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十六話(セドリック視点)
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エリーゼに拒絶された後、私はどうやって屋敷に帰ってきたのだろう。気が付くと、自室の椅子に腰かけていた。
ぼんやりと天井を見上げると、エリーゼの顔が浮かぶ。
いつも寂しそうに笑っていた最愛の人。
私は彼女を守る方法を間違っていた。いや、そもそも守ってすらいなかった。彼女を追い詰めて、自分の罪から逃げていただけじゃないか。
あのクリスという男が告げられた言葉が、いつまでも頭の中で焼き付いて離れない。
奴とエリーゼは、昨夜出会ったばかりの赤の他人だという。そんな男の家に身を寄せるなんて、とエリーゼの軽率さに呆れと怒りを覚えたのは確かだ。
だが、そのような行動に出るほど、あの時の彼女は前後不覚だったのだろう。
そしてエリーゼの選択は正しかったのだ。
クリスは、本心からエリーゼを気にかけていた。
奴がとんでもない悪人ならよかったのに、と心のどこかで思う私がいる。
そうして恐ろしい目に遭えば、きっとエリーゼも私を頼ってくれた。
そんな有り得ない未来ばかり、夢想してしまう。
もうエリーゼのことは忘れるんだ。
彼女は、既に私の手に届かない場所に行ってしまったのだから。
溜まっていた仕事をしなければ。ふらつきながら立ち上がり、部屋を出る。
「セドリック様、エリーゼを迎えに行っていたの?」
その時、使用人たちの話し声が聞こえた。内容が気になり、息を潜めて会話に耳を澄ませる。
「でも、一人で帰ってきたってことは嫌がられたんでしょ?」
「当たり前よ。あの女が今さら帰って来るわけないもの」
「そうよね。また私たちに虐められるだけだし」
……何だと?
「お前たち、今の話は何だ」
「セ、セドリック様!?」
「今のは、その……!」
私に気付いたメイド二人が目を泳がせながら、必死に弁解しようとする。
だが私が聞きたいのは、言い訳ではない。
「もう一度聞くぞ。今の話は何だ?」
「何のことでしょうか?」
「セドリック様は何か勘違いされているようで……」
「主である私を欺くつもりなら、私にも考えがあるぞ。いいのだな?」
怒りを込めて睨み付けると、一人が「す、全てお話いたします。ですから、どうかお許しください」と頭を下げた。
この女は低位貴族ですらない平民だ。私に逆らえば、ローラス領では生きていけないと理解していた。
だが、もう一人のメイドは未だに沈黙を続けていた。罪の発覚を恐れるその姿は、かつての自分を見ているようで吐き気がする。
だからこそ、許してはならないと思った。
「主に不敬を働いたとして、貴様を処罰する」
その後、とんでもない事実が発覚した。
シンシアと使用人が共謀し、エリーゼを陥れて、孤立させていたのだ。
ぼんやりと天井を見上げると、エリーゼの顔が浮かぶ。
いつも寂しそうに笑っていた最愛の人。
私は彼女を守る方法を間違っていた。いや、そもそも守ってすらいなかった。彼女を追い詰めて、自分の罪から逃げていただけじゃないか。
あのクリスという男が告げられた言葉が、いつまでも頭の中で焼き付いて離れない。
奴とエリーゼは、昨夜出会ったばかりの赤の他人だという。そんな男の家に身を寄せるなんて、とエリーゼの軽率さに呆れと怒りを覚えたのは確かだ。
だが、そのような行動に出るほど、あの時の彼女は前後不覚だったのだろう。
そしてエリーゼの選択は正しかったのだ。
クリスは、本心からエリーゼを気にかけていた。
奴がとんでもない悪人ならよかったのに、と心のどこかで思う私がいる。
そうして恐ろしい目に遭えば、きっとエリーゼも私を頼ってくれた。
そんな有り得ない未来ばかり、夢想してしまう。
もうエリーゼのことは忘れるんだ。
彼女は、既に私の手に届かない場所に行ってしまったのだから。
溜まっていた仕事をしなければ。ふらつきながら立ち上がり、部屋を出る。
「セドリック様、エリーゼを迎えに行っていたの?」
その時、使用人たちの話し声が聞こえた。内容が気になり、息を潜めて会話に耳を澄ませる。
「でも、一人で帰ってきたってことは嫌がられたんでしょ?」
「当たり前よ。あの女が今さら帰って来るわけないもの」
「そうよね。また私たちに虐められるだけだし」
……何だと?
「お前たち、今の話は何だ」
「セ、セドリック様!?」
「今のは、その……!」
私に気付いたメイド二人が目を泳がせながら、必死に弁解しようとする。
だが私が聞きたいのは、言い訳ではない。
「もう一度聞くぞ。今の話は何だ?」
「何のことでしょうか?」
「セドリック様は何か勘違いされているようで……」
「主である私を欺くつもりなら、私にも考えがあるぞ。いいのだな?」
怒りを込めて睨み付けると、一人が「す、全てお話いたします。ですから、どうかお許しください」と頭を下げた。
この女は低位貴族ですらない平民だ。私に逆らえば、ローラス領では生きていけないと理解していた。
だが、もう一人のメイドは未だに沈黙を続けていた。罪の発覚を恐れるその姿は、かつての自分を見ているようで吐き気がする。
だからこそ、許してはならないと思った。
「主に不敬を働いたとして、貴様を処罰する」
その後、とんでもない事実が発覚した。
シンシアと使用人が共謀し、エリーゼを陥れて、孤立させていたのだ。
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