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20.気に食わない(トール視点)

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 話し合いが終わってフィリヌ邸に帰ってきた。
 本当だったら慰謝料を請求して、リザリアの泣き顔の一つでも見られると思ったのに、何一つ上手くいかなかった。

 まず、かなりの額の慰謝料を提示したのに、ディンデール侯爵もリザリアも反応が薄かった。
 何だよ、その程度すぐに払えるって言いたいのかよ。
 だったらこっちにも考えがある。
 書面で正式に請求する時、もっと金額を上げておこうっと。
 それで死ぬほど怯えてしまえ!

 だけど僕の不満はそれだけじゃない。
 何だよ、あの黒い魔法使い!
 リザリアの後ろから突然現れて、リザ呼びしやがった!
 僕ですらそんな愛称つけてなかったのに……これは浮気だ。
 リザリアはあの男と浮気していて、だから僕にはあんなに冷たかったに違いない。
 仕事が忙しいなんて嘘だったんだよ。
 その証拠を掴んで、ディンデール家ごと地獄に落としてやる。

 当然、あの魔法使いも痛い目に遭わせる。
 このフィリヌ侯爵の子息である僕を最低呼ばわりしたんだ。
 その報いをしっかり受けさせて、リザリアも取り返す。
 確かにリザリアはフィリヌ魔導店を解雇された身だよ。
 でも父上は反対しているけどさぁ、彼女にはけじめとして店で働かせたいんだよね。
 で、その給料はアデラのアクセサリー代に使わせてもらうと……。
 うんうん、我ながらいい考えだ。
 僕のことを散々酷く言っていたのに、自分だって他の男に手を出していたんだし。

 早速アデラにもこの作戦を聞いてもらおう。
 そう思って話しかけたんだけど……。

「アデラ、ちょっといいかな」
「………………」
「アデラ?」
「………………」
「アデラー?」
「え? あ、うん。どうしたの、トール様?」

 それは僕の台詞だよ。
 ディンデール邸を出てから、ずっとこんな様子。
 どうしたのかなって不安になっていると、

「ね、ねぇ、トール様? リザリアさんの傍にいたあの魔法使い……何てお名前なのかしら」

 頬を染めながらそんなことを僕に聞いてきた。

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