1 / 88
1.長続きしなかった夫婦生活
しおりを挟む
「ぼ、僕だってリザリアには悪いことしてるなって思っていたよ。だけどさ、アデラとは浮気でも何でもなくて、ただの友達なんだ」
この人は申し訳なさそうな顔をしていれば、許されると本気で思っているのだろうか。
はぁ、と私が吐息を零すと、「さっき謝ったじゃないか……」と弱々しい声で抗議された。
反省する素振りを見せたら、何でもかんでも許してもらえる。その考え方を直して欲しい。今さら遅いのだけれど。
「……あなた、分かっていますか? 今、私がどのような状況になっているのかを」
「そんなの分かってるよ」
「いいえ、まったく理解していませんよね。私、トール様のせいで実家に帰れと言い渡されたのですが?」
「僕のせいって……そんな言い方やめてくれってば」
それ以外にどんな言い方をすれば?
トール様と、彼の幼馴染の女性との密会が発覚。
それを知ったトール様のご両親、つまりフィリヌ侯爵夫妻に「浮気をさせるお前が悪い」と非難され、挙げ句に別居を強要されていると、はっきり言えばいいのだろうか。
思えば、結婚前から私に対する風当たりは冷たかった。
元平民で、フィリヌ侯爵家が経営する店の従業員に過ぎなかった私に、トール様が一目惚れしたのが全ての始まり。
平民とは結婚出来ないとフィリヌ侯爵が反対すると、だったら他の貴族の養子になればいいとトール様は提案した。
その提案通り私はディンデール侯爵家の養子となり、晴れてトール様と婚約、結婚までした。
あれほど私にべったりだったトール様の様子がおかしくなったのは、結婚してからすぐのこと。
そわそわした様子で外出するようになり、私と過ごす時間が極端に減った。
二人きりの時間が足りないと駄々を捏ねるトール様のために、必要な仕事は夜中にこなして空き時間を作ったのだけれど。
そしてついに、トール様がアデラという女性と宿屋に入る現場を店の従業員が目撃。
侯爵も侯爵夫人も、既婚者でありながら他の女性と宿屋に入った息子を咎めず、夫を満足させない妻に非があると私を責めた。
それから実家に戻って頭を冷やしなさい、と。
その時のトール様は「ごめんね」ばかりを繰り返して、私を庇おうとしなかった。
「僕は今でもリザリアのことが大好きだよ? 難しい事務作業を全部一人でこなせるし、美人だし、いつだって冷静だし……でもアデラとも一緒にいたいんだ。昔からずっと一緒にいて、側にいると心が落ち着くっていうか」
聞いていて頭が痛くなってきた。
誰がアデラさんへの愛を語れと言った。実家に返される妻をどうにか助ける気はないのだろうか。
「……では彼女と結婚すればよかったのでは?」
「け、け、結婚って何を言うんだよ。僕とアデラはそんな関係じゃ……」
口では否定しようとしていても、満更ではない表情を浮かべている。
それを目の当たりにしてトール様への情は、すっかり枯れてしまった。
身寄りがなくて孤児院出身の私を見初めてくれた時は、本当に嬉しかった。
この人のために、尽くそうって本気で思ったほどに。
自分勝手な人だとかは薄々気づいてはいたけれど、まさかここまで酷いとは思わなかった。
とっとと別居して離婚するしかないようだ。
この人は申し訳なさそうな顔をしていれば、許されると本気で思っているのだろうか。
はぁ、と私が吐息を零すと、「さっき謝ったじゃないか……」と弱々しい声で抗議された。
反省する素振りを見せたら、何でもかんでも許してもらえる。その考え方を直して欲しい。今さら遅いのだけれど。
「……あなた、分かっていますか? 今、私がどのような状況になっているのかを」
「そんなの分かってるよ」
「いいえ、まったく理解していませんよね。私、トール様のせいで実家に帰れと言い渡されたのですが?」
「僕のせいって……そんな言い方やめてくれってば」
それ以外にどんな言い方をすれば?
トール様と、彼の幼馴染の女性との密会が発覚。
それを知ったトール様のご両親、つまりフィリヌ侯爵夫妻に「浮気をさせるお前が悪い」と非難され、挙げ句に別居を強要されていると、はっきり言えばいいのだろうか。
思えば、結婚前から私に対する風当たりは冷たかった。
元平民で、フィリヌ侯爵家が経営する店の従業員に過ぎなかった私に、トール様が一目惚れしたのが全ての始まり。
平民とは結婚出来ないとフィリヌ侯爵が反対すると、だったら他の貴族の養子になればいいとトール様は提案した。
その提案通り私はディンデール侯爵家の養子となり、晴れてトール様と婚約、結婚までした。
あれほど私にべったりだったトール様の様子がおかしくなったのは、結婚してからすぐのこと。
そわそわした様子で外出するようになり、私と過ごす時間が極端に減った。
二人きりの時間が足りないと駄々を捏ねるトール様のために、必要な仕事は夜中にこなして空き時間を作ったのだけれど。
そしてついに、トール様がアデラという女性と宿屋に入る現場を店の従業員が目撃。
侯爵も侯爵夫人も、既婚者でありながら他の女性と宿屋に入った息子を咎めず、夫を満足させない妻に非があると私を責めた。
それから実家に戻って頭を冷やしなさい、と。
その時のトール様は「ごめんね」ばかりを繰り返して、私を庇おうとしなかった。
「僕は今でもリザリアのことが大好きだよ? 難しい事務作業を全部一人でこなせるし、美人だし、いつだって冷静だし……でもアデラとも一緒にいたいんだ。昔からずっと一緒にいて、側にいると心が落ち着くっていうか」
聞いていて頭が痛くなってきた。
誰がアデラさんへの愛を語れと言った。実家に返される妻をどうにか助ける気はないのだろうか。
「……では彼女と結婚すればよかったのでは?」
「け、け、結婚って何を言うんだよ。僕とアデラはそんな関係じゃ……」
口では否定しようとしていても、満更ではない表情を浮かべている。
それを目の当たりにしてトール様への情は、すっかり枯れてしまった。
身寄りがなくて孤児院出身の私を見初めてくれた時は、本当に嬉しかった。
この人のために、尽くそうって本気で思ったほどに。
自分勝手な人だとかは薄々気づいてはいたけれど、まさかここまで酷いとは思わなかった。
とっとと別居して離婚するしかないようだ。
35
お気に入りに追加
5,288
あなたにおすすめの小説
見捨てられた逆行令嬢は幸せを掴みたい
水空 葵
恋愛
一生大切にすると、次期伯爵のオズワルド様に誓われたはずだった。
それなのに、私が懐妊してからの彼は愛人のリリア様だけを守っている。
リリア様にプレゼントをする余裕はあっても、私は食事さえ満足に食べられない。
そんな状況で弱っていた私は、出産に耐えられなくて死んだ……みたい。
でも、次に目を覚ました時。
どういうわけか結婚する前に巻き戻っていた。
二度目の人生。
今度は苦しんで死にたくないから、オズワルド様との婚約は解消することに決めた。それと、彼には私の苦しみをプレゼントすることにしました。
一度婚約破棄したら良縁なんて望めないから、一人で生きていくことに決めているから、醜聞なんて気にしない。
そう決めて行動したせいで良くない噂が流れたのに、どうして次期侯爵様からの縁談が届いたのでしょうか?
※カクヨム様と小説家になろう様でも連載中・連載予定です。
7/23 女性向けHOTランキング1位になりました。ありがとうございますm(__)m
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います
榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。
なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね?
【ご報告】
書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m
発売日等は現在調整中です。
【完結】聖女になり損なった刺繍令嬢は逃亡先で幸福を知る。
みやこ嬢
恋愛
「ルーナ嬢、神聖なる聖女選定の場で不正を働くとは何事だ!」
魔法国アルケイミアでは魔力の多い貴族令嬢の中から聖女を選出し、王子の妃とするという古くからの習わしがある。
ところが、最終試験まで残ったクレモント侯爵家令嬢ルーナは不正を疑われて聖女候補から外されてしまう。聖女になり損なった失意のルーナは義兄から襲われたり高齢宰相の後妻に差し出されそうになるが、身を守るために侍女ティカと共に逃げ出した。
あてのない旅に出たルーナは、身を寄せた隣国シュベルトの街で運命的な出会いをする。
【2024年3月16日完結、全58話】
【完結】妹に全部奪われたので、公爵令息は私がもらってもいいですよね。
曽根原ツタ
恋愛
ルサレテには完璧な妹ペトロニラがいた。彼女は勉強ができて刺繍も上手。美しくて、優しい、皆からの人気者だった。
ある日、ルサレテが公爵令息と話しただけで彼女の嫉妬を買い、階段から突き落とされる。咄嗟にペトロニラの腕を掴んだため、ふたり一緒に転落した。
その後ペトロニラは、階段から突き落とそうとしたのはルサレテだと嘘をつき、婚約者と家族を奪い、意地悪な姉に仕立てた。
ルサレテは、妹に全てを奪われたが、妹が慕う公爵令息を味方にすることを決意して……?
【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~
イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」
どごおおおぉっ!!
5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略)
ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。
…だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。
それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。
泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ…
旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは?
更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!?
ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか?
困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語!
※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください…
※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください…
※小説家になろう様でも掲載しております
※イラストは湶リク様に描いていただきました
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる