79 / 88
79.命が尽きるまで(アデラ視点)
しおりを挟む
兵士が手配した馬車に押し込まれて、城に連れて行かれる。
綺麗なお城。ルシロワール殿下と結婚して王太子妃になれば、あそこで一生贅沢な暮らしができると思っていた。
でも、もう叶わない。
だって私がこれから暮らしていくのは、毎日使用人たちが手入れをしている煌びやかな王宮じゃなくて、薄暗くて冷たい地下の牢獄なんだから。
何もかも完璧な作戦のはずだった。
いらないアクセサリーやドレスを売り飛ばして作った金で製紙職人を雇って、ディンデール家で使われている紙とそっくりなものを作らせたり。
うちの執事にたんまり金を渡して、ディンデール侯爵の字そっくりな文章を書かせたり。
リザリアに女としての屈辱と苦痛を与えたくて、薄汚いゴロツキを大量に雇ったわ。
御者の家族を人質にとって、リザリアを隠し扉がある路地裏まで誘い込むことにも大成功!
ゴロツキのなかに元魔法使いがいて助かったわ。
後はあの場所で、リザリアを殺せば私は幸せになれるはずだったのに。
リザリアがドロドロに溶けたかと思ったら、魔物みたいな奴はゴロツキたちで愉しそうに遊び始めた。
御者とその家族は「ここであったことを誰にも言うな」って約束させられた後にあっさり帰されて、私も逃げようとした。
そしたら床から生えてきた植物の蔦が私の足に絡みついて動けなくなった。
やだ! なにこれ! おうちに帰してよ! って叫ぶと、化物はかっこいい声で言うのよ。
お前だけは絶対に逃がさないって。
かっこいい! だなんて一瞬でも思った私をぶん殴ってやりたい。
その後、私はゴロツキどもが化物の玩具にされているのを延々と見せられた。
いくら泣いても叫んでも、血が噴き出しても骨が折れても、解放してくれない。私も、ゴロツキどもも。
ね、ねぇ、私はどんな目に遭うの?
嫌よ、何でリザリアを殺そうとしただけなのに、こんな化物にぐちゃぐちゃにされなくちゃいけないの!?
気持ち悪いものを見せられて、聞かせられて、私はずっと泣き続けた。
でも誰も助けには来てくれなくて……
「そろそろリザのところに帰らないと心配するだろうから、このくらいにしてやるよ」
気がつくと、目の前に黒い魔法使い様が綺麗な顔で微笑んでいた。
やっと会えた私の恋人!
だけど全然嬉しくなかった。
化物の正体が黒い魔法使い様だって分かってしまったんだもん。
「お前では遊ばない。でも死ぬまで怯えて、苦しめ」
怯えて苦しめ? 何に?
城に辿り着いて馬車から引きずり出される。
ただし城といっても、正門じゃなくて裏門。
多分牢屋への入口かしら。
まだ罰も決まっていないのに、もう入れられちゃうなんておかしいでしょ。
でも私は文句を言うどころじゃなかった。
「何だ、この女……ずっと俯いているし、やけに大人しいな」
「自分の罪を認めてるってことだろ。自分の家より爵位の高い貴族に成りすまそうとするなんて、どれだけ重罪なのか理解した上でやったんだろうし」
私を見張っている兵士たちに言い返す余裕もない。
あのね、
私の影のなかから恨めしそうに私を見上げてくる奴らがいるの。
私に雇われて、あの化物にわけの分からないことをされたゴロツキたちだった。
どうして生きていられるのか分からないような状態にされて、私の影のなかに押し込まれた。
どいつもこいつも、もう見ているだけで吐き気がするような酷い見た目をしている。
目を背けたいけど、どうしても視線がそこにいってしまう。
化物は私が死ぬまで、こいつらも死ぬことができないって言ってたっけ。
痛くて辛くて、今すぐにでも死んでしまいたいと思っているのに。
だから、
『早く死ね』
『お前のせいでこうなった』
『お前も俺たちと同じ目に遭って殺されろ』
私の影からずっと憎しみのこもった声が聞こえ続ける。
これが一生ずっとこのまま。
私以外の人間には何も見えないし、聞こえないみたい。
どうせ助けてって言っても、「幻覚でも見てるんだろ」って馬鹿にされる気がする。
一生牢屋に入っていてもいいから、貴族じゃなくなってもいいから、リザリアに何百回だって謝るから誰かどうにかしてよ。
まだ一日も経っていないのに、もう頭がおかしくなりそう。
死ねばこいつらから解放されるのかしら。
でも私に自殺する勇気なんてない。
どうして皆に愛されて当然のはずの私が、こんなゾンビみたいな奴らに死ぬまで憎まれなくちゃいけないの……?
綺麗なお城。ルシロワール殿下と結婚して王太子妃になれば、あそこで一生贅沢な暮らしができると思っていた。
でも、もう叶わない。
だって私がこれから暮らしていくのは、毎日使用人たちが手入れをしている煌びやかな王宮じゃなくて、薄暗くて冷たい地下の牢獄なんだから。
何もかも完璧な作戦のはずだった。
いらないアクセサリーやドレスを売り飛ばして作った金で製紙職人を雇って、ディンデール家で使われている紙とそっくりなものを作らせたり。
うちの執事にたんまり金を渡して、ディンデール侯爵の字そっくりな文章を書かせたり。
リザリアに女としての屈辱と苦痛を与えたくて、薄汚いゴロツキを大量に雇ったわ。
御者の家族を人質にとって、リザリアを隠し扉がある路地裏まで誘い込むことにも大成功!
ゴロツキのなかに元魔法使いがいて助かったわ。
後はあの場所で、リザリアを殺せば私は幸せになれるはずだったのに。
リザリアがドロドロに溶けたかと思ったら、魔物みたいな奴はゴロツキたちで愉しそうに遊び始めた。
御者とその家族は「ここであったことを誰にも言うな」って約束させられた後にあっさり帰されて、私も逃げようとした。
そしたら床から生えてきた植物の蔦が私の足に絡みついて動けなくなった。
やだ! なにこれ! おうちに帰してよ! って叫ぶと、化物はかっこいい声で言うのよ。
お前だけは絶対に逃がさないって。
かっこいい! だなんて一瞬でも思った私をぶん殴ってやりたい。
その後、私はゴロツキどもが化物の玩具にされているのを延々と見せられた。
いくら泣いても叫んでも、血が噴き出しても骨が折れても、解放してくれない。私も、ゴロツキどもも。
ね、ねぇ、私はどんな目に遭うの?
嫌よ、何でリザリアを殺そうとしただけなのに、こんな化物にぐちゃぐちゃにされなくちゃいけないの!?
気持ち悪いものを見せられて、聞かせられて、私はずっと泣き続けた。
でも誰も助けには来てくれなくて……
「そろそろリザのところに帰らないと心配するだろうから、このくらいにしてやるよ」
気がつくと、目の前に黒い魔法使い様が綺麗な顔で微笑んでいた。
やっと会えた私の恋人!
だけど全然嬉しくなかった。
化物の正体が黒い魔法使い様だって分かってしまったんだもん。
「お前では遊ばない。でも死ぬまで怯えて、苦しめ」
怯えて苦しめ? 何に?
城に辿り着いて馬車から引きずり出される。
ただし城といっても、正門じゃなくて裏門。
多分牢屋への入口かしら。
まだ罰も決まっていないのに、もう入れられちゃうなんておかしいでしょ。
でも私は文句を言うどころじゃなかった。
「何だ、この女……ずっと俯いているし、やけに大人しいな」
「自分の罪を認めてるってことだろ。自分の家より爵位の高い貴族に成りすまそうとするなんて、どれだけ重罪なのか理解した上でやったんだろうし」
私を見張っている兵士たちに言い返す余裕もない。
あのね、
私の影のなかから恨めしそうに私を見上げてくる奴らがいるの。
私に雇われて、あの化物にわけの分からないことをされたゴロツキたちだった。
どうして生きていられるのか分からないような状態にされて、私の影のなかに押し込まれた。
どいつもこいつも、もう見ているだけで吐き気がするような酷い見た目をしている。
目を背けたいけど、どうしても視線がそこにいってしまう。
化物は私が死ぬまで、こいつらも死ぬことができないって言ってたっけ。
痛くて辛くて、今すぐにでも死んでしまいたいと思っているのに。
だから、
『早く死ね』
『お前のせいでこうなった』
『お前も俺たちと同じ目に遭って殺されろ』
私の影からずっと憎しみのこもった声が聞こえ続ける。
これが一生ずっとこのまま。
私以外の人間には何も見えないし、聞こえないみたい。
どうせ助けてって言っても、「幻覚でも見てるんだろ」って馬鹿にされる気がする。
一生牢屋に入っていてもいいから、貴族じゃなくなってもいいから、リザリアに何百回だって謝るから誰かどうにかしてよ。
まだ一日も経っていないのに、もう頭がおかしくなりそう。
死ねばこいつらから解放されるのかしら。
でも私に自殺する勇気なんてない。
どうして皆に愛されて当然のはずの私が、こんなゾンビみたいな奴らに死ぬまで憎まれなくちゃいけないの……?
26
お気に入りに追加
5,291
あなたにおすすめの小説
この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~
柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。
家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。
そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。
というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。
けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。
そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。
ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。
それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。
そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。
一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。
これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。
他サイトでも掲載中。
召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます
かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~
【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】
奨励賞受賞
●聖女編●
いきなり召喚された上に、ババァ発言。
挙句、偽聖女だと。
確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。
だったら好きに生きさせてもらいます。
脱社畜!
ハッピースローライフ!
ご都合主義万歳!
ノリで生きて何が悪い!
●勇者編●
え?勇者?
うん?勇者?
そもそも召喚って何か知ってますか?
またやらかしたのかバカ王子ー!
●魔界編●
いきおくれって分かってるわー!
それよりも、クロを探しに魔界へ!
魔界という場所は……とてつもなかった
そしてクロはクロだった。
魔界でも見事になしてみせようスローライフ!
邪魔するなら排除します!
--------------
恋愛はスローペース
物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
婚約破棄?とっくにしてますけど笑
蘧饗礪
ファンタジー
ウクリナ王国の公爵令嬢アリア・ラミーリアの婚約者は、見た目完璧、中身最悪の第2王子エディヤ・ウクリナである。彼の10人目の愛人は最近男爵になったマリハス家の令嬢ディアナだ。
さて、そろそろ婚約破棄をしましょうか。
婚約破棄されたので四大精霊と国を出ます
今川幸乃
ファンタジー
公爵令嬢である私シルア・アリュシオンはアドラント王国第一王子クリストフと政略婚約していたが、私だけが精霊と会話をすることが出来るのを、あろうことか悪魔と話しているという言いがかりをつけられて婚約破棄される。
しかもクリストフはアイリスという女にデレデレしている。
王宮を追い出された私だったが、地水火風を司る四大精霊も私についてきてくれたので、精霊の力を借りた私は強力な魔法を使えるようになった。
そして隣国マナライト王国の王子アルツリヒトの招待を受けた。
一方、精霊の加護を失った王国には次々と災厄が訪れるのだった。
※「小説家になろう」「カクヨム」から転載
※3/8~ 改稿中
姉から奪うことしかできない妹は、ザマァされました
饕餮
ファンタジー
わたくしは、オフィリア。ジョンパルト伯爵家の長女です。
わたくしには双子の妹がいるのですが、使用人を含めた全員が妹を溺愛するあまり、我儘に育ちました。
しかもわたくしと色違いのものを両親から与えられているにもかかわらず、なぜかわたくしのものを欲しがるのです。
末っ子故に甘やかされ、泣いて喚いて駄々をこね、暴れるという貴族女性としてはあるまじき行為をずっとしてきたからなのか、手に入らないものはないと考えているようです。
そんなあざといどころかあさましい性根を持つ妹ですから、いつの間にか両親も兄も、使用人たちですらも絆されてしまい、たとえ嘘であったとしても妹の言葉を鵜呑みにするようになってしまいました。
それから数年が経ち、学園に入学できる年齢になりました。が、そこで兄と妹は――
n番煎じのよくある妹が姉からものを奪うことしかしない系の話です。
全15話。
※カクヨムでも公開しています
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
無能だと言われ続けた聖女は、自らを封印することにしました
天宮有
恋愛
国を守る聖女として城に住んでいた私フィーレは、元平民ということもあり蔑まれていた。
伝統だから城に置いているだけだと、国が平和になったことで国王や王子は私の存在が不愉快らしい。
無能だと何度も言われ続けて……私は本当に不必要なのではないかと思い始める。
そうだ――自らを封印することで、数年ぐらい眠ろう。
無能と蔑まれ、不必要と言われた私は私を封印すると、国に異変が起きようとしていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる