約破棄を言い渡される。
全て妹と、私を追い落としたい貴族に嵌められた所為である。
しかも、王妃も父親も助けてはくれない。
だから、私は……。
【完結】私を裏切った最愛の婚約者の幸せを願って身を引く事にしました。
Rohdea
恋愛
和平の為に、長年争いを繰り返していた国の王子と愛のない政略結婚する事になった王女シャロン。
休戦中とはいえ、かつて敵国同士だった王子と王女。
てっきり酷い扱いを受けるとばかり思っていたのに婚約者となった王子、エミリオは予想とは違いシャロンを温かく迎えてくれた。
互いを大切に想いどんどん仲を深めていく二人。
仲睦まじい二人の様子に誰もがこのまま、平和が訪れると信じていた。
しかし、そんなシャロンに待っていたのは祖国の裏切りと、愛する婚約者、エミリオの裏切りだった───
※初投稿作『私を裏切った前世の婚約者と再会しました。』
の、主人公達の前世の物語となります。
こちらの話の中で語られていた二人の前世を掘り下げた話となります。
❋注意❋ 二人の迎える結末に変更はありません。ご了承ください。
幼馴染の親友のために婚約破棄になりました。裏切り者同士お幸せに
hikari
恋愛
侯爵令嬢アントニーナは王太子ジョルジョ7世に婚約破棄される。王太子の新しい婚約相手はなんと幼馴染の親友だった公爵令嬢のマルタだった。
二人は幼い時から王立学校で仲良しだった。アントニーナがいじめられていた時は身を張って守ってくれた。しかし、そんな友情にある日亀裂が入る。
妹に婚約者を奪われ、屋敷から追放されました。でもそれが、私を虐げていた人たちの破滅の始まりでした
水上
恋愛
「ソフィア、悪いがお前との婚約は破棄させてもらう」
子爵令嬢である私、ソフィア・ベルモントは、婚約者である子爵令息のジェイソン・フロストに婚約破棄を言い渡された。
彼の隣には、私の妹であるシルビアがいる。
彼女はジェイソンの腕に体を寄せ、勝ち誇ったような表情でこちらを見ている。
こんなこと、許されることではない。
そう思ったけれど、すでに両親は了承していた。
完全に、シルビアの味方なのだ。
しかも……。
「お前はもう用済みだ。この屋敷から出て行け」
私はお父様から追放を宣言された。
必死に食い下がるも、お父様のビンタによって、私の言葉はかき消された。
「いつまで床に這いつくばっているのよ、見苦しい」
お母様は冷たい言葉を私にかけてきた。
その目は、娘を見る目ではなかった。
「惨めね、お姉さま……」
シルビアは歪んだ笑みを浮かべて、私の方を見ていた。
そうして私は、妹に婚約者を奪われ、屋敷から追放された。
途方もなく歩いていたが、そんな私に、ある人物が声を掛けてきた。
一方、私を虐げてきた人たちは、破滅へのカウントダウンがすでに始まっていることに、まだ気づいてはいなかった……。
妹を叩いた?事実ですがなにか?
基本二度寝
恋愛
王太子エリシオンにはクアンナという婚約者がいた。
冷たい瞳をした婚約者には愛らしい妹マゼンダがいる。
婚約者に向けるべき愛情をマゼンダに向けていた。
そんな愛らしいマゼンダが、物陰でひっそり泣いていた。
頬を押えて。
誰が!一体何が!?
口を閉ざしつづけたマゼンダが、打った相手をようやく口にして、エリシオンの怒りが頂点に達した。
あの女…!
※えろなし
※恋愛カテゴリーなのに恋愛させてないなと思って追加21/08/09
素顔を知らない
基本二度寝
恋愛
王太子はたいして美しくもない聖女に婚約破棄を突きつけた。
聖女より多少力の劣る、聖女補佐の貴族令嬢の方が、見目もよく気もきく。
ならば、美しくもない聖女より、美しい聖女補佐のほうが良い。
王太子は考え、国王夫妻の居ぬ間に聖女との婚約破棄を企て、国外に放り出した。
王太子はすぐ様、聖女補佐の令嬢を部屋に呼び、新たな婚約者だと皆に紹介して回った。
国王たちが戻った頃には、地鳴りと水害で、国が半壊していた。
【完結】愛してなどおりませんが
仲村 嘉高
恋愛
生まれた瞬間から、王妃になる事が決まっていたアメリア。
物心がついた頃には、王妃になる為の教育が始まった。
父親も母親も娘ではなく、王妃になる者として接してくる。
実兄だけは妹として可愛がってくれたが、それも皆に隠れてコッソリとだった。
そんなある日、両親が事故で亡くなった同い年の従妹ミアが引き取られた。
「可愛い娘が欲しかったの」
父親も母親も、従妹をただただ可愛いがった。
婚約者である王太子も、婚約者のアメリアよりミアとの時間を持ち始め……?
※HOT最高3位!ありがとうございます!
※『廃嫡王子』と設定が似てますが、別のお話です
※またやっちまった、断罪別ルート。(17話から)
どうしても決められなかった!!
結果は同じです。
(他サイトで公開していたものを、こちらでも公開しました)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる