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十四話(セドリック視点)
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両親や使用人は、私がエリーゼを選ぼうとしていることを知ると猛反発した。
予想はしていたことだ。いや……正直言えば、ここまで言われるとは想像していなかった。
金や権力に目が眩んだわけではない。ただエリーゼを愛して、求めただけなのに。
自分は、そこらの貴族よりもよほど高潔だと思っていた。なのに「恋に狂った」だの「家督を継がせるのはまだ早かった」だのと陰口を叩かれる。
私はまだいい。だが、問題はエリーゼだ。
恐らく侯爵邸にやって来た彼女には、陰湿な仕打ちが待っているだろう。
使用人たちには私から厳しく言い付けるつもりだが、彼らの不満がいつ爆発するか分からない。
その時のために、エリーゼに強くなって欲しかった。
だから私は、彼女を冷たく扱うようにした。
今のうちに、人間の悪意に慣れさせる目的があった。
素っ気ない言動を繰り返し、冷たく突き放す。その度にエリーゼは寂しげな表情を見せたが、私も身が引き裂かれるような思いだった。
だが……今の優しいだけの彼女では、いずれ押し潰されてしまうだろう。
私なりの優しさだった。
そして結婚して暫く経った頃、エリーゼが子供を作れない体だと発覚した。
いや、正確に言えば私が作れない体にしたのかもしれない。
日頃のストレスが原因だろうと主治医に指摘され、目の前が真っ暗になった。
私の行為がエリーゼを傷付け、私たちから子供を奪ったのでは……
考えれば考えるほど、吐き気がした。さざ波のように罪悪感が押し寄せてくる。
今ならまだ治療が間に合うと告げる主治医に、私は首を横に振り、このことを口外しないように命じた。
情けない話だが、私がエリーゼを苦しめたと知られるのが怖かったのだ。
しかし、このまま子を作るわけにはいかない。
義母や使用人たちからの「エリーゼを屋敷から追い出せ」と無言の圧力を無視して、私は愛妾を用意した。
シンシア嬢を選んだのは、私の意思ではない。
孕み袋を探しているという噂を聞き付けた、彼女の父親に懇願されたから。
あの女が愛妾の立場で満足するのか疑問だったが、伯爵家から大金を差し出されると断れなかった。
そして子供が産まれ、エリーゼが消えた。
屋敷に出入りしていた商人が、いくつもの娼館と繋がっていると発覚し、血の気が引いた。
「貴様、エリーゼを娼館に売り飛ばしたのか」
「あんな小娘に、客なんて取れるわけねぇだろ。田舎町の酒場に送ったよ」
留置場に収容された商人は、そう言って鼻で笑った。
その言葉に激しい怒りを覚えたが、これでエリーゼを取り戻せる。
再会した時は、以前の癖でつい辛く当たってしまったが、ずっと心配していたんだ。
ごめん。すまない。申し訳ない。
今度こそ君を守ってみせるし、幸せにする。
だから一緒に帰ろう。
私は自分の想いを切々と語った。
そうすれば、エリーゼは必ず頷いてくれると信じていた。
「申し訳ありませんが、私はもう、あの屋敷には帰りません」
だから、まさか拒絶されるとは夢にも思わなかった。
予想はしていたことだ。いや……正直言えば、ここまで言われるとは想像していなかった。
金や権力に目が眩んだわけではない。ただエリーゼを愛して、求めただけなのに。
自分は、そこらの貴族よりもよほど高潔だと思っていた。なのに「恋に狂った」だの「家督を継がせるのはまだ早かった」だのと陰口を叩かれる。
私はまだいい。だが、問題はエリーゼだ。
恐らく侯爵邸にやって来た彼女には、陰湿な仕打ちが待っているだろう。
使用人たちには私から厳しく言い付けるつもりだが、彼らの不満がいつ爆発するか分からない。
その時のために、エリーゼに強くなって欲しかった。
だから私は、彼女を冷たく扱うようにした。
今のうちに、人間の悪意に慣れさせる目的があった。
素っ気ない言動を繰り返し、冷たく突き放す。その度にエリーゼは寂しげな表情を見せたが、私も身が引き裂かれるような思いだった。
だが……今の優しいだけの彼女では、いずれ押し潰されてしまうだろう。
私なりの優しさだった。
そして結婚して暫く経った頃、エリーゼが子供を作れない体だと発覚した。
いや、正確に言えば私が作れない体にしたのかもしれない。
日頃のストレスが原因だろうと主治医に指摘され、目の前が真っ暗になった。
私の行為がエリーゼを傷付け、私たちから子供を奪ったのでは……
考えれば考えるほど、吐き気がした。さざ波のように罪悪感が押し寄せてくる。
今ならまだ治療が間に合うと告げる主治医に、私は首を横に振り、このことを口外しないように命じた。
情けない話だが、私がエリーゼを苦しめたと知られるのが怖かったのだ。
しかし、このまま子を作るわけにはいかない。
義母や使用人たちからの「エリーゼを屋敷から追い出せ」と無言の圧力を無視して、私は愛妾を用意した。
シンシア嬢を選んだのは、私の意思ではない。
孕み袋を探しているという噂を聞き付けた、彼女の父親に懇願されたから。
あの女が愛妾の立場で満足するのか疑問だったが、伯爵家から大金を差し出されると断れなかった。
そして子供が産まれ、エリーゼが消えた。
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「あんな小娘に、客なんて取れるわけねぇだろ。田舎町の酒場に送ったよ」
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その言葉に激しい怒りを覚えたが、これでエリーゼを取り戻せる。
再会した時は、以前の癖でつい辛く当たってしまったが、ずっと心配していたんだ。
ごめん。すまない。申し訳ない。
今度こそ君を守ってみせるし、幸せにする。
だから一緒に帰ろう。
私は自分の想いを切々と語った。
そうすれば、エリーゼは必ず頷いてくれると信じていた。
「申し訳ありませんが、私はもう、あの屋敷には帰りません」
だから、まさか拒絶されるとは夢にも思わなかった。
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