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85.冗談半分

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「あとのことは全てこちらで対処するよ」

 今後の対策を……と思っていると、私の思考を見透かしたようにお父様がそう仰った。
 お兄様からも「さっさとデートを楽しんで来い」と、屋敷から追い出されてしまった。
 少し強引かもしれないけれど、これ以上私に心労をかけないためだろう。

「よし、今度こそ遊べるな」

 嬉しそうに微笑みながら、オブシディアさんが私の顔を覗き込む。
 先程、フィリヌ侯爵を殺す一歩手前まで追い込んだ人物とは思えない無邪気っぷりだ。

「……ありがとうございました」
「何が?」
「私のために本気で怒ってくださったでしょう?」

 ディンデール邸を離れて街を目指す。
 馬車を出すとお父様は仰ってくれたけれど、二人でこうして歩きたいので断らせてもらった。
 涼しげな風に肌寒さを感じるものの、歩いていればそのうち体も温まるだろう。

「あのような形で人を脅すのはよくないかもしれませんが、私個人としてはとても嬉しかったです」
「よくないけど、嬉しかったのか」
「はい。溜飲が下がりました」

 浮気された私をフォローするどころか、責めて屋敷から追い出したフィリヌ侯爵があんな目に遭ってすっきりした。
 それに一瞬でも情に流されかけた私を正気に戻してくれた。
 こんな大事な時も助けられたことを申し訳なく思いつつ、どこまでも私を最優先に考えてくれるオブシディアさんに強い安心感を抱く。

「オブシディアさん」

 人気のない通りで立ち止まり、オブシディアさんの服の裾を掴んで引き留めた。
 不思議そうに振り向いて、「リザ?」と名前を呼ぶ声に笑みが零れる。
 私をそうやって呼ぶのも、私を誰よりも一番に思ってくれるのも、この人だけでいい。

「……これからもずっと私の傍にいてくれますか?」

 何者であっても構わない。
 私にとって重要なのは、私を心から大事にしてくれるかどうかだけで。
 その問いかけにオブシディアさんは頬を緩めると、正面から私を抱き締めた。

「当たり前だろ! リザが嫌だって言っても、ずっとずっと大事にしてやるからな!」
「……声が大きいです、オブシディアさん」
「悪い。でも嬉しくて抑え切れなかったんだ」

 ふわふわした声でオブシディアさんが弁明する。
 こんなところを誰かに見られたらと思うと頬が熱くなったけれど、無理矢理引き剥がす気にはなれなかった。

「俺はリザのものなんだ。お前のためなら、何だってしてやる」
「何だって……って加減はしてくださいね」
「どうしてそんな心配そうな顔をするんだよ」
「あなたなら、世界征服のような大それたことでもやってのけそうなので」

 冗談半分で答えると、オブシディアさんはうっすらと微笑んで、

「リザがそうして欲しいなら、やってやろうか?」


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