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2.義両親への報告

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 トール様との話し合いにならない話し合いも終わったので、侯爵夫人に報告しに行くとメイドに自分の化粧をさせていた。
 今から茶会に行くのかもしれない。
 相変わらずの厚い化粧に、お肌は大丈夫かしらと少し心配になる。

「お義母様、トール様との挨拶も済ませましたのでディンデール家に戻ります」
「あら、トールに守ってもらえなかったのね。やっぱり今回の件で悪いのはあなたじゃないの」
「お義母様の仰る通りでございます……」

 反論したら何倍にもなって返ってくるから、素直に肯定する。申し訳なさそうな表情もしっかり浮かべて。
 この家の人々に、浮気はした人間が一番悪いという言い分は通用しない。

 夫人は私の返答を聞いて、機嫌よさげに笑った。
 その拍子にぽろ……と化粧の粉が落ちたけれど、見て見ぬ振りをする。

「あなたがずっとトールを責めるせいで、あの子は心を病んでしまったの。息子のためにも、悪魔のような嫁をこれ以上この屋敷に置いてはおけないわ!」
「ずっと? いえ、私は『この件で口を出すな』とお義父様が仰っていたのでその通りに……」
「どうせ私たちが見ていないところで、トールを虐めていたのでしょう? ずる賢い平民だもの。ああ、ごめんなさい。『元』平民に訂正しないと」

 とんだ言いがかりをされて嘆息していると、顎髭を蓄えた初老の男性が姿を見せた。
 この屋敷の主であるフィリヌ侯爵だった。
 いつもなら、執務室に籠っている時間帯なのに珍しい。

「どうせ貴族ではない女に、トールを満足させることは出来ないと思っていたが……予想通りだったな」

 髭を撫でながら嘲笑を浮かべる姿は、息子の妻に対するものとは思えない。
 一家の主の登場に夫人も笑みを深くする。
 夫人に化粧を施していたメイドは口を開こうとしない。
 この場に私を味方する者はいなかった。
 いつものことだから、あまり気にならないのだけれど。

「トールからお前に求婚したそうだが、それもお前がそう仕向けたからに違いない。そうでなかったら、事務員なんて地味な女に手を出すはずがないのだ」

 そこは私も未だに分からない。
 どうしてトール様は裏方にいる私に近付くようになったのか。
 いつか聞こうと思っていたら、こんなことになってしまって理由を知る機会を永遠に失った。

「短い間でしたが、お世話になりました」
「しっかり反省すれば、私たちもあなたを許してあげるかもしれないわねぇ」
「……ありがとうございます」

 許されなくてもいいと思いつつ、一応頭を下げておく。
 その間、私の脳内は仕事のことでいっぱいだった。

 実家に帰るのだから、店にも関わらなくなる。
 私がしていた仕事の引き継ぎを、誰かにしておいた方がいいかもしれない。
 そう思って侯爵に聞いてみると、

「引き継ぎなんぞ必要ない! お前の代わりなんていくらでもいるのだからな!」

 とありがたい言葉をいただいたので、フィリヌ家からはすんなり脱出できそう。
 もちろん心残りはあるけれど、こんなことをいつまでも引き摺っている場合ではなかった。
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