19 / 88
19.再就職先
しおりを挟む
振り返るとそこにいたのは、オブシディアさんだった。
どうしてここに? と私が驚いていると、隣にいたお父様が「おわあぁっ」と叫んで立ち上がった。
「き、君は何だね!? いつからそこにいたのかね!?」
「最初からリザの後ろにいただろ」
「いやいや! 私リザリアの後にこの部屋に入ってきたが、君いなかったじゃないか!」
「それはお前が見えていなかっただけだ。……っと」
オブシディアさんが空中で停止しているティーカップを指差すと、カップはアデラさんの前に音もなく着地した。
紅茶も吸い寄せられるように、カップの中へ戻ってゆく。
その様子を見たお父様が目を輝かせる。
「君……魔法使いか! すごいぞ、リザリアを助けてくれてありがとう!」
「リザ、お前の父親って表情がコロコロ変わって面白いな。子供みたいだ」
侯爵を子供扱い……。
お父様はあんまり気にしていないみたいで、はしゃいでいるけれど。
一方トール様は少し焦った表情を浮かべていた。
「リ、リザリア、君に魔法使いの友人がいるなんて聞いていないよ」
「聞いていないって……本日出会ったばかりですので」
私の言葉に同意するように、オブシディアさんも首を縦に振る。
「ああ、まだ会ってから半日も経っていないぜ」
「嘘だ! 打ち解けるのが早すぎる!」
興奮気味に反論するトール様に、オブシディアさんは不思議そうに瞬きを繰り返す。
「なあリザ。何でこいつこんなに怒っているんだ? よく分からないけど、お前と別れて他の女に手を出してるのにお前に未練があるみたいだぞ」
「ほ、他の女ってアデラになんてことを言うんだ! 僕の幼馴染なんだぞ!」
そのアデラさんはトール様が擁護しているのを無視して、突如現れた闖入者に熱い視線を送っている。
おかしな空気のなか、お父様がオブシディアさんに焼き菓子を差し出しながら疑問を口にした。
「魔法使いくん、君とリザリアはどういう関係なんだい?」
「従業員仲間? ミレーユって女の店で働くことになった」
オブシディアさんはそう言って、焼き菓子を受け取った。
直後、トール様が両手でテーブルを叩く音が応接間に響き渡った。
「そんなの認めないよ。リザリア、君はうちの店に再就職してもらうんだからね!」
「は!?」
「元妻として、そのくらいのことはしてもらわないと。言う通りにしてくれないと、慰謝料増やしちゃうけどいいの?」
当然のことのように言う元夫。
これには比較的温厚な態度を取り続けていたお父様も、顔を怒りで歪めて口を開こうとする。
それを遮るように、オブシディアさんが一言。
「お前、最低だな……」
どうしてここに? と私が驚いていると、隣にいたお父様が「おわあぁっ」と叫んで立ち上がった。
「き、君は何だね!? いつからそこにいたのかね!?」
「最初からリザの後ろにいただろ」
「いやいや! 私リザリアの後にこの部屋に入ってきたが、君いなかったじゃないか!」
「それはお前が見えていなかっただけだ。……っと」
オブシディアさんが空中で停止しているティーカップを指差すと、カップはアデラさんの前に音もなく着地した。
紅茶も吸い寄せられるように、カップの中へ戻ってゆく。
その様子を見たお父様が目を輝かせる。
「君……魔法使いか! すごいぞ、リザリアを助けてくれてありがとう!」
「リザ、お前の父親って表情がコロコロ変わって面白いな。子供みたいだ」
侯爵を子供扱い……。
お父様はあんまり気にしていないみたいで、はしゃいでいるけれど。
一方トール様は少し焦った表情を浮かべていた。
「リ、リザリア、君に魔法使いの友人がいるなんて聞いていないよ」
「聞いていないって……本日出会ったばかりですので」
私の言葉に同意するように、オブシディアさんも首を縦に振る。
「ああ、まだ会ってから半日も経っていないぜ」
「嘘だ! 打ち解けるのが早すぎる!」
興奮気味に反論するトール様に、オブシディアさんは不思議そうに瞬きを繰り返す。
「なあリザ。何でこいつこんなに怒っているんだ? よく分からないけど、お前と別れて他の女に手を出してるのにお前に未練があるみたいだぞ」
「ほ、他の女ってアデラになんてことを言うんだ! 僕の幼馴染なんだぞ!」
そのアデラさんはトール様が擁護しているのを無視して、突如現れた闖入者に熱い視線を送っている。
おかしな空気のなか、お父様がオブシディアさんに焼き菓子を差し出しながら疑問を口にした。
「魔法使いくん、君とリザリアはどういう関係なんだい?」
「従業員仲間? ミレーユって女の店で働くことになった」
オブシディアさんはそう言って、焼き菓子を受け取った。
直後、トール様が両手でテーブルを叩く音が応接間に響き渡った。
「そんなの認めないよ。リザリア、君はうちの店に再就職してもらうんだからね!」
「は!?」
「元妻として、そのくらいのことはしてもらわないと。言う通りにしてくれないと、慰謝料増やしちゃうけどいいの?」
当然のことのように言う元夫。
これには比較的温厚な態度を取り続けていたお父様も、顔を怒りで歪めて口を開こうとする。
それを遮るように、オブシディアさんが一言。
「お前、最低だな……」
60
お気に入りに追加
5,302
あなたにおすすめの小説
この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~
柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。
家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。
そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。
というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。
けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。
そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。
ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。
それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。
そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。
一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。
これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。
他サイトでも掲載中。
[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・
青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。
婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。
「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」
妹の言葉を肯定する家族達。
そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。
※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。
異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
勇者パーティを追放された聖女ですが、やっと解放されてむしろ感謝します。なのにパーティの人たちが続々と私に助けを求めてくる件。
八木愛里
ファンタジー
聖女のロザリーは戦闘中でも回復魔法が使用できるが、勇者が見目麗しいソニアを新しい聖女として迎え入れた。ソニアからの入れ知恵で、勇者パーティから『役立たず』と侮辱されて、ついに追放されてしまう。
パーティの人間関係に疲れたロザリーは、ソロ冒険者になることを決意。
攻撃魔法の魔道具を求めて魔道具屋に行ったら、店主から才能を認められる。
ロザリーの実力を知らず愚かにも追放した勇者一行は、これまで攻略できたはずの中級のダンジョンでさえ失敗を繰り返し、仲間割れし破滅へ向かっていく。
一方ロザリーは上級の魔物討伐に成功したり、大魔法使いさまと協力して王女を襲ってきた魔獣を倒したり、国の英雄と呼ばれる存在になっていく。
これは真の実力者であるロザリーが、ソロ冒険者としての地位を確立していきながら、残念ながら追いかけてきた魔法使いや女剣士を「虫が良すぎるわ!」と追っ払い、入り浸っている魔道具屋の店主が実は憧れの大魔法使いさまだが、どうしても本人が気づかない話。
※11話以降から勇者パーティの没落シーンがあります。
※40話に鬱展開あり。苦手な方は読み飛ばし推奨します。
※表紙はAIイラストを使用。
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。
夫に用無しと捨てられたので薬師になって幸せになります。
光子
恋愛
この世界には、魔力病という、まだ治療法の見つかっていない未知の病が存在する。私の両親も、義理の母親も、その病によって亡くなった。
最後まで私の幸せを祈って死んで行った家族のために、私は絶対、幸せになってみせる。
たとえ、離婚した元夫であるクレオパス子爵が、市民に落ち、幸せに暮らしている私を連れ戻そうとしていても、私は、あんな地獄になんか戻らない。
地獄に連れ戻されそうになった私を救ってくれた、同じ薬師であるフォルク様と一緒に、私はいつか必ず、魔力病を治す薬を作ってみせる。
天国から見守っているお義母様達に、いつか立派な薬師になった姿を見てもらうの。そうしたら、きっと、私のことを褒めてくれるよね。自慢の娘だって、思ってくれるよね――――
不定期更新。
この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。
落ちこぼれ姫はお付きの従者と旅立つ。王族にふさわしくないと追放されましたが、私にはありのままの私を愛してくれる素敵な「家族」がおりますので。
石河 翠
恋愛
神聖王国の姫は誕生日に宝石で飾られた金の卵を贈られる。王族として成長する中で卵が割れ、精霊が現れるのだ。
ところがデイジーの卵だけは、いつまでたっても割れないまま。精霊を伴わない姫は王族とみなされない。デイジーを大切にしてくれるのは、お付きの従者だけ。
あるとき、異母姉に卵を奪われそうになったデイジーは姉に怪我を負わせてしまう。嫁入り前の姉の顔に傷をつけたと、縁を切られ平民として追放された彼女の元へ、お付きの従者が求婚にやってくる。
さらにデイジーがいなくなった王城では、精霊が消えてしまい……。
実は精霊王の愛し子だったヒロインと、彼女に片思いしていた一途なヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID25997681)をお借りしております。
【完結】私のことを愛さないと仰ったはずなのに 〜家族に虐げれ、妹のワガママで婚約破棄をされた令嬢は、新しい婚約者に溺愛される〜
ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
とある子爵家の長女であるエルミーユは、家長の父と使用人の母から生まれたことと、常人離れした記憶力を持っているせいで、幼い頃から家族に嫌われ、酷い暴言を言われたり、酷い扱いをされる生活を送っていた。
エルミーユには、十歳の時に決められた婚約者がおり、十八歳になったら家を出て嫁ぐことが決められていた。
地獄のような家を出るために、なにをされても気丈に振舞う生活を送り続け、無事に十八歳を迎える。
しかし、まだ婚約者がおらず、エルミーユだけ結婚するのが面白くないと思った、ワガママな異母妹の策略で騙されてしまった婚約者に、婚約破棄を突き付けられてしまう。
突然結婚の話が無くなり、落胆するエルミーユは、とあるパーティーで伯爵家の若き家長、ブラハルトと出会う。
社交界では彼の恐ろしい噂が流れており、彼は孤立してしまっていたが、少し話をしたエルミーユは、彼が噂のような恐ろしい人ではないと気づき、一緒にいてとても居心地が良いと感じる。
そんなブラハルトと、互いの結婚事情について話した後、互いに利益があるから、婚約しようと持ち出される。
喜んで婚約を受けるエルミーユに、ブラハルトは思わぬことを口にした。それは、エルミーユのことは愛さないというものだった。
それでも全然構わないと思い、ブラハルトとの生活が始まったが、愛さないという話だったのに、なぜか溺愛されてしまい……?
⭐︎全56話、最終話まで予約投稿済みです。小説家になろう様にも投稿しております。2/16女性HOTランキング1位ありがとうございます!⭐︎
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる