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3.処刑当日(ブノワ視点)

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 そして迎えた処刑当日。
 城下町の広場には絞首台が設置されていた。
 周囲を取り囲む野次馬たちは、罪人の到着を今か今かと待ち侘びていた。

「とっととエステルを連れてこーい! どうせ今日中には殺しちまうんだ! だったらさっさとっちまえ!」
「王子殺しの悪女なんて死んで当然よ!」
「おうじさまかわいそー! おうじさまをころそうとしたひとなんてしんじゃえ!」

 大人だけでなく、子供までもがエステルを罵倒している。
 最高の景色に、俺は口角が吊り上がるのを必死に押さえていた。
 公式上では、まだ俺とエステルは婚約者ということになっている。
 ここで俺が声を上げて笑うのは流石にイメージが悪いだろう。

 それにしても、平民たちからの嫌われっぷりがすごいな。
 これは後ほど分かったことだが、新聞社は王宮医官に批難する記事を連日書き続けたらしい。

 高い給料を貰っているくせに、患者を救えない役立たず集団。
 自分たちの待遇を不満に思い、王子暗殺を試みた犯罪者ども。
 エステルに至っては王子を誑かそうとしたが、失敗してその腹いせに毒を飲ませたなんて記事が出た。
 そのおかげでエステルは今や、国内一の嫌われ者だ。
 あの女を庇おうとする奴なんて一人もいない。

「しかし、暇だな……」

 エステルの最期を見届けるために絞首台に待機していたが、来るのが少し早すぎたかもしれない。
 俺は一旦城に戻ることにした。ナデージュ王女の顔も見たい。昨晩は盛り上がりすぎて、少し無理をさせてしまったかもしれないし……。

「すみません父上、一度城に戻ります」
「ああ……大丈夫か?」

 隣にいた父上は、案じるような眼差しを俺に向けた。
 俺がエステルの処刑に心を痛めていると思い込んでいるらしい。
 そんなわけないだろ、大はしゃぎだ。心の中で嘲笑いながら俺は広場から離れ、城に戻った。

 何やら騒がしい。
 ん? あの御方は……。

「エステルを処刑!? そんなもの今すぐ取り止めろ!!」
「こ、これは国王陛下直々のご命令です。撤回することは出来ません」
「父上……くそっ、他の医官たちも拷問で殺したなんて何と愚かなことを……」

 刑の執行人の胸ぐらを掴んだまま項垂れる若い男。
 熱が下がったとは聞いていたが、随分と元気そうだ。
 ちゃんと挨拶はしておかないとな。俺は出来るだけ神妙な顔を作り、彼へ近付いた。

「クロード王子、どうなさいました?」
「……君はエステルの婚約者か」

 振り向いたクロード王子の顔は蒼白になっていた。
 体もまだふらついている。
 早く部屋に戻った方がいいと進言しようとした俺だったが──、

「何が『どうなさいました』だ! エステルが処刑されようとしているのに、何故平然としている!?」

 血走った目で怒鳴られてしまった。

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