58 / 88
58.手紙
しおりを挟む
平穏でありながらも忙しい日々が続く。
ありがたいことに『精霊の隠れ家』の客足は途絶える様子がない。
先日新聞で特集記事が組まれて、ますます知名度が上がった。
記事のタイトルは『幻の美形魔法使い』で、叔母様が少し複雑そうな顔をしていたけれど。
その幻の美形魔法使いことオブシディアさんは、特に大きな反応をせず魔導工芸品を作っていた。
嬉しくないのかと遊びに来ていたお兄様が聞けば、
「リザから褒められたわけじゃないから、どうでもいいな」
とストレートな返事。
それを傍にいた叔母様とお兄様が謎の気遣いを発動させて、その場から離れた。
オブシディアさんからは何かを期待するような眼差しを送られる。
私が「オブシディアさんは素敵な男性ですよ」と言うと嬉しそうに微笑む姿は、幼い子供のよう。
前々から思っていたけれど、どうして彼はこんなに私に懐いているのだろう。
魔力のあるなしに拘わらず、はっきり見ることができるという理由だけでここまで?
その理論でいくと、私のように魔力がなくてもオブシディアさんが見える人が現れたら、その人にもこんな風に接するのかもしれない
そこまで考えて嫌な感情が芽生えそうになったので、他のことを考えることにした。
つまらない嫉妬心なんかで、オブシディアさんを縛りつけるようなことはしたくない。
オブシディアさんは大切な従業員仲間で、私の所有物ではないのだから。
そんな他人には言えない悩みができた翌日、それが店に届いた。
「リザリア、フィリヌ家からあんた宛に手紙が届いたんだけど」
昼休み中、眉を顰めた叔母様が一通の手紙を私に見せてくれた。
確かにこの封蝋はフィリヌ家のもので間違いないけれど……。
「ディンデール家ではなく、店に送ってきたのですか……?」
私個人に関する手紙なら、全てディンデール家に送るようにとフィリヌ家には伝えているはず。
私に余計なストレスを与えたくないと、お父様が提案したことだった。
「どうする? このままお義兄さんのところに転送する?」
「いえ……」
もしかしたら私ではなく、『精霊の隠れ家』に関しての手紙かもしれない。
それに私だってお父様とお母様に余計な心配はさせたくなかった。
叔母様と無言で顔を見合ってから、封を開けて便箋を取り出す。
枚数は二枚。そんなに長い内容なのかしら……と思っていると、
「うわっ、なぁにこれ」
「…………」
あまりにも乱雑な文字に叔母様が引いている。私も言葉が出ない。
文字が汚いだけならまだいいけれど、文法の使い方も所々怪しいところがある上に誤字まである。
まるで小さな子供が書いたような文章に、私は深く溜め息をついた。
「トール様……」
「えっ、あの馬鹿が書いたの!? これが成人の字!?」
「…………」
叔母様が驚愕するのも無理はないと思う。
私も初めてトール様の字を見た時は、あまりにも酷すぎて絶望してしまったので。
ありがたいことに『精霊の隠れ家』の客足は途絶える様子がない。
先日新聞で特集記事が組まれて、ますます知名度が上がった。
記事のタイトルは『幻の美形魔法使い』で、叔母様が少し複雑そうな顔をしていたけれど。
その幻の美形魔法使いことオブシディアさんは、特に大きな反応をせず魔導工芸品を作っていた。
嬉しくないのかと遊びに来ていたお兄様が聞けば、
「リザから褒められたわけじゃないから、どうでもいいな」
とストレートな返事。
それを傍にいた叔母様とお兄様が謎の気遣いを発動させて、その場から離れた。
オブシディアさんからは何かを期待するような眼差しを送られる。
私が「オブシディアさんは素敵な男性ですよ」と言うと嬉しそうに微笑む姿は、幼い子供のよう。
前々から思っていたけれど、どうして彼はこんなに私に懐いているのだろう。
魔力のあるなしに拘わらず、はっきり見ることができるという理由だけでここまで?
その理論でいくと、私のように魔力がなくてもオブシディアさんが見える人が現れたら、その人にもこんな風に接するのかもしれない
そこまで考えて嫌な感情が芽生えそうになったので、他のことを考えることにした。
つまらない嫉妬心なんかで、オブシディアさんを縛りつけるようなことはしたくない。
オブシディアさんは大切な従業員仲間で、私の所有物ではないのだから。
そんな他人には言えない悩みができた翌日、それが店に届いた。
「リザリア、フィリヌ家からあんた宛に手紙が届いたんだけど」
昼休み中、眉を顰めた叔母様が一通の手紙を私に見せてくれた。
確かにこの封蝋はフィリヌ家のもので間違いないけれど……。
「ディンデール家ではなく、店に送ってきたのですか……?」
私個人に関する手紙なら、全てディンデール家に送るようにとフィリヌ家には伝えているはず。
私に余計なストレスを与えたくないと、お父様が提案したことだった。
「どうする? このままお義兄さんのところに転送する?」
「いえ……」
もしかしたら私ではなく、『精霊の隠れ家』に関しての手紙かもしれない。
それに私だってお父様とお母様に余計な心配はさせたくなかった。
叔母様と無言で顔を見合ってから、封を開けて便箋を取り出す。
枚数は二枚。そんなに長い内容なのかしら……と思っていると、
「うわっ、なぁにこれ」
「…………」
あまりにも乱雑な文字に叔母様が引いている。私も言葉が出ない。
文字が汚いだけならまだいいけれど、文法の使い方も所々怪しいところがある上に誤字まである。
まるで小さな子供が書いたような文章に、私は深く溜め息をついた。
「トール様……」
「えっ、あの馬鹿が書いたの!? これが成人の字!?」
「…………」
叔母様が驚愕するのも無理はないと思う。
私も初めてトール様の字を見た時は、あまりにも酷すぎて絶望してしまったので。
13
お気に入りに追加
5,288
あなたにおすすめの小説
見捨てられた逆行令嬢は幸せを掴みたい
水空 葵
恋愛
一生大切にすると、次期伯爵のオズワルド様に誓われたはずだった。
それなのに、私が懐妊してからの彼は愛人のリリア様だけを守っている。
リリア様にプレゼントをする余裕はあっても、私は食事さえ満足に食べられない。
そんな状況で弱っていた私は、出産に耐えられなくて死んだ……みたい。
でも、次に目を覚ました時。
どういうわけか結婚する前に巻き戻っていた。
二度目の人生。
今度は苦しんで死にたくないから、オズワルド様との婚約は解消することに決めた。それと、彼には私の苦しみをプレゼントすることにしました。
一度婚約破棄したら良縁なんて望めないから、一人で生きていくことに決めているから、醜聞なんて気にしない。
そう決めて行動したせいで良くない噂が流れたのに、どうして次期侯爵様からの縁談が届いたのでしょうか?
※カクヨム様と小説家になろう様でも連載中・連載予定です。
7/23 女性向けHOTランキング1位になりました。ありがとうございますm(__)m
【完結】聖女になり損なった刺繍令嬢は逃亡先で幸福を知る。
みやこ嬢
恋愛
「ルーナ嬢、神聖なる聖女選定の場で不正を働くとは何事だ!」
魔法国アルケイミアでは魔力の多い貴族令嬢の中から聖女を選出し、王子の妃とするという古くからの習わしがある。
ところが、最終試験まで残ったクレモント侯爵家令嬢ルーナは不正を疑われて聖女候補から外されてしまう。聖女になり損なった失意のルーナは義兄から襲われたり高齢宰相の後妻に差し出されそうになるが、身を守るために侍女ティカと共に逃げ出した。
あてのない旅に出たルーナは、身を寄せた隣国シュベルトの街で運命的な出会いをする。
【2024年3月16日完結、全58話】
【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~
イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」
どごおおおぉっ!!
5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略)
ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。
…だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。
それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。
泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ…
旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは?
更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!?
ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか?
困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語!
※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください…
※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください…
※小説家になろう様でも掲載しております
※イラストは湶リク様に描いていただきました
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います
榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。
なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね?
【ご報告】
書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m
発売日等は現在調整中です。
【完結】妹に全部奪われたので、公爵令息は私がもらってもいいですよね。
曽根原ツタ
恋愛
ルサレテには完璧な妹ペトロニラがいた。彼女は勉強ができて刺繍も上手。美しくて、優しい、皆からの人気者だった。
ある日、ルサレテが公爵令息と話しただけで彼女の嫉妬を買い、階段から突き落とされる。咄嗟にペトロニラの腕を掴んだため、ふたり一緒に転落した。
その後ペトロニラは、階段から突き落とそうとしたのはルサレテだと嘘をつき、婚約者と家族を奪い、意地悪な姉に仕立てた。
ルサレテは、妹に全てを奪われたが、妹が慕う公爵令息を味方にすることを決意して……?
半月後に死ぬと告げられたので、今まで苦しんだ分残りの人生は幸せになります!
八代奏多
恋愛
侯爵令嬢のレティシアは恵まれていなかった。
両親には忌み子と言われ冷遇され、婚約者は浮気相手に夢中。
そしてトドメに、夢の中で「半月後に死ぬ」と余命宣告に等しい天啓を受けてしまう。
そんな状況でも、せめて最後くらいは幸せでいようと、レティシアは努力を辞めなかった。
すると不思議なことに、状況も運命も変わっていく。
そしてある時、冷徹と有名だけど優しい王子様に甘い言葉を囁かれるようになっていた。
それを知った両親が慌てて今までの扱いを謝るも、レティシアは許す気がなくて……。
恵まれない令嬢が運命を変え、幸せになるお話。
※「小説家になろう」「カクヨム」でも公開しております。
【完結】野垂れ死ねと言われ家を追い出されましたが幸せです
kana
恋愛
伯爵令嬢のフローラは10歳の時に母を亡くした。
悲しむ間もなく父親が連れてきたのは後妻と義姉のエリザベスだった。
その日から虐げられ続けていたフローラは12歳で父親から野垂れ死ねと言われ邸から追い出されてしまう。
さらに死亡届まで出されて⋯⋯
邸を追い出されたフローラには会ったこともない母方の叔父だけだった。
快く受け入れてくれた叔父。
その叔父が連れてきた人が⋯⋯
※毎度のことながら設定はゆるゆるのご都合主義です。
※誤字脱字が多い作者ですがよろしくお願いいたします。
※他サイトにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる