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49.片付け
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荒れた店の片付けは、オブシディアさんと私以外にも野次馬の方々が手伝ってくれたので、スムーズに終わらせることができた。
なかにはオブシディアさんを近くで見るため、という不純な理由を持っている女性もいたけれど、そういった人に限って動作がてきぱきとしていて頼りになる。
「やるなぁ、嬢ちゃん。あのハーライト相手に説教なんて大したもんだ」
「い、いえ、余計に怒らせてしまっただけなので……」
「でも私たちを守ろうとしてくれてありがとう。今度あなたのお店に行かせてちょうだい!」
ハーライトさんたちを追い払ったのはオブシディアさんであって、私は何もしていない。
過大評価される結果になってしまい、居心地の悪さを感じているとオーナーに声をかけられた。
「リザリアさん、向こうでお話しましょう。ここじゃギャラリーが多すぎる」
確かに片付けをしている間にも、人だかりは更に増えていた。
営業も間もなく再開できるということなので、私は店の奥へ避難することに。
後ろの方から女性たちの歓喜の叫びが聞こえたので驚いて振り向くと、オブシディアさんが小走りで私を追いかけてきていた。
「知らない奴から『若い娘さんらに笑いながら手を振ってやれ。喜ぶぞ』って言われて試しにやったら叫ばれたぞ……何なんだ、あいつら」
眉を顰める様子に少し同情しつつ、彼女たちの気持ちを伝えてあげることにする。
「それは……皆さん、オブシディアさんの笑顔を見ることができて嬉しいのだと思いますよ?」
「そういうことか。俺もリザとかミレーユの笑った顔を見るのは好きだから、何か分かるかも」
今後、オブシディアさん目当てのお客様が増えそう。
けれど今はもっと大事なことを考えなければ。
ハーライトさんは『精霊の隠れ家』に危害を加えようとしていたと自白していた。
それを実行しようとした部下たちが行方不明なのが気になる。
兵士の方々に夜の見張りを要請した方がいいかもしれない。
「さっきのもみあげの部下なら、もう来ないと思うぜ。昼間に来たのはただの下見で、肝心な時に怖じ気づいて逃げ出したんだろ」
「そうでしょうか……」
「そいつらだってあんな情けないもみあげのために、危険を冒す理由なんてないだろうし。今頃は『二度と近づかない』ように遠くに逃げている最中かもな」
オブシディアさんの言う通りならいいのだけれど。
「ありがとうございます。リザリアさん、オブシディアさん」
オーナーからは何度も感謝の気持ちを伝えられた。
どうもハーライトさんは、以前からレストランを勝手に占領していたのだとか。
フィリヌ侯爵家の名前を出されては、文句を言うわけにもいかない。
それで好き勝手させていたのだけれど、ああやって酔っ払って店内を荒らすわ、気に入ったウエイトレスに手を出すわで大変だったという。
しかも被害に遭ったのはこの店だけではなく、飲食店業界では悪い意味でも有名人だと判明。
「フィリヌ家に抗議もしましたが、無駄でした。ハーライトの魔導工芸品は王家御用達ですからね。ハーライトとフィリヌ家に楯突くことは、マリガンド王国そのものを敵に回すことと同義と逆に脅されてしまい……」
「貴族が平民を脅すなんて、何を考えているのでしょうね……」
開いた口が塞がらない。
いくらハーライトさんが優秀な職人だとしても、何もかも許されるわけではない。
むしろ貴族や王家の後ろ楯を持つのなら、それに恥じない立ち振舞いをするべきなのに。
「なので、あのハーライトの情けない姿を見てスカッとしましたよ! 最高でした!」
余程鬱憤が溜まっていたのか、オーナーの声には熱と力が込められていた。
「というわけで、本日は是非とも我が店のフルコースを召し上がって行ってください!」
「は、はい。私たちもそのつもりで……」
「もちろん、代金は結構ですので」
「え!?」
そういうわけにはいかないと断ろうとしたけれど、結局オーナーの熱意を冷ますことはできなかった。
ここはご厚意に預かることにした。
なかにはオブシディアさんを近くで見るため、という不純な理由を持っている女性もいたけれど、そういった人に限って動作がてきぱきとしていて頼りになる。
「やるなぁ、嬢ちゃん。あのハーライト相手に説教なんて大したもんだ」
「い、いえ、余計に怒らせてしまっただけなので……」
「でも私たちを守ろうとしてくれてありがとう。今度あなたのお店に行かせてちょうだい!」
ハーライトさんたちを追い払ったのはオブシディアさんであって、私は何もしていない。
過大評価される結果になってしまい、居心地の悪さを感じているとオーナーに声をかけられた。
「リザリアさん、向こうでお話しましょう。ここじゃギャラリーが多すぎる」
確かに片付けをしている間にも、人だかりは更に増えていた。
営業も間もなく再開できるということなので、私は店の奥へ避難することに。
後ろの方から女性たちの歓喜の叫びが聞こえたので驚いて振り向くと、オブシディアさんが小走りで私を追いかけてきていた。
「知らない奴から『若い娘さんらに笑いながら手を振ってやれ。喜ぶぞ』って言われて試しにやったら叫ばれたぞ……何なんだ、あいつら」
眉を顰める様子に少し同情しつつ、彼女たちの気持ちを伝えてあげることにする。
「それは……皆さん、オブシディアさんの笑顔を見ることができて嬉しいのだと思いますよ?」
「そういうことか。俺もリザとかミレーユの笑った顔を見るのは好きだから、何か分かるかも」
今後、オブシディアさん目当てのお客様が増えそう。
けれど今はもっと大事なことを考えなければ。
ハーライトさんは『精霊の隠れ家』に危害を加えようとしていたと自白していた。
それを実行しようとした部下たちが行方不明なのが気になる。
兵士の方々に夜の見張りを要請した方がいいかもしれない。
「さっきのもみあげの部下なら、もう来ないと思うぜ。昼間に来たのはただの下見で、肝心な時に怖じ気づいて逃げ出したんだろ」
「そうでしょうか……」
「そいつらだってあんな情けないもみあげのために、危険を冒す理由なんてないだろうし。今頃は『二度と近づかない』ように遠くに逃げている最中かもな」
オブシディアさんの言う通りならいいのだけれど。
「ありがとうございます。リザリアさん、オブシディアさん」
オーナーからは何度も感謝の気持ちを伝えられた。
どうもハーライトさんは、以前からレストランを勝手に占領していたのだとか。
フィリヌ侯爵家の名前を出されては、文句を言うわけにもいかない。
それで好き勝手させていたのだけれど、ああやって酔っ払って店内を荒らすわ、気に入ったウエイトレスに手を出すわで大変だったという。
しかも被害に遭ったのはこの店だけではなく、飲食店業界では悪い意味でも有名人だと判明。
「フィリヌ家に抗議もしましたが、無駄でした。ハーライトの魔導工芸品は王家御用達ですからね。ハーライトとフィリヌ家に楯突くことは、マリガンド王国そのものを敵に回すことと同義と逆に脅されてしまい……」
「貴族が平民を脅すなんて、何を考えているのでしょうね……」
開いた口が塞がらない。
いくらハーライトさんが優秀な職人だとしても、何もかも許されるわけではない。
むしろ貴族や王家の後ろ楯を持つのなら、それに恥じない立ち振舞いをするべきなのに。
「なので、あのハーライトの情けない姿を見てスカッとしましたよ! 最高でした!」
余程鬱憤が溜まっていたのか、オーナーの声には熱と力が込められていた。
「というわけで、本日は是非とも我が店のフルコースを召し上がって行ってください!」
「は、はい。私たちもそのつもりで……」
「もちろん、代金は結構ですので」
「え!?」
そういうわけにはいかないと断ろうとしたけれど、結局オーナーの熱意を冷ますことはできなかった。
ここはご厚意に預かることにした。
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