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79.命が尽きるまで(アデラ視点)

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 兵士が手配した馬車に押し込まれて、城に連れて行かれる。
 綺麗なお城。ルシロワール殿下と結婚して王太子妃になれば、あそこで一生贅沢な暮らしができると思っていた。
 でも、もう叶わない。
 だって私がこれから暮らしていくのは、毎日使用人たちが手入れをしている煌びやかな王宮じゃなくて、薄暗くて冷たい地下の牢獄なんだから。

 何もかも完璧な作戦のはずだった。
 いらないアクセサリーやドレスを売り飛ばして作った金で製紙職人を雇って、ディンデール家で使われている紙とそっくりなものを作らせたり。
 うちの執事にたんまり金を渡して、ディンデール侯爵の字そっくりな文章を書かせたり。
 リザリアに女としての屈辱と苦痛を与えたくて、薄汚いゴロツキを大量に雇ったわ。
 御者の家族を人質にとって、リザリアを隠し扉がある路地裏まで誘い込むことにも大成功!
 ゴロツキのなかに元魔法使いがいて助かったわ。

 後はあの場所で、リザリアを殺せば私は幸せになれるはずだったのに。
 リザリアがドロドロに溶けたかと思ったら、魔物みたいな奴はゴロツキたちで愉しそうに遊び始めた・・・・・
 御者とその家族は「ここであったことを誰にも言うな」って約束させられた後にあっさり帰されて、私も逃げようとした。
 そしたら床から生えてきた植物の蔦が私の足に絡みついて動けなくなった。
 やだ! なにこれ! おうちに帰してよ! って叫ぶと、化物はかっこいい声で言うのよ。
 お前だけは絶対に逃がさないって。
 かっこいい! だなんて一瞬でも思った私をぶん殴ってやりたい。

 その後、私はゴロツキどもが化物の玩具おもちゃにされているのを延々と見せられた。
 いくら泣いても叫んでも、血が噴き出しても骨が折れても、解放してくれない。私も、ゴロツキどもも。
 ね、ねぇ、私はどんな目に遭うの?
 嫌よ、何でリザリアを殺そうとしただけなのに、こんな化物にぐちゃぐちゃにされなくちゃいけないの!?
 気持ち悪いものを見せられて、聞かせられて、私はずっと泣き続けた。
 でも誰も助けには来てくれなくて……

「そろそろリザのところに帰らないと心配するだろうから、このくらいにしてやるよ」

 気がつくと、目の前に黒い魔法使い様が綺麗な顔で微笑んでいた。
 やっと会えた私の恋人!
 だけど全然嬉しくなかった。
 化物の正体が黒い魔法使い様だって分かってしまったんだもん。

「お前では遊ばない。でも死ぬまで怯えて、苦しめ」

 怯えて苦しめ? 何に?



 城に辿り着いて馬車から引きずり出される。
 ただし城といっても、正門じゃなくて裏門。
 多分牢屋への入口かしら。
 まだ罰も決まっていないのに、もう入れられちゃうなんておかしいでしょ。
 でも私は文句を言うどころじゃなかった。

「何だ、この女……ずっと俯いているし、やけに大人しいな」
「自分の罪を認めてるってことだろ。自分の家より爵位の高い貴族に成りすまそうとするなんて、どれだけ重罪なのか理解した上でやったんだろうし」

 私を見張っている兵士たちに言い返す余裕もない。

 あのね、

 私の影のなかから恨めしそうに私を見上げてくる奴らがいるの。

 私に雇われて、あの化物にわけの分からないことをされたゴロツキたちだった。
 どうして生きていられるのか分からないような状態にされて、私の影のなかに押し込まれた。
 どいつもこいつも、もう見ているだけで吐き気がするような酷い見た目をしている。
 目を背けたいけど、どうしても視線がそこにいってしまう。

 化物は私が死ぬまで、こいつらも死ぬことができないって言ってたっけ。
 痛くて辛くて、今すぐにでも死んでしまいたいと思っているのに。

 だから、

『早く死ね』
『お前のせいでこうなった』
『お前も俺たちと同じ目に遭って殺されろ』

 私の影からずっと憎しみのこもった声が聞こえ続ける。
 これが一生ずっとこのまま。
 私以外の人間には何も見えないし、聞こえないみたい。
 どうせ助けてって言っても、「幻覚でも見てるんだろ」って馬鹿にされる気がする。

 一生牢屋に入っていてもいいから、貴族じゃなくなってもいいから、リザリアに何百回だって謝るから誰かどうにかしてよ。
 まだ一日も経っていないのに、もう頭がおかしくなりそう。
 死ねばこいつらから解放されるのかしら。
 でも私に自殺する勇気なんてない。

 どうして皆に愛されて当然のはずの私が、こんなゾンビみたいな奴らに死ぬまで憎まれなくちゃいけないの……?
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