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七話(シンシア視点)
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「エリーゼ様がご自分の意思で、この屋敷から出て行くように仕向けましょう」
エリーゼの侍女からの提案に、私は「分かったわ」と即答した。
あんな小娘、セドリック様に相応しくないもの。
セドリック様は私の夫になるはずだったの。
それなのに、エリーゼのせいで私の人生は滅茶苦茶になった。
だから、私にもエリーゼの人生を滅茶苦茶にする権利があるわ。
そう思って、あの小娘の私物を盗むように侍女に命じたり、世話をやめさせたりした。
その間に私はセドリック様の子を身籠り、激しい陣痛に苦しみながら出産した。とても辛かったけど、愛する人のためと思えば、耐えられた。
そしてエリーゼもどこかへ行って、残ったのは私だけ。
セドリック様も、私を正式に妻として迎えてくれると思ったのに……
「セドリック様、もう一ヶ月ですわ。諦めましょうよ」
「君こそ、何故いつまでもこの屋敷にいるんだ。用は済んだのだから、速やかに出て行け」
セドリック様はこちらに背を向けて、地図を睨み付けている。
エリーゼがいなくなって一月が経つのに、彼は未だに探し続けていた。
男児を産んだ私には、労いの言葉もなく……
「セドリック様……!」
寂しい。愛しい。相反する感情が込み上げてきて、私は後ろからセドリック様を抱き締めた。
ひんやりと冷たい背中に体温を分け与えるように、頬を寄せる。
「やめろ、服に化粧がつく」
セドリック様が私を乱暴に引き剥がす。
けれど私は再びその背中に縋りついた。こちらへ振り向いて欲しい一心で。
「ねえ、セドリック様。エリーゼ様のことなんて忘れてしまいましょう? あの方は、自分の意思であなたから離れたのよ。エリーゼ様も、それを望んでいるわ」
「私は望んでいない」
ようやく振り向いたセドリック様は、酷い状態だった。
死人のような青白い顔色、目の下の黒いクマ、生気を失った瞳。頬も少し痩けている。
「もし……エリーゼが私に不満があって出て行ったとしたら、私は謝らなければならない。無理矢理彼女を繋ぎ止めようとしたことも……」
繋ぎ止める、の意味を悟って唇を噛み締める。私との行為はいつも事務的で、そこに愛情なんて存在していなかったのに。
「許してくれるまで謝り続ける。それが今の私に出来る唯一の償いだ」
「嫌よ。お願い、私を見て……」
「君を愛妾に選んだのは、君の父親に頼み込まれたからだ。『娘に束の間の夢を見せてやって欲しい』とな。そうでなければ、性病を持っていない限り誰でもよかったんだ」
「……っ!!」
私は耐えきれず、執務室を飛び出した。
これじゃあ夢は夢でも、悪夢だわ……!
エリーゼなんて、この世からいなくなればいいのに。
そう思った時、ある疑問が浮かんだ。
エリーゼの死体を見せたら、セドリック様はどんな反応をなさるのかしら?
エリーゼの侍女からの提案に、私は「分かったわ」と即答した。
あんな小娘、セドリック様に相応しくないもの。
セドリック様は私の夫になるはずだったの。
それなのに、エリーゼのせいで私の人生は滅茶苦茶になった。
だから、私にもエリーゼの人生を滅茶苦茶にする権利があるわ。
そう思って、あの小娘の私物を盗むように侍女に命じたり、世話をやめさせたりした。
その間に私はセドリック様の子を身籠り、激しい陣痛に苦しみながら出産した。とても辛かったけど、愛する人のためと思えば、耐えられた。
そしてエリーゼもどこかへ行って、残ったのは私だけ。
セドリック様も、私を正式に妻として迎えてくれると思ったのに……
「セドリック様、もう一ヶ月ですわ。諦めましょうよ」
「君こそ、何故いつまでもこの屋敷にいるんだ。用は済んだのだから、速やかに出て行け」
セドリック様はこちらに背を向けて、地図を睨み付けている。
エリーゼがいなくなって一月が経つのに、彼は未だに探し続けていた。
男児を産んだ私には、労いの言葉もなく……
「セドリック様……!」
寂しい。愛しい。相反する感情が込み上げてきて、私は後ろからセドリック様を抱き締めた。
ひんやりと冷たい背中に体温を分け与えるように、頬を寄せる。
「やめろ、服に化粧がつく」
セドリック様が私を乱暴に引き剥がす。
けれど私は再びその背中に縋りついた。こちらへ振り向いて欲しい一心で。
「ねえ、セドリック様。エリーゼ様のことなんて忘れてしまいましょう? あの方は、自分の意思であなたから離れたのよ。エリーゼ様も、それを望んでいるわ」
「私は望んでいない」
ようやく振り向いたセドリック様は、酷い状態だった。
死人のような青白い顔色、目の下の黒いクマ、生気を失った瞳。頬も少し痩けている。
「もし……エリーゼが私に不満があって出て行ったとしたら、私は謝らなければならない。無理矢理彼女を繋ぎ止めようとしたことも……」
繋ぎ止める、の意味を悟って唇を噛み締める。私との行為はいつも事務的で、そこに愛情なんて存在していなかったのに。
「許してくれるまで謝り続ける。それが今の私に出来る唯一の償いだ」
「嫌よ。お願い、私を見て……」
「君を愛妾に選んだのは、君の父親に頼み込まれたからだ。『娘に束の間の夢を見せてやって欲しい』とな。そうでなければ、性病を持っていない限り誰でもよかったんだ」
「……っ!!」
私は耐えきれず、執務室を飛び出した。
これじゃあ夢は夢でも、悪夢だわ……!
エリーゼなんて、この世からいなくなればいいのに。
そう思った時、ある疑問が浮かんだ。
エリーゼの死体を見せたら、セドリック様はどんな反応をなさるのかしら?
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