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14.夜の人
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まるで夜のような人。
それがその青年の第一印象だった。
柔らかそうな癖毛のアッシュブロンド。
裾の長い真っ黒なコートに、紐が解れた真っ黒なブーツ。
コートの下に着ているローブは藍色で、首元は金のネックレスで飾られている。
歳は私と同じくらい、若しくは少し下だろうか。
子供のように拗ねた顔をしてしゃがむ姿に、私は目を丸くした。
「叔母様、あの方は知り合いですか?」
「え?」
「ほら、あの黒い男の人です。あんな場所にいるのですから、叔母様に用事があるのでは?」
「えぇ?」
叔母様が不思議そうに首を捻っている。
「誰のことを言っているの?」
……彼のことが見えていない?
でも確かに、あんなに目立つ格好をしているのに拘わらず誰も見向きしない。
まさか私にしか見えない幽霊……なのか。
不気味に思っていると、彼がこちらを向いた。
黒曜石を彷彿とさせる黒い瞳と視線が合う。
とりあえず会釈すると、彼は大きく目を見開いて立ち上がった。
こちらに向かって走ってきた。
「お前、魔力が全然ないのに俺のことがすぐに分かったのか?」
困惑と期待が入り混じる表情で尋ねられる。
魔力が全然ない。密かに気にしていることを言われて、軽く傷つきながら頷く。
「ヒャッ! 何この子! いつからそこにいたの!?」
やっと青年を認識したらしい叔母様が悲鳴を上げた。
ということは幽霊ではないようだ。
青年は叔母様の疑問には答えず、私の周りをぐるぐると回りながら私を観察している。
犬か猫みたいだ。
「へーえ……珍しいこともあるもんだな。魔力高い奴だって、最初は中々気づかないのに」
「あ、あの……?」
「それにいい匂いがする。秋と冬の間に吹く風の匂いだ。俺は好きだぜ」
「はぁ」
正面に立って、にっこりと笑う。
さっきまでぶすっとしていたのが嘘のよう。
「あなた、そこに座っていたけれど……何かあったのですか?」
「……何もない。働こうと思ってた店を追い出されて、行く宛がなくなってただけだ」
働き手を探している店もあれば、働き手を追い出す店もある。
世の中の厳しさを感じていると、叔母様がじっと青年を見詰めている。
……叔母様?
「あなた、行く宛がないの?」
「ああ。誰に声かけても無視されるし、このまま空に帰ろうかなって思ってた」
「空に? 随分ロマンチックなこと言うのねぇ。よし、あなたうちの店で働かない?」
叔母様!?
「え? 働かせてくれるのか?」
「あなたができることをするだけでいいわ!」
「分かった、よろしくな!」
叔母様、何か自棄になっているのでは。
雇えるなら誰でもいいと思っていないだろうか。
あっさり頷いてしまった青年も青年。泥船の乗組員が一人増えてしまった。
頭を抱えていると、青年に両手を掴まれた。
「俺の名前はオブシディア。お前たちは?」
「私はリザリアですが……あの、もっとよくお考えになってから決めた方が……」
「私はミレーユよ。よろしくね」
「ああ、よろしくな!」
光の速さで話が進んでいく……。
「さあ、店はこっちよ!」と路地裏に入っていく叔母様と、私の手を掴んだままそれについていくオブシディアさんを止めることができない。
そして、
「……何でこんな所に店があるんだ。こんなんじゃ客来ないぜ?」
店を見るなり訝しげな表情で尋ねる彼に、叔母様は何も言い返せなかった。
それがその青年の第一印象だった。
柔らかそうな癖毛のアッシュブロンド。
裾の長い真っ黒なコートに、紐が解れた真っ黒なブーツ。
コートの下に着ているローブは藍色で、首元は金のネックレスで飾られている。
歳は私と同じくらい、若しくは少し下だろうか。
子供のように拗ねた顔をしてしゃがむ姿に、私は目を丸くした。
「叔母様、あの方は知り合いですか?」
「え?」
「ほら、あの黒い男の人です。あんな場所にいるのですから、叔母様に用事があるのでは?」
「えぇ?」
叔母様が不思議そうに首を捻っている。
「誰のことを言っているの?」
……彼のことが見えていない?
でも確かに、あんなに目立つ格好をしているのに拘わらず誰も見向きしない。
まさか私にしか見えない幽霊……なのか。
不気味に思っていると、彼がこちらを向いた。
黒曜石を彷彿とさせる黒い瞳と視線が合う。
とりあえず会釈すると、彼は大きく目を見開いて立ち上がった。
こちらに向かって走ってきた。
「お前、魔力が全然ないのに俺のことがすぐに分かったのか?」
困惑と期待が入り混じる表情で尋ねられる。
魔力が全然ない。密かに気にしていることを言われて、軽く傷つきながら頷く。
「ヒャッ! 何この子! いつからそこにいたの!?」
やっと青年を認識したらしい叔母様が悲鳴を上げた。
ということは幽霊ではないようだ。
青年は叔母様の疑問には答えず、私の周りをぐるぐると回りながら私を観察している。
犬か猫みたいだ。
「へーえ……珍しいこともあるもんだな。魔力高い奴だって、最初は中々気づかないのに」
「あ、あの……?」
「それにいい匂いがする。秋と冬の間に吹く風の匂いだ。俺は好きだぜ」
「はぁ」
正面に立って、にっこりと笑う。
さっきまでぶすっとしていたのが嘘のよう。
「あなた、そこに座っていたけれど……何かあったのですか?」
「……何もない。働こうと思ってた店を追い出されて、行く宛がなくなってただけだ」
働き手を探している店もあれば、働き手を追い出す店もある。
世の中の厳しさを感じていると、叔母様がじっと青年を見詰めている。
……叔母様?
「あなた、行く宛がないの?」
「ああ。誰に声かけても無視されるし、このまま空に帰ろうかなって思ってた」
「空に? 随分ロマンチックなこと言うのねぇ。よし、あなたうちの店で働かない?」
叔母様!?
「え? 働かせてくれるのか?」
「あなたができることをするだけでいいわ!」
「分かった、よろしくな!」
叔母様、何か自棄になっているのでは。
雇えるなら誰でもいいと思っていないだろうか。
あっさり頷いてしまった青年も青年。泥船の乗組員が一人増えてしまった。
頭を抱えていると、青年に両手を掴まれた。
「俺の名前はオブシディア。お前たちは?」
「私はリザリアですが……あの、もっとよくお考えになってから決めた方が……」
「私はミレーユよ。よろしくね」
「ああ、よろしくな!」
光の速さで話が進んでいく……。
「さあ、店はこっちよ!」と路地裏に入っていく叔母様と、私の手を掴んだままそれについていくオブシディアさんを止めることができない。
そして、
「……何でこんな所に店があるんだ。こんなんじゃ客来ないぜ?」
店を見るなり訝しげな表情で尋ねる彼に、叔母様は何も言い返せなかった。
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