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19.再就職先

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 振り返るとそこにいたのは、オブシディアさんだった。
 どうしてここに? と私が驚いていると、隣にいたお父様が「おわあぁっ」と叫んで立ち上がった。

「き、君は何だね!? いつからそこにいたのかね!?」
「最初からリザの後ろにいただろ」
「いやいや! 私リザリアの後にこの部屋に入ってきたが、君いなかったじゃないか!」
「それはお前が見えていなかっただけだ。……っと」

 オブシディアさんが空中で停止しているティーカップを指差すと、カップはアデラさんの前に音もなく着地した。
 紅茶も吸い寄せられるように、カップの中へ戻ってゆく。
 その様子を見たお父様が目を輝かせる。

「君……魔法使いか! すごいぞ、リザリアを助けてくれてありがとう!」
「リザ、お前の父親って表情がコロコロ変わって面白いな。子供みたいだ」

 侯爵を子供扱い……。
 お父様はあんまり気にしていないみたいで、はしゃいでいるけれど。

 一方トール様は少し焦った表情を浮かべていた。

「リ、リザリア、君に魔法使いの友人がいるなんて聞いていないよ」
「聞いていないって……本日出会ったばかりですので」

 私の言葉に同意するように、オブシディアさんも首を縦に振る。

「ああ、まだ会ってから半日も経っていないぜ」
「嘘だ! 打ち解けるのが早すぎる!」

 興奮気味に反論するトール様に、オブシディアさんは不思議そうに瞬きを繰り返す。

「なあリザ。何でこいつこんなに怒っているんだ? よく分からないけど、お前と別れて他の女に手を出してるのにお前に未練があるみたいだぞ」
「ほ、他の女ってアデラになんてことを言うんだ! 僕の幼馴染なんだぞ!」

 そのアデラさんはトール様が擁護しているのを無視して、突如現れた闖入者に熱い視線を送っている。
 おかしな空気のなか、お父様がオブシディアさんに焼き菓子を差し出しながら疑問を口にした。

「魔法使いくん、君とリザリアはどういう関係なんだい?」
「従業員仲間? ミレーユって女の店で働くことになった」

 オブシディアさんはそう言って、焼き菓子を受け取った。
 直後、トール様が両手でテーブルを叩く音が応接間に響き渡った。

「そんなの認めないよ。リザリア、君はうちの店に再就職してもらうんだからね!」
「は!?」
「元妻として、そのくらいのことはしてもらわないと。言う通りにしてくれないと、慰謝料増やしちゃうけどいいの?」

 当然のことのように言う元夫。
 これには比較的温厚な態度を取り続けていたお父様も、顔を怒りで歪めて口を開こうとする。

 それを遮るように、オブシディアさんが一言。

「お前、最低だな……」
 
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