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「火! 火がちゃんとつくかどうか確かめてみないと……!」
「叔母様、マッチはありますか?」
「ちょっと外で買ってくるわね!」
よかった。こんな物置小屋のような惨状の店内にマッチが置きっぱなしになっていなくて。
何かの拍子で発火したら、大惨事になってしまうところだった。
マッチを求めて叔母様が慌てて店から出ようとすると、
「火くらい俺がつけてやる」
オブシディアさんがそう言って人差し指で弾くような仕草をすると、蝋燭の芯に火が点いた。
オレンジ色の炎がゆらゆらと揺れる蝋燭と、「どうだ」と言わんばかりの表情をするオブシディアさんを交互に見比べた後、叔母様は私に耳打ちした。
「この蝋燭どうなの? あんなに早く作ったんだから、すごい最悪な質じゃない?」
「いえ、それどころか……」
蝋燭の形よし、芯の長さと太さよし、炎の揺らめき具合もよし。
永久の灯火は魔石の力のおかげで水をかけたり、強く息を吹きかけない限り火が消えない。
それに関してはある程度時間が経たないと確かめられないけれど、現時点では文句なしの一級品。
彼は間違いなくハーライトさんを超える才能の持ち主だ。
「……何だよ、お前らも俺が何かズルしたって思ってるのか?」
オブシディアさんが面白くなさそうに唇を尖らせるので、私は首を横に振った。
「思っていませんよ。私はあなたを信じます」
「え? 大丈夫なの、リザリア……?」
「だって、オブシディアさんが妙な術を使って、私たちを騙そうとする様子はありませんでしたから」
オブシディアさんは作成の速度と精度が異様に優れているだけで、妙な魔法を使っているわけではない。
私は魔法を使うことができないけれど、魔法によるイカサマを見抜くくらいはできる。
「でもハーライトはこの子を追い出したじゃない」
「……もしかしたら、自分より上と認めたくなかったのかもしれませんね」
自尊心が高い人だったから。
そのことを思い返していると、木箱から飛び降りたオブシディアさんが私の顔を覗き込む。
「じゃあ、俺ここで働いていいか?」
「もちろん。そうでしょう、叔母様?」
「え? ええ、リザリアがそう言うなら……」
叔母様が恐る恐る頷くと、オブシディアさんは首を傾げた。
「ミレーユが店長なんだろ? 一番偉い奴なんだから、もっと自信持った方がいいと思うぞ」
「仰る通りで……」
出会って初日の人に駄目出しされている……。
けれど、職人を一人でも確保することができた。
これなら何とかなるかも……と思っていると、店の外から馬車が止まる音が聞こえてきた。
シルヴァンお兄様が馬車から降りるのが見えた。
「叔母様、リザリアちょっと借りていくけどいいか?」
店に入るなり、お兄様が叔母様にそう尋ねる。
やけに苛立った様子で。
「あ、あのお兄様。私何かしてしまいましたか……?」
「いーや、お前は何もしてない。ただな……」
お兄様は深く溜め息をついてから言葉を続けた。
「フィリヌ家の奴ら、お前に慰謝料を請求するつもりみたいでな」
「……今、何と?」
「だから自分たちの息子が浮気したのも離婚するのも、全部お前のせいだから慰謝料を寄越せって騒いでいるんだよ」
「………………」
お兄様の話を聞いて、私は頭が痛くなった。
「叔母様、マッチはありますか?」
「ちょっと外で買ってくるわね!」
よかった。こんな物置小屋のような惨状の店内にマッチが置きっぱなしになっていなくて。
何かの拍子で発火したら、大惨事になってしまうところだった。
マッチを求めて叔母様が慌てて店から出ようとすると、
「火くらい俺がつけてやる」
オブシディアさんがそう言って人差し指で弾くような仕草をすると、蝋燭の芯に火が点いた。
オレンジ色の炎がゆらゆらと揺れる蝋燭と、「どうだ」と言わんばかりの表情をするオブシディアさんを交互に見比べた後、叔母様は私に耳打ちした。
「この蝋燭どうなの? あんなに早く作ったんだから、すごい最悪な質じゃない?」
「いえ、それどころか……」
蝋燭の形よし、芯の長さと太さよし、炎の揺らめき具合もよし。
永久の灯火は魔石の力のおかげで水をかけたり、強く息を吹きかけない限り火が消えない。
それに関してはある程度時間が経たないと確かめられないけれど、現時点では文句なしの一級品。
彼は間違いなくハーライトさんを超える才能の持ち主だ。
「……何だよ、お前らも俺が何かズルしたって思ってるのか?」
オブシディアさんが面白くなさそうに唇を尖らせるので、私は首を横に振った。
「思っていませんよ。私はあなたを信じます」
「え? 大丈夫なの、リザリア……?」
「だって、オブシディアさんが妙な術を使って、私たちを騙そうとする様子はありませんでしたから」
オブシディアさんは作成の速度と精度が異様に優れているだけで、妙な魔法を使っているわけではない。
私は魔法を使うことができないけれど、魔法によるイカサマを見抜くくらいはできる。
「でもハーライトはこの子を追い出したじゃない」
「……もしかしたら、自分より上と認めたくなかったのかもしれませんね」
自尊心が高い人だったから。
そのことを思い返していると、木箱から飛び降りたオブシディアさんが私の顔を覗き込む。
「じゃあ、俺ここで働いていいか?」
「もちろん。そうでしょう、叔母様?」
「え? ええ、リザリアがそう言うなら……」
叔母様が恐る恐る頷くと、オブシディアさんは首を傾げた。
「ミレーユが店長なんだろ? 一番偉い奴なんだから、もっと自信持った方がいいと思うぞ」
「仰る通りで……」
出会って初日の人に駄目出しされている……。
けれど、職人を一人でも確保することができた。
これなら何とかなるかも……と思っていると、店の外から馬車が止まる音が聞こえてきた。
シルヴァンお兄様が馬車から降りるのが見えた。
「叔母様、リザリアちょっと借りていくけどいいか?」
店に入るなり、お兄様が叔母様にそう尋ねる。
やけに苛立った様子で。
「あ、あのお兄様。私何かしてしまいましたか……?」
「いーや、お前は何もしてない。ただな……」
お兄様は深く溜め息をついてから言葉を続けた。
「フィリヌ家の奴ら、お前に慰謝料を請求するつもりみたいでな」
「……今、何と?」
「だから自分たちの息子が浮気したのも離婚するのも、全部お前のせいだから慰謝料を寄越せって騒いでいるんだよ」
「………………」
お兄様の話を聞いて、私は頭が痛くなった。
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