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17.迷惑な来客
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店のことは叔母様に任せて、お兄様と一緒に馬車でディンデール邸へ向かう。
お兄様によると来訪したのはトール様とアデラさん、それとフィリヌ家の顧問弁護士の三人。
意外にもフィリヌ侯爵夫妻の姿はなかったそう。
お兄様はその理由をトール様から聞いていた。
「侯爵夫人の実家……ミオスネット家に説得しに行ってんだと」
「説得? 何のですか?」
「何でもトールとお前の離婚に猛反対していて、このまま別れるならフィリヌ家と絶縁するって鼻息を荒くしているそうだ」
「反対されても困るのですが?」
「それなー!」
私とお兄様は馬車の中で頷き合った。
トール様の心はアデラさんのところにあり、私もトール様への情は残っていない。
フィリヌ侯爵夫妻は私を毛嫌いしていて、ディンデール家もフィリヌ家を嫌悪している。
誰もが望む離婚なのに、突然現れた反対派。
フィリヌ侯爵夫人も予想外だったろうに。
「トールの奴『慰謝料についての話し合いくらい親抜きで頑張らなくちゃね。二人も僕のことを応援していたよ』……って言ってて、何つーか馬鹿丸出しだったわ。親に甘やかされるとああいう生き物に育つのな……」
お兄様は心底呆れた様子でそう言った。
お兄様としては、本当は私をこんな話し合いに参加させたくなかったらしい。
だけど、「当人同士で話し合うべき」という弁護士の言い分を撥ね退けることができなかったとのこと。
「あー、そういや叔母様の店は大丈夫そうか? 店の中木箱だらけだったけど」
「はい。無事職人も見つかりました。オブシディアさんという方なのですけれど……ほら、黒いコートを着た男性がいたでしょう?」
「……そんな奴いたかぁ? お前と叔母様しかいなかった気がするな」
やっぱりお兄様もオブシディアさんには気づなかったようだ。
オブシディアさんは魔力がどうとか言っていたけれど、後で聞いてみようと思う。
「遅いよ、リザリア。僕とアデラを困らせるために、わざと遅れてきたの?」
ディンデール邸の応接間では、トール様たちが私の到着を待っていた。
焼き菓子を両手に持って頬張る夫の姿に、私は苦笑いを浮かべる。
行儀が悪いからやめましょうと注意したその食べ方は、結局直らなかったようだ。
アデラさんは何故かお兄様を見た途端、手鏡を取り出して髪型をチェックしていた。
ただし応接間に入ってきたお父様を入れ替わる形で出ていくと、何事もなかったかのように紅茶を飲み始める。
「ではリザリア様もやってきたので、具体的な話を始めましょうか」
そう口火を切ったのは弁護士だった。
具体的な話……早く終わらせて店に戻りたいと思っていると、
「リザリア、ちゃんと僕の言うことを聞くんだよ」
トール様に手をぎゅっと握られ、私は慌てて振り解いた。
お父様もびっくりした顔をする中、トール様が不服そうに眉を顰める。
「何だよ。普通喜ぶものじゃない?」
「よ、喜ぶ?」
「僕みたいな顔のいい男に手を握られたんだ。女の子ってそういうの好きだろう?」
「いえ、まったく……そもそもあなたは私と離婚するだけではなく、慰謝料も貰うつもりなのでしょう? そんな方に好意など持てません」
確かにトール様は常人より端正な顔立ちをしている。
けれど見た目と中身が釣り合っていないので、かっこいいと思ったことは正直なところ……。
「そんな偉そうなことを言ってていいのかな? 君のせいでディンデール家が大金を支払うことになるんだよ」
「やめなさい。君のような男がうちの娘に触るんじゃない」
トール様が醜悪な笑みを浮かべながら再び私の手を握ろうとするので、お父様が制止してくれた。
そして厳しい視線を弁護士に向ける。
「それから君、浮気した側が慰謝料を請求するだなんて正気かい?」
「……旦那様がそう望んでおられますので」
一瞬の逡巡の後、硬い表情をした弁護士からの返答に、思わず私は彼に同情した。
無理な要求だと分かっていても、主人の命令には逆らえない。哀れである。
お兄様によると来訪したのはトール様とアデラさん、それとフィリヌ家の顧問弁護士の三人。
意外にもフィリヌ侯爵夫妻の姿はなかったそう。
お兄様はその理由をトール様から聞いていた。
「侯爵夫人の実家……ミオスネット家に説得しに行ってんだと」
「説得? 何のですか?」
「何でもトールとお前の離婚に猛反対していて、このまま別れるならフィリヌ家と絶縁するって鼻息を荒くしているそうだ」
「反対されても困るのですが?」
「それなー!」
私とお兄様は馬車の中で頷き合った。
トール様の心はアデラさんのところにあり、私もトール様への情は残っていない。
フィリヌ侯爵夫妻は私を毛嫌いしていて、ディンデール家もフィリヌ家を嫌悪している。
誰もが望む離婚なのに、突然現れた反対派。
フィリヌ侯爵夫人も予想外だったろうに。
「トールの奴『慰謝料についての話し合いくらい親抜きで頑張らなくちゃね。二人も僕のことを応援していたよ』……って言ってて、何つーか馬鹿丸出しだったわ。親に甘やかされるとああいう生き物に育つのな……」
お兄様は心底呆れた様子でそう言った。
お兄様としては、本当は私をこんな話し合いに参加させたくなかったらしい。
だけど、「当人同士で話し合うべき」という弁護士の言い分を撥ね退けることができなかったとのこと。
「あー、そういや叔母様の店は大丈夫そうか? 店の中木箱だらけだったけど」
「はい。無事職人も見つかりました。オブシディアさんという方なのですけれど……ほら、黒いコートを着た男性がいたでしょう?」
「……そんな奴いたかぁ? お前と叔母様しかいなかった気がするな」
やっぱりお兄様もオブシディアさんには気づなかったようだ。
オブシディアさんは魔力がどうとか言っていたけれど、後で聞いてみようと思う。
「遅いよ、リザリア。僕とアデラを困らせるために、わざと遅れてきたの?」
ディンデール邸の応接間では、トール様たちが私の到着を待っていた。
焼き菓子を両手に持って頬張る夫の姿に、私は苦笑いを浮かべる。
行儀が悪いからやめましょうと注意したその食べ方は、結局直らなかったようだ。
アデラさんは何故かお兄様を見た途端、手鏡を取り出して髪型をチェックしていた。
ただし応接間に入ってきたお父様を入れ替わる形で出ていくと、何事もなかったかのように紅茶を飲み始める。
「ではリザリア様もやってきたので、具体的な話を始めましょうか」
そう口火を切ったのは弁護士だった。
具体的な話……早く終わらせて店に戻りたいと思っていると、
「リザリア、ちゃんと僕の言うことを聞くんだよ」
トール様に手をぎゅっと握られ、私は慌てて振り解いた。
お父様もびっくりした顔をする中、トール様が不服そうに眉を顰める。
「何だよ。普通喜ぶものじゃない?」
「よ、喜ぶ?」
「僕みたいな顔のいい男に手を握られたんだ。女の子ってそういうの好きだろう?」
「いえ、まったく……そもそもあなたは私と離婚するだけではなく、慰謝料も貰うつもりなのでしょう? そんな方に好意など持てません」
確かにトール様は常人より端正な顔立ちをしている。
けれど見た目と中身が釣り合っていないので、かっこいいと思ったことは正直なところ……。
「そんな偉そうなことを言ってていいのかな? 君のせいでディンデール家が大金を支払うことになるんだよ」
「やめなさい。君のような男がうちの娘に触るんじゃない」
トール様が醜悪な笑みを浮かべながら再び私の手を握ろうとするので、お父様が制止してくれた。
そして厳しい視線を弁護士に向ける。
「それから君、浮気した側が慰謝料を請求するだなんて正気かい?」
「……旦那様がそう望んでおられますので」
一瞬の逡巡の後、硬い表情をした弁護士からの返答に、思わず私は彼に同情した。
無理な要求だと分かっていても、主人の命令には逆らえない。哀れである。
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