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4.私の家
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ディンデール邸に到着すると、お兄様に似た顔立ちの男性が玄関の前を行ったり来たりを繰り返していた。
この方が一族の主であるディンデール侯爵。私のお父様になってくれた方だ。
お兄様の隣にいる私を気付くとぎこちない笑顔で、
「お、おかえり、リザリア。君を突然屋敷から連れ出して申し訳ない。怒るのも無理はないと思うが、私の話を聞いてくれないか?」
お兄様には私が嫌がってもフィリヌ邸から連れ帰るよう、指示を出していたらしい。
だから私に怒られるって思っているのだろう。
私とお兄様は、互いの顔を見合ってから苦笑する。
「お父様、実はとっても最高のタイミングだったのですよ」
「ど、どういうことだい?」
目を丸くするお父様に、屋敷の広間で説明することにした。
内容は、馬車の中でお兄様に話したことと同じ。
最初は神妙な顔で話を聞いていたお父様だったけれど、次第に戸惑いの表情を見せ始めていた。
「不貞行為を働いたのはフィリヌ家の子息だろう? 何故君が責められなければならないのだ……」
そう仰っていただけるだけで、私の心は大分救われる。
フィリヌ侯爵たちの考えは、決して常識的ではなくて間違っている。
自信を持ってそう思うことができた。
お兄様も私の話を聞いて、何度も「冗談だろ?」とか「信じられないんだが」と困惑している。
私はトール様と結婚するためにディンデール家の養子となった。
なのに浮気された挙げ句、別居となった。
私自身離婚したいと思っているし、平民に戻ってもいいと考えている。
だけど私たちの結婚のために動いてくれたディンデール家には、本当に申し訳ない。
「……お父様。いえ、ディンデール侯爵様。トール様と離婚になったら、どうか私のことはこの家から……」
「何を言うんだ、リザリア。あの馬鹿侯爵家と縁切りをするからって、君がここから出て行く必要はないぞ」
私の言葉を遮るようにお父様は仰った。
「きっかけはどうあれ、君はもうこの家の人間なんだ。何も心配することはない」
「侯爵様……」
「私のことは父と呼びなさい。娘なのだから」
「……はい、お父様」
隣を見れば、お兄様も優しげに口元を緩めている。
娘か。養子になってすぐにフィリヌ家で暮らすようになったから、お父様もこうしてじっくり話すのは初めてだった。
こんなに優しい方だったのね……。
私も嬉しくて笑みを零していると、マロンブラウンの髪の女性が慌ただしく広間に入ってきた。
よほど急いできたのか、息が乱れている。
そして私を見るなり、
「きゃ~~~! リザリアだわぁ、会いたかったわ~~!」
と満面の笑みを浮かべて私を抱き締めた。
こちらの方が侯爵の奥さまであるノエミ夫人。
私のお母様なのだけれど……。
「早速私とお茶会しましょう? ね!」
相変わらず、見た目がとてもお若い。
フィリヌ侯爵夫人と大して歳が変わらないはずなのに、二十代前半にしか見えなかった。
この方が一族の主であるディンデール侯爵。私のお父様になってくれた方だ。
お兄様の隣にいる私を気付くとぎこちない笑顔で、
「お、おかえり、リザリア。君を突然屋敷から連れ出して申し訳ない。怒るのも無理はないと思うが、私の話を聞いてくれないか?」
お兄様には私が嫌がってもフィリヌ邸から連れ帰るよう、指示を出していたらしい。
だから私に怒られるって思っているのだろう。
私とお兄様は、互いの顔を見合ってから苦笑する。
「お父様、実はとっても最高のタイミングだったのですよ」
「ど、どういうことだい?」
目を丸くするお父様に、屋敷の広間で説明することにした。
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最初は神妙な顔で話を聞いていたお父様だったけれど、次第に戸惑いの表情を見せ始めていた。
「不貞行為を働いたのはフィリヌ家の子息だろう? 何故君が責められなければならないのだ……」
そう仰っていただけるだけで、私の心は大分救われる。
フィリヌ侯爵たちの考えは、決して常識的ではなくて間違っている。
自信を持ってそう思うことができた。
お兄様も私の話を聞いて、何度も「冗談だろ?」とか「信じられないんだが」と困惑している。
私はトール様と結婚するためにディンデール家の養子となった。
なのに浮気された挙げ句、別居となった。
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だけど私たちの結婚のために動いてくれたディンデール家には、本当に申し訳ない。
「……お父様。いえ、ディンデール侯爵様。トール様と離婚になったら、どうか私のことはこの家から……」
「何を言うんだ、リザリア。あの馬鹿侯爵家と縁切りをするからって、君がここから出て行く必要はないぞ」
私の言葉を遮るようにお父様は仰った。
「きっかけはどうあれ、君はもうこの家の人間なんだ。何も心配することはない」
「侯爵様……」
「私のことは父と呼びなさい。娘なのだから」
「……はい、お父様」
隣を見れば、お兄様も優しげに口元を緩めている。
娘か。養子になってすぐにフィリヌ家で暮らすようになったから、お父様もこうしてじっくり話すのは初めてだった。
こんなに優しい方だったのね……。
私も嬉しくて笑みを零していると、マロンブラウンの髪の女性が慌ただしく広間に入ってきた。
よほど急いできたのか、息が乱れている。
そして私を見るなり、
「きゃ~~~! リザリアだわぁ、会いたかったわ~~!」
と満面の笑みを浮かべて私を抱き締めた。
こちらの方が侯爵の奥さまであるノエミ夫人。
私のお母様なのだけれど……。
「早速私とお茶会しましょう? ね!」
相変わらず、見た目がとてもお若い。
フィリヌ侯爵夫人と大して歳が変わらないはずなのに、二十代前半にしか見えなかった。
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