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43.お礼の店巡り
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店の居住スペースに戻ると、叔母様はミルクパン粥を深皿に盛りつけてテーブルに並べてくれた。
パンはミルク風味のスープをたっぷり吸って真っ白……ではなく、淡い黄色に染まっている。
仕上げに刻んだパセリが散らされてお洒落だ。
お兄様にはパン粥のみで、私たちには温野菜のサラダとデザートのゼリーつき。
一応お兄様にもサラダとゼリーを食べられるか聞いたらしいけれど、「無理」という答えが返ってきたらしい。
パンが黄色い謎の正体は南瓜。潰してミルクと混ぜたとのこと。
パンはとっても柔らかくて、優しい味がする。
温野菜サラダもほんのり温かく、濃厚な味わいのドレッシングがよく合う。
「うめぇ……うめぇ……」
お兄様は蒼白い顔でパン粥をゆっくり食べている。
今日一日ずっとこの有様だろう……。
迎えの馬車はお昼近くに来るそうだけれど、それまで様子を見ていたほうがいいかもしれない。
私がそう考えているのを察した叔母様が、苦笑しながら口を開く。
「リザリア。シルヴァンは私が見ておくから、あんたはせっかくの休みなんだし部屋でゆっくりするなり、出かけるなり好きにしていいわよ」
「……大丈夫ですか?」
「とりあえず食べ終わったら寝かせておくわ。もう~、酒に弱いのはお姉ちゃん譲りね」
初めて知るお母様の情報だった。
アルコールには強いと勝手に思い込んでいた。
「しかもすぐに酔っ払って次の日は二日酔いに苦しむのに、懲りずに毎回飲みすぎるのよ」
「ああ、なるほど。道理で世話の仕方が手慣れていると思った……」
合点がいった様子で、オブシディアさんがぽつりと呟く。
テーブルの上にあったメモを読んだ叔母様が、お兄様の介抱をする様子を眺めていたそう。
叔母様の口振りだとこれが初めてのことじゃなさそうなので、結婚前にこの悪癖を直してもらわなければ。
ちなみにオブシディアさんは、何ともなさそうに朝ご飯を完食していた。
朝食後、お兄様は叔母様に託して私は店を出た。オブシディアさんもそれについてくる。
「リザリア、どこに行くんだ?」
「魔法使いギルドにレストラン、それと花屋と……」
「……行くところ多くないか?」
「この前色んなお店の横を借りて、屋台を開かせていただきましたから。改めてそのお礼に伺いたいと思いまして」
ついでにそこで食事をしたり、商品を買おうかなとも思っている。
例えばお花を飾るだけで、店の雰囲気が明るくなるのだ。
だけどオブシディアさんは呆れたような、困惑したような顔で私を見た。
「お前……ミレーユに言われただろ。今日は休みなんだって。もっと自分の好きなことをすればいいのに」
「これが私のしたいことですし……いえ、違いますね。こういう時、他に何をすればいいのか分からないのです」
孤児院を出てからはずっと働いてばかりだった。だから暇の潰し方がなかなか思いつかない。
「そうなんだな。じゃあ店を繁盛させる以外に、お前の趣味も見付けないと」
「……ちなみにオブシディアさんの趣味は何ですか?」
「俺の? ……遊ぶこと?」
「そ、そうですか……」
あまり参考にならない答えだった。
でもお兄様曰くチェスを少し教えただけで自分より強くなったらしいので、何でもできる……所謂天才肌というものなのかもしれない。
と、そんな話をしているうちに魔法使いギルドに到着した。
パンはミルク風味のスープをたっぷり吸って真っ白……ではなく、淡い黄色に染まっている。
仕上げに刻んだパセリが散らされてお洒落だ。
お兄様にはパン粥のみで、私たちには温野菜のサラダとデザートのゼリーつき。
一応お兄様にもサラダとゼリーを食べられるか聞いたらしいけれど、「無理」という答えが返ってきたらしい。
パンが黄色い謎の正体は南瓜。潰してミルクと混ぜたとのこと。
パンはとっても柔らかくて、優しい味がする。
温野菜サラダもほんのり温かく、濃厚な味わいのドレッシングがよく合う。
「うめぇ……うめぇ……」
お兄様は蒼白い顔でパン粥をゆっくり食べている。
今日一日ずっとこの有様だろう……。
迎えの馬車はお昼近くに来るそうだけれど、それまで様子を見ていたほうがいいかもしれない。
私がそう考えているのを察した叔母様が、苦笑しながら口を開く。
「リザリア。シルヴァンは私が見ておくから、あんたはせっかくの休みなんだし部屋でゆっくりするなり、出かけるなり好きにしていいわよ」
「……大丈夫ですか?」
「とりあえず食べ終わったら寝かせておくわ。もう~、酒に弱いのはお姉ちゃん譲りね」
初めて知るお母様の情報だった。
アルコールには強いと勝手に思い込んでいた。
「しかもすぐに酔っ払って次の日は二日酔いに苦しむのに、懲りずに毎回飲みすぎるのよ」
「ああ、なるほど。道理で世話の仕方が手慣れていると思った……」
合点がいった様子で、オブシディアさんがぽつりと呟く。
テーブルの上にあったメモを読んだ叔母様が、お兄様の介抱をする様子を眺めていたそう。
叔母様の口振りだとこれが初めてのことじゃなさそうなので、結婚前にこの悪癖を直してもらわなければ。
ちなみにオブシディアさんは、何ともなさそうに朝ご飯を完食していた。
朝食後、お兄様は叔母様に託して私は店を出た。オブシディアさんもそれについてくる。
「リザリア、どこに行くんだ?」
「魔法使いギルドにレストラン、それと花屋と……」
「……行くところ多くないか?」
「この前色んなお店の横を借りて、屋台を開かせていただきましたから。改めてそのお礼に伺いたいと思いまして」
ついでにそこで食事をしたり、商品を買おうかなとも思っている。
例えばお花を飾るだけで、店の雰囲気が明るくなるのだ。
だけどオブシディアさんは呆れたような、困惑したような顔で私を見た。
「お前……ミレーユに言われただろ。今日は休みなんだって。もっと自分の好きなことをすればいいのに」
「これが私のしたいことですし……いえ、違いますね。こういう時、他に何をすればいいのか分からないのです」
孤児院を出てからはずっと働いてばかりだった。だから暇の潰し方がなかなか思いつかない。
「そうなんだな。じゃあ店を繁盛させる以外に、お前の趣味も見付けないと」
「……ちなみにオブシディアさんの趣味は何ですか?」
「俺の? ……遊ぶこと?」
「そ、そうですか……」
あまり参考にならない答えだった。
でもお兄様曰くチェスを少し教えただけで自分より強くなったらしいので、何でもできる……所謂天才肌というものなのかもしれない。
と、そんな話をしているうちに魔法使いギルドに到着した。
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