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58.手紙

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 平穏でありながらも忙しい日々が続く。
 ありがたいことに『精霊の隠れ家』の客足は途絶える様子がない。
 先日新聞で特集記事が組まれて、ますます知名度が上がった。
 記事のタイトルは『幻の美形魔法使い』で、叔母様が少し複雑そうな顔をしていたけれど。

 その幻の美形魔法使いことオブシディアさんは、特に大きな反応をせず魔導工芸品を作っていた。
 嬉しくないのかと遊びに来ていたお兄様が聞けば、

「リザから褒められたわけじゃないから、どうでもいいな」

 とストレートな返事。
 それを傍にいた叔母様とお兄様が謎の気遣いを発動させて、その場から離れた。
 オブシディアさんからは何かを期待するような眼差しを送られる。
 私が「オブシディアさんは素敵な男性ですよ」と言うと嬉しそうに微笑む姿は、幼い子供のよう。
 前々から思っていたけれど、どうして彼はこんなに私に懐いているのだろう。

 魔力のあるなしに拘わらず、はっきり見ることができるという理由だけでここまで?
 その理論でいくと、私のように魔力がなくてもオブシディアさんが見える人が現れたら、その人にもこんな風に接するのかもしれない
 そこまで考えて嫌な感情が芽生えそうになったので、他のことを考えることにした。
 つまらない嫉妬心なんかで、オブシディアさんを縛りつけるようなことはしたくない。
 オブシディアさんは大切な従業員仲間で、私の所有物ではないのだから。

 そんな他人には言えない悩みができた翌日、それ・・が店に届いた。



「リザリア、フィリヌ家からあんた宛に手紙が届いたんだけど」

 昼休み中、眉を顰めた叔母様が一通の手紙を私に見せてくれた。
 確かにこの封蝋はフィリヌ家のもので間違いないけれど……。

「ディンデール家ではなく、店に送ってきたのですか……?」

 私個人に関する手紙なら、全てディンデール家に送るようにとフィリヌ家には伝えているはず。
 私に余計なストレスを与えたくないと、お父様が提案したことだった。

「どうする? このままお義兄さんのところに転送する?」
「いえ……」

 もしかしたら私ではなく、『精霊の隠れ家』に関しての手紙かもしれない。
 それに私だってお父様とお母様に余計な心配はさせたくなかった。
 叔母様と無言で顔を見合ってから、封を開けて便箋を取り出す。
 枚数は二枚。そんなに長い内容なのかしら……と思っていると、

「うわっ、なぁにこれ」
「…………」

 あまりにも乱雑な文字に叔母様が引いている。私も言葉が出ない。
 文字が汚いだけならまだいいけれど、文法の使い方も所々怪しいところがある上に誤字まである。

 まるで小さな子供が書いたような文章に、私は深く溜め息をついた。

「トール様……」
「えっ、あの馬鹿が書いたの!? これが成人の字!?」
「…………」

 叔母様が驚愕するのも無理はないと思う。
 私も初めてトール様の字を見た時は、あまりにも酷すぎて絶望してしまったので。


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