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2.ブノワの思惑(ブノワ視点)

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 俺が地下牢獄から戻ると、背後から誰かに抱き着かれた。
 嗅ぎ慣れた香水の甘い香り。
 振り向くと柔らかな微笑を浮かべる王女の姿があった。

「おかえりなさいませ、ブノワ様」
「ただいま帰りました、ナデージュ様」

 言葉を交わし、口付けを交わす。
 周囲には誰もいないことは確認済みだ。
 絶世の美女と謳われる彼女の唇を存分に貪る。

「ふふ……随分と激しいですねブノワ様」
「エステルの醜い姿を見て心が疲弊しているのです。どうか私を癒してください」
「はい。私はブノワ様の将来の妻ですもの」

 可愛いことを言ってくれる。
 俺はナデージュ王女を連れて自室に戻った。
 その様子を目撃したメイドが驚いた表情を見せるが、口外されることはないはずだ。
 大臣の息子と若き王女の逢瀬。そんなものを言い触らせば、彼女の立場は危ういものとなる。

「それで? エステルの様子はどうでした? みっともなくブノワ様に縋り付きましたか?」
「涙は流していませんでしたが、私が処刑に関する話をするとこの世の終わりのような顔で体を震わせていました。それからとにかく臭い臭い! 鼻が曲がりそうでした」
「風呂にも入らせてもらえず、排泄も牢屋の隅で行っているそうですからね。ああ、私と同じ歳なのに可哀想」

 ナデージュ王女は肩を揺らして笑った。
 エステルに憐憫の情など抱いていないのだ。むしろ面白がっているように見える。
 それでこそ俺が本当に愛する女性だ。
 あんな汚物を哀れむ必要なんてないのだから。

「ところでクロード王子は? 王族と新たに配属された医官以外会うことを許されていないと聞きましたが」
「クロード兄様なら熱が下がり始めています。ですが、どうせ長くはありませんね。変な薬を飲まされただけで病気は治っていないようですし?」

 どこか他人事のような物言いだ。
 そういえばナデージュ王女は、クロード王子を嫌っているんだったか。
 勉強嫌いで、家庭教師を自室に入れようとしないのを咎められたとかで。
 別に政治に大きく関わるわけでもないから、王女に勉学なんて必要ないだろうと俺は思う。
 そんなことで時間を潰すくらいなら、こうして俺と一緒にいてくれた方が嬉しいし。

 ただクロード王子には感謝しないとな。
 あの人が例の病気に罹ったせいで、エステルは罪人になったようなものだ。
 臨床試験を終えていないと分かっていながら息子に服薬させ、体調が悪化すると医官たちに全責任を押し付けた国王の浅はかさにはびっくりだが、おかげで邪魔者を消すことが出来る。

 親の決めた結婚相手が医官なんて冗談じゃない!
 結婚するなら頭も股も緩い美人だろ。
 その点、ナデージュ王女は理想的だった。

 ああ、エステルが処刑される明後日が待ち遠しい。
 
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