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45.かつての救世主
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「オブシディアさん……アンデシン様とお知り合いだったのですか?」
私が尋ねると、オブシディアさんはアンデシン様の顔をじっと見詰めてから、
「誰だ、このじいちゃん」
と訝しげな表情で逆に私に聞いてきた。
けれどアンデシン様は嫌な顔一つせず、むしろ嬉しそうに目を細めた。
「まだ生きているうちに、再びお会いすることが出来るとは……いやぁ、長生きをするものだ。クリスタルもきっと驚いていただろう」
「何言ってるんだよ。たかだか八十くらいで長生きなんて」
「あの時もあなた様はそのようなことを仰っていた。いや、あなた様からすれば、儂などまだまだ若輩者か」
アンデシン様だけが一方的に覚えていて、しかも現ギルドマスターが敬語で話している。
状況を飲み込めずにいると、アンデシン様は私にこんなことを尋ねた。
「リザリア。そなたは十六年前、この国にドラゴンの大群が襲来したことを知っておるか?」
「はい。当時のことは覚えていませんが……」
何らかの原因でドラゴンたちが凶暴化、この国を襲撃した事件だと新聞や本で読んだことがある。
魔法使いの皆さんが尽力してドラゴンを討伐してくださったおかげで、市街の被害はゼロ。
他国からは奇跡だと今でも語り継がれている。
「儂はあれを現役最後の仕事にするつもりだった。あのドラゴンの数では、相討ちが精一杯。当時のギルドメンバー全員が死を覚悟していたが、犠牲者は一人も出なかった」
そう。奇跡と言われているのは、魔法使いギルドにも死者が出なかったことも含まれている。
最前線に立っていたアンデシン様も脚に大怪我を負ってしまい、それが原因で引退することになったけれど命は助かった。
「オブシディア殿のおかげだ。彼は突然戦場に現れたかと思えば、たった一人でドラゴンを次々と屠った」
「……そうだったか? あ、ちょっと思い出してきたぞ。ドラゴンに両脚を凍らされたのに、無理に動いたから左脚が使い物にならなくなったじいちゃんだよな? 一緒にいた女にすごい怒鳴られてた」
「ははは……その通り。力尽きてドラゴンに喰われるところをあなた様に救われた」
私は無言で二人の会話を聞いていた。
まさか、オブシディアさんがこの国を救ってくれていたとは。
けれどおかしい、と一つの疑問が浮かぶ。
オブシディアさんは私と同じくらいの歳か、むしろ年下に見える。
なのに十六年前に活躍していた。もしかして実年齢は私よりかなり上なのかもしれない。
色々考えているとアンデシン様が私に、
「もしや、オブシディア殿がリザリアの店の工芸品職人なのか?」
「はい。とっても頼りになる方なのですよ」
「俺はリザの方がすごいと思うけどな」
「いいえ、オブシディアさんの方がすごいです。私には魔導工芸品は作れませんから」
「でも、それ以外のことは全部リザがしているだろ。俺はリザに言われて物を作っているだけだ」
どちらも引くつもりのない言い合いをしている私を見て、アンデシン様は優しそうに笑っていた。
けれど、何かを思い出したかのように急に表情を変える。
「オ、オブシディア殿。あなた様はもしやハーライトという男の店に、一度訪れていないだろうか?」
強張った声での問いかけだった。
オブシディアさんが「誰だっけ?」という顔をしているので、『精霊の隠れ家』に来る前に追い出された店のことだと私が説明すると眉根を顰めた。
「そういえばそいつ、そんな名前だった……」
「ああ、あの男。何という無礼を……」
アンデシン様だけではなく、その場にいた魔法使い全員が顔を引き攣らせている。
私が尋ねると、オブシディアさんはアンデシン様の顔をじっと見詰めてから、
「誰だ、このじいちゃん」
と訝しげな表情で逆に私に聞いてきた。
けれどアンデシン様は嫌な顔一つせず、むしろ嬉しそうに目を細めた。
「まだ生きているうちに、再びお会いすることが出来るとは……いやぁ、長生きをするものだ。クリスタルもきっと驚いていただろう」
「何言ってるんだよ。たかだか八十くらいで長生きなんて」
「あの時もあなた様はそのようなことを仰っていた。いや、あなた様からすれば、儂などまだまだ若輩者か」
アンデシン様だけが一方的に覚えていて、しかも現ギルドマスターが敬語で話している。
状況を飲み込めずにいると、アンデシン様は私にこんなことを尋ねた。
「リザリア。そなたは十六年前、この国にドラゴンの大群が襲来したことを知っておるか?」
「はい。当時のことは覚えていませんが……」
何らかの原因でドラゴンたちが凶暴化、この国を襲撃した事件だと新聞や本で読んだことがある。
魔法使いの皆さんが尽力してドラゴンを討伐してくださったおかげで、市街の被害はゼロ。
他国からは奇跡だと今でも語り継がれている。
「儂はあれを現役最後の仕事にするつもりだった。あのドラゴンの数では、相討ちが精一杯。当時のギルドメンバー全員が死を覚悟していたが、犠牲者は一人も出なかった」
そう。奇跡と言われているのは、魔法使いギルドにも死者が出なかったことも含まれている。
最前線に立っていたアンデシン様も脚に大怪我を負ってしまい、それが原因で引退することになったけれど命は助かった。
「オブシディア殿のおかげだ。彼は突然戦場に現れたかと思えば、たった一人でドラゴンを次々と屠った」
「……そうだったか? あ、ちょっと思い出してきたぞ。ドラゴンに両脚を凍らされたのに、無理に動いたから左脚が使い物にならなくなったじいちゃんだよな? 一緒にいた女にすごい怒鳴られてた」
「ははは……その通り。力尽きてドラゴンに喰われるところをあなた様に救われた」
私は無言で二人の会話を聞いていた。
まさか、オブシディアさんがこの国を救ってくれていたとは。
けれどおかしい、と一つの疑問が浮かぶ。
オブシディアさんは私と同じくらいの歳か、むしろ年下に見える。
なのに十六年前に活躍していた。もしかして実年齢は私よりかなり上なのかもしれない。
色々考えているとアンデシン様が私に、
「もしや、オブシディア殿がリザリアの店の工芸品職人なのか?」
「はい。とっても頼りになる方なのですよ」
「俺はリザの方がすごいと思うけどな」
「いいえ、オブシディアさんの方がすごいです。私には魔導工芸品は作れませんから」
「でも、それ以外のことは全部リザがしているだろ。俺はリザに言われて物を作っているだけだ」
どちらも引くつもりのない言い合いをしている私を見て、アンデシン様は優しそうに笑っていた。
けれど、何かを思い出したかのように急に表情を変える。
「オ、オブシディア殿。あなた様はもしやハーライトという男の店に、一度訪れていないだろうか?」
強張った声での問いかけだった。
オブシディアさんが「誰だっけ?」という顔をしているので、『精霊の隠れ家』に来る前に追い出された店のことだと私が説明すると眉根を顰めた。
「そういえばそいつ、そんな名前だった……」
「ああ、あの男。何という無礼を……」
アンデシン様だけではなく、その場にいた魔法使い全員が顔を引き攣らせている。
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