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六話(アイナ視点)
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どうしてこんな娘が。
初めてエリーゼ様にお会いした時、私は困惑と苛立ちを覚えた。
問題は数多くあった。
まずはエリーゼ様が男爵家の令嬢であること。しかも経済状況が悪く、いつ破産してもおかしくない貧乏貴族だ。
エリーゼ様の父は昔ローラス侯爵家に仕えていたらしく、その恩返しとして娶ることを決めたという。
正気とは思えない。
嫁として迎えるなら、伯爵家レベルが妥当だろうに。
先代の侯爵夫人が強く反対しても、セドリック様は耳を傾けようとしなかった。
私たち使用人は頭を抱えた。
セドリック様は恩を返すためだと主張していたけど、そんなの単なる口実だ。
ただ単に何かのきっかけで愛して、自分の物にしようと思った。そんなところだろう。
くすんだ茶髪と紺色の瞳を持つ、地味で冴えない令嬢なんかを。
それでも私たちは、恭しくエリーゼ様の世話をしていた。
彼女は礼節を弁えていて、散財することもない大人しい少女だった。
けれど、それだけだ。
性格のいい人間など、ごまんといる。伯爵家にだって同じような令嬢は存在する。
わざわざエリーゼ様を選ぶ必要なんてない。
そう思うと、その大人しさが鼻につくようになっていった。
もっと侯爵夫人として堂々と振る舞えばいいのに。
「あのお嬢様、子供が作れないらしいわよ」
エリーゼ様が嫁いで来てから二年ほど経った頃、同僚のメイドが屋敷中に面白おかしく触れ回った。
執務室を通りかかった時、セドリック様と医者の会話を偶然聞いてしまったらしい。
男爵家の生まれで、見た目も地味で、子供を産むことすら出来ない。
「流石に旦那様も離婚に踏み切るだろう」と執事が苦笑いを浮かべて言った。
けれど、そんな予想は大きく外れる。
セドリック様は愛妾に世継ぎを産ませることを思い付いたのだ。
そしてその子供は、エリーゼ様が出産したと公表すると言い出した。
けれど、私たちにとって一つだけ朗報があった。
愛妾として、セドリック様と交流の深かったシンシア様が選ばれたのだ。
見目麗しく、教養もある伯爵家の女性。
ローラス侯爵婦人として相応しいと思った。それにシンシア様も、セドリック様に好意を抱いている。
だから、私たちはエリーゼ様へ積極的に嫌がらせを行うことにした。
私物をシンシア様に渡したり、無視をしたり、本人の前でわざと陰口を叩いたり。
セドリック様には、「不妊のストレスで、使用人たちに強く当たるようになった」と嘘の報告をした。
エリーゼ様の逃げ場をなくすためだった。
精神的に追い詰めて追い詰めて、失踪するか自殺させることが目的だった。
罪悪感? そんなものあるわけがない。
これも侯爵家のためなのだから。
そして、私たちの念願はついに叶った。シンシア様の出産を祝うパーティーの最中、エリーゼ様が自室の窓から逃げ出したのだ。
一階の部屋だったので、簡単に屋敷から抜け出せたらしい。
これでセドリック様も、諦めてシンシア様を後妻として迎えるはず。
そんな私たちの思惑はすぐに裏切られた。
初めてエリーゼ様にお会いした時、私は困惑と苛立ちを覚えた。
問題は数多くあった。
まずはエリーゼ様が男爵家の令嬢であること。しかも経済状況が悪く、いつ破産してもおかしくない貧乏貴族だ。
エリーゼ様の父は昔ローラス侯爵家に仕えていたらしく、その恩返しとして娶ることを決めたという。
正気とは思えない。
嫁として迎えるなら、伯爵家レベルが妥当だろうに。
先代の侯爵夫人が強く反対しても、セドリック様は耳を傾けようとしなかった。
私たち使用人は頭を抱えた。
セドリック様は恩を返すためだと主張していたけど、そんなの単なる口実だ。
ただ単に何かのきっかけで愛して、自分の物にしようと思った。そんなところだろう。
くすんだ茶髪と紺色の瞳を持つ、地味で冴えない令嬢なんかを。
それでも私たちは、恭しくエリーゼ様の世話をしていた。
彼女は礼節を弁えていて、散財することもない大人しい少女だった。
けれど、それだけだ。
性格のいい人間など、ごまんといる。伯爵家にだって同じような令嬢は存在する。
わざわざエリーゼ様を選ぶ必要なんてない。
そう思うと、その大人しさが鼻につくようになっていった。
もっと侯爵夫人として堂々と振る舞えばいいのに。
「あのお嬢様、子供が作れないらしいわよ」
エリーゼ様が嫁いで来てから二年ほど経った頃、同僚のメイドが屋敷中に面白おかしく触れ回った。
執務室を通りかかった時、セドリック様と医者の会話を偶然聞いてしまったらしい。
男爵家の生まれで、見た目も地味で、子供を産むことすら出来ない。
「流石に旦那様も離婚に踏み切るだろう」と執事が苦笑いを浮かべて言った。
けれど、そんな予想は大きく外れる。
セドリック様は愛妾に世継ぎを産ませることを思い付いたのだ。
そしてその子供は、エリーゼ様が出産したと公表すると言い出した。
けれど、私たちにとって一つだけ朗報があった。
愛妾として、セドリック様と交流の深かったシンシア様が選ばれたのだ。
見目麗しく、教養もある伯爵家の女性。
ローラス侯爵婦人として相応しいと思った。それにシンシア様も、セドリック様に好意を抱いている。
だから、私たちはエリーゼ様へ積極的に嫌がらせを行うことにした。
私物をシンシア様に渡したり、無視をしたり、本人の前でわざと陰口を叩いたり。
セドリック様には、「不妊のストレスで、使用人たちに強く当たるようになった」と嘘の報告をした。
エリーゼ様の逃げ場をなくすためだった。
精神的に追い詰めて追い詰めて、失踪するか自殺させることが目的だった。
罪悪感? そんなものあるわけがない。
これも侯爵家のためなのだから。
そして、私たちの念願はついに叶った。シンシア様の出産を祝うパーティーの最中、エリーゼ様が自室の窓から逃げ出したのだ。
一階の部屋だったので、簡単に屋敷から抜け出せたらしい。
これでセドリック様も、諦めてシンシア様を後妻として迎えるはず。
そんな私たちの思惑はすぐに裏切られた。
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