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最終話(???視点)
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二十年前、ローラス侯爵家という名家があった。
僕は当時の当主と、その愛妾の間に生まれた子供だったらしい。母さんによると、僕は上手くいけば家督を継ぐ予定だったという。
「だけど上手くいなかったんでしょ?」と尋ねると、母さんは「まあ、そうなんだけどね」と笑って答えた。
詳細は割愛するが、僕が生まれた事情は結構複雑だった。そしてとんでもない両親だったのだな、と少し怖くなった。
彼らの血が僕にも流れている。いつか僕も、同じような過ちを犯すのではないか。そんな恐ろしい想像をしていると、母さんが優しく笑って言った。
「大丈夫よ。あなたは優しい子だもの」
長い歴史を持つローラス侯爵家の終焉は、哀れなものだった。
ローラスの爵名はまだ現存している。ただし、一代限りの男爵家としてだ。
まず、愛妾の起こした事件により、正妻への壮絶な仕打ちも明るみとなった。社交界は煌びやかな名家の醜聞で持ちきりとなり、事態を重く見た国王陛下は降爵処分を下した。
広大な領地は没収され、残されたのは僅かな土地のみ。
おまけに被害者に対して、多額の慰謝料の支払いが命じられ、財産も失った。
僕の母であり愛妾だった女性は終身刑となり、今も服役している。精神に異常をきたし、自分は侯爵夫人と思い込んでいるらしい。
使用人たちは互いに責任を押し付け合い、正妻の元侍女が刺殺される事件にまで発展した。
先代侯爵夫妻は、自殺に追い込まれている。降爵処分に絶望した夫人が、先代を道連れに毒を飲んだらしい。
ちなみに夫人は、男爵家の出身だったそうだ。だから息子の嫁に同族嫌悪を抱いていたという噂がある。
僕の父であり当主は、ローラス男爵としてひっそりと暮らしている。長年の心労が祟ったのか、かつての美貌は見る影もないという。
そして僕は男爵家から引き離され、平民の夫婦に引き取られた。
初めは愛妾の両親が育てると主張したが、ローラス家が男爵となった途端、手の平を返したのだ。その振る舞いが高位貴族たちの反感を買い、数年前に潰されたと聞く。
多くの人々が守ろうとしたローラス家に残ったのは、陰惨な結末だけだった。
僕たちが暮らす領地を治めているのは、女性の公爵様だ。美しく聡明で、多くの民から慕われている。
彼女には息子が二人いるらしいが、一人は平民の女性と結婚して、どこかで暮らしているという。
噂によれば大の愛妻家で、彼女と少しでも一緒に過ごしたいがために、在宅経理の仕事に就いたのだとか。
「ねえ、あそこの喫茶店でお茶でも飲まない? 美味しいって評判なのよ」
「うん、そうしようか」
近頃出来た恋人と一緒に店へ入ろうとすると、正面から一組の男女が歩いてくるのが見えた。
仲睦まじそうに微笑み合っている。男性の方は整った顔立ちをしていて、目元が公爵様に似ている気がする。
そして女性の左薬指では、シルバーリングが輝いていた。
「ああいう人たちみたいになりたいな」
恋人が二人の後ろ姿を見ながら、ぽつりと呟く。
「なりたいんじゃなくて、なるんだよ」
そう言いながら、彼女の手を繋ぐ。血や遺伝子なんて関係ない。僕は大好きな人を慈しみ、愛していくんだ。
僕は当時の当主と、その愛妾の間に生まれた子供だったらしい。母さんによると、僕は上手くいけば家督を継ぐ予定だったという。
「だけど上手くいなかったんでしょ?」と尋ねると、母さんは「まあ、そうなんだけどね」と笑って答えた。
詳細は割愛するが、僕が生まれた事情は結構複雑だった。そしてとんでもない両親だったのだな、と少し怖くなった。
彼らの血が僕にも流れている。いつか僕も、同じような過ちを犯すのではないか。そんな恐ろしい想像をしていると、母さんが優しく笑って言った。
「大丈夫よ。あなたは優しい子だもの」
長い歴史を持つローラス侯爵家の終焉は、哀れなものだった。
ローラスの爵名はまだ現存している。ただし、一代限りの男爵家としてだ。
まず、愛妾の起こした事件により、正妻への壮絶な仕打ちも明るみとなった。社交界は煌びやかな名家の醜聞で持ちきりとなり、事態を重く見た国王陛下は降爵処分を下した。
広大な領地は没収され、残されたのは僅かな土地のみ。
おまけに被害者に対して、多額の慰謝料の支払いが命じられ、財産も失った。
僕の母であり愛妾だった女性は終身刑となり、今も服役している。精神に異常をきたし、自分は侯爵夫人と思い込んでいるらしい。
使用人たちは互いに責任を押し付け合い、正妻の元侍女が刺殺される事件にまで発展した。
先代侯爵夫妻は、自殺に追い込まれている。降爵処分に絶望した夫人が、先代を道連れに毒を飲んだらしい。
ちなみに夫人は、男爵家の出身だったそうだ。だから息子の嫁に同族嫌悪を抱いていたという噂がある。
僕の父であり当主は、ローラス男爵としてひっそりと暮らしている。長年の心労が祟ったのか、かつての美貌は見る影もないという。
そして僕は男爵家から引き離され、平民の夫婦に引き取られた。
初めは愛妾の両親が育てると主張したが、ローラス家が男爵となった途端、手の平を返したのだ。その振る舞いが高位貴族たちの反感を買い、数年前に潰されたと聞く。
多くの人々が守ろうとしたローラス家に残ったのは、陰惨な結末だけだった。
僕たちが暮らす領地を治めているのは、女性の公爵様だ。美しく聡明で、多くの民から慕われている。
彼女には息子が二人いるらしいが、一人は平民の女性と結婚して、どこかで暮らしているという。
噂によれば大の愛妻家で、彼女と少しでも一緒に過ごしたいがために、在宅経理の仕事に就いたのだとか。
「ねえ、あそこの喫茶店でお茶でも飲まない? 美味しいって評判なのよ」
「うん、そうしようか」
近頃出来た恋人と一緒に店へ入ろうとすると、正面から一組の男女が歩いてくるのが見えた。
仲睦まじそうに微笑み合っている。男性の方は整った顔立ちをしていて、目元が公爵様に似ている気がする。
そして女性の左薬指では、シルバーリングが輝いていた。
「ああいう人たちみたいになりたいな」
恋人が二人の後ろ姿を見ながら、ぽつりと呟く。
「なりたいんじゃなくて、なるんだよ」
そう言いながら、彼女の手を繋ぐ。血や遺伝子なんて関係ない。僕は大好きな人を慈しみ、愛していくんだ。
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