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78.謝罪
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ルシロワール殿下が叔母様に惹かれたのは、何となく分かる気がした。
自分に正直に生きていて、はっきりとした物言いをする叔母様。
彼女はルシロワール殿下にないものばかりを持っている。
実は叔母様には内緒で、私にだけ届いた手紙がある。
そこには叔母様と二人きりになりたいので、協力してくれないかという内容が遠回しな文章が綴られていた。
なので私はオブシディアさんと一緒に遊びに行くと称して、店から離れることにしたのだ。
叔母様も「殿下も用事があるのは私だけみたいだし、楽しんでいらっしゃい」とあっさり了承してくれた。
後は殿下ご自身の頑張りにかかっている。
店を出ると、そこにはオブシディアさんの言っていた通りアデラさんが立っていた。
……けれど、その両脇には時々店のお手伝いをしてくれる木の人形がいる。
逃亡を防ぐためだろうけれど、顔面蒼白で小刻みに震えているのはそのせいなのかもしれない。
そして何故か、しきりに自分の足元を気にしている。
「リザリア、様。い、今までのこと、本当にす、すみません、でした」
「……アデラさん?」
リザリア様とは一体。
「許して、お願いだから許してください……!」
膝をついて許しを乞う姿は、どう考えてもいつもの彼女らしくない。
何があっても自分の非を認めたり、私に謝罪することはないだろうと思っていたのだけれど。
「オブシディアさん、これは……」
「ガラの悪い連中を使ってリザに妙なことをしようとしたから、そいつらを少し懲らしめただけだぜ。なぁ?」
オブシディアンさんに同意を求められると、アデラさんは何度も首を縦に振った。
「はいぃ! もう二度とリザリア様の前には姿を見せません! 罪も償います! だから、だから早くこいつらを──」
「よかったな、リザ。もうこいつ、お前に関わらないって言ってる」
アデラさんの懇願を遮るように、オブシディアさんがやけに楽しそうに仰った。
「……もしかしたらアデラさんにも何かしたのですか?」
「いや? こいつには特に何も」
「それにしては、尋常ではない怯えぶりですけれど……」
「犯罪者になったら、牢屋生活を送ることになるのが嫌なんだろ」
オブシディアさんが投げやりな物言いで言葉を返す。
今まで私に色々と嫌がらせをしてきたアデラさんだけれど、今回は完全に超えてはならない一線を超えている。
他人を騙り、文書偽造をした。
しかもそれが侯爵家当主なので、さらに罪は重くなる。
文書偽造は高い技術が要求されるけれど、協力者がいなければ実行できない上に、本格的な捜査が始まれば証拠も必ず出てくるはずだ。
この国では犯罪を犯せば、貴族ではいられなくなる。
アデラさん自身だけではなく、ルミノー伯爵も苦しい立場に追いやられるだろう。
事あるごとに私を平民と貶していた彼女が、その平民に落とされるのだ。
両手で頭を抱え、癇癪を起こしたかのように泣き叫ぶアデラさんはあまりにも憐れで、同情心が芽生えてしまうほどだった。
自分に正直に生きていて、はっきりとした物言いをする叔母様。
彼女はルシロワール殿下にないものばかりを持っている。
実は叔母様には内緒で、私にだけ届いた手紙がある。
そこには叔母様と二人きりになりたいので、協力してくれないかという内容が遠回しな文章が綴られていた。
なので私はオブシディアさんと一緒に遊びに行くと称して、店から離れることにしたのだ。
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後は殿下ご自身の頑張りにかかっている。
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そして何故か、しきりに自分の足元を気にしている。
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「……アデラさん?」
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膝をついて許しを乞う姿は、どう考えてもいつもの彼女らしくない。
何があっても自分の非を認めたり、私に謝罪することはないだろうと思っていたのだけれど。
「オブシディアさん、これは……」
「ガラの悪い連中を使ってリザに妙なことをしようとしたから、そいつらを少し懲らしめただけだぜ。なぁ?」
オブシディアンさんに同意を求められると、アデラさんは何度も首を縦に振った。
「はいぃ! もう二度とリザリア様の前には姿を見せません! 罪も償います! だから、だから早くこいつらを──」
「よかったな、リザ。もうこいつ、お前に関わらないって言ってる」
アデラさんの懇願を遮るように、オブシディアさんがやけに楽しそうに仰った。
「……もしかしたらアデラさんにも何かしたのですか?」
「いや? こいつには特に何も」
「それにしては、尋常ではない怯えぶりですけれど……」
「犯罪者になったら、牢屋生活を送ることになるのが嫌なんだろ」
オブシディアさんが投げやりな物言いで言葉を返す。
今まで私に色々と嫌がらせをしてきたアデラさんだけれど、今回は完全に超えてはならない一線を超えている。
他人を騙り、文書偽造をした。
しかもそれが侯爵家当主なので、さらに罪は重くなる。
文書偽造は高い技術が要求されるけれど、協力者がいなければ実行できない上に、本格的な捜査が始まれば証拠も必ず出てくるはずだ。
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両手で頭を抱え、癇癪を起こしたかのように泣き叫ぶアデラさんはあまりにも憐れで、同情心が芽生えてしまうほどだった。
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