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38.一週間後

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「隠れ家が隠れ家じゃなくなっちゃった」

 叔母様は少し複雑そうな表情で、私にそう零した。
 店は繁盛しているけれど、『知る人ぞ知る名店』を理想としていたのに知名度を上げすぎた。
 そのことをどう受け止めたらいいか分からないらしい。

 そんな叔母様に、オブシディアさんが叔母様のクッキーを食べながら一言。

「儲かってるんだから、それでいいだろ。何の不満があるんだ?」
「ぐっ、正論……! そうね、多分私だけだったら、こんなところに店があるなんて誰も知られることなく、ひっそりと消えていく運命だったんだわ!」

 そう。路地裏に構えた店なんて普通は気づかれにくく、認識してくれたとしても好奇心より不気味さが勝って誰も来てくれない。
 だから最初の三日間は、人目につく場所で屋台販売することにした。
 一日ずっとそこに留まっているわけじゃなく、数時間ごとに移動して。
 場所の確保もあらかじめしておいた。

 ラ・ロシェリーでも人気の飲食店、雑貨店、花屋などの横を借りたのだけれど、その交渉もすんなりいった。
 魔法使いギルド……アンデシン様から私に協力するようにと、言われていたとのこと。
 なかには、私がフィリヌ魔導店にいた頃のお得意様もいた。
 場所取りの費用は要らないと仰ってくれたけれど、だったらと工芸品一式をプレゼントさせてもらった。

 飲食店は特に『満ちる水杯』を、花屋は『大地の守り手』を喜んでくれた。
『大地の守り手』というのは土の精霊石で作る工芸品で、植物の傍に置くだけで害虫やカビを防ぐことのできる優れもの。
 見た目は動物の形をした置物だ。
 土の神様は様々な動物の姿に変身する能力があると言われており、そのせいか『大地の守り手』も動物の形に作るのが一般的になっている。

 お客様には実演販売で商品のアピール。
 実演用の『永久の灯火』や『風の囁き』を用意して、お客様に直接炎を見てもらったり、香りを確かめてもらったり。
『満ちる水杯』で出した水も試飲してもらい、「美味しい」と高評価を貰えた。

 だけど、叔母様の作ったお菓子の効果も絶大だった。
 開店記念サービスとして配ったのだけれど、あまりにも好評すぎて今後も登場させることになってしまった。
 叔母様の負担になるかしら……と思いきや、

「きゃーっ、私のお菓子がみんなに食べてもらえる……! ガンガン作るから任せて! 新作もいっぱい考えるから!」

 と、張り切っていたから安心した。けれど彼女はそれでいいのだろうか。

 そんなこんなで四日目からは通常営業に切り替えると、開店前には既に行列ができていた。
 いくら何でも人気が出すぎじゃない? と訝しんだけれど、どうもハーライトさんの店と比較されることで余計に有名にもなったらしい。

 向こうの店は粗悪な品物を多く取り扱っており、『あの店とは大違いだ!』とお客様がこちらに流れ込んだそうだ。
 これに関しては少し疑っている。
 本人の性格はともかく、ハーライトさんの工芸品は見事なものばかり。
 叔母様の店で働く予定だった職人も、結構な腕前の人たちだった模様。

 職人に問題がないとすれば、後は……。

「あらぁ! あんたも来てくれたのね!」

 思考を巡らせつつお昼のローストビーフサンドイッチ(ローストビーフはもちろん叔母様の手作り)を食べていると、叔母様が満面の笑みで誰かを連れてきた。

「よっ、リザリア。元気にしてたか?」
「シルヴァンお兄様!」

 久しぶりに再会したお兄様は、腕に大きな紙袋を持っていた。

「店、繁盛してるそうだな。母上が参加した茶会でも、その話題が出て大盛り上がりだったんだと」
「はい、皆様が応援してくださったおかげです」
「……それだけじゃないと思うけどな。なぁ、あのオブシディアって奴どこにいる? そいつが陰が薄いくせにすごい魔法使いなんだろ? 会ってみてーな」
「オブシディアさんなら……」
「オブシディアさんなら?」
「お兄様の真後ろにいます」

 くるりと背後を振り向いたお兄様が見たもの。
 それは至近距離で、自分をじっと見ていたオブシディアさんだった。

「わああああああっ!!」

 お兄様の悲鳴が響き渡った。
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