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28.カロリーヌ⑦
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「何を言って……アンリエッタがあの男と浮気していると言ったのはお前じゃないか、カロリーヌ」
「嘘よ。アンリエッタさんへの未練を、無理矢理にでも断ち切るための嘘」
「ど、どうしてそう言い切れる? お前が気づいていないだけで、あの二人は……」
「アンリエッタさん、赤い花冠をつけていたでしょう?」
「それがどうした! あの男が贈った忌々しいものだぞ」
焦った様子で言葉を返すセレスタン様の無知ぶりに、私は落胆に近い感情を抱いた。
「赤い花冠には夫婦仲を修復するって言い伝えがあるのを知らないの? きっと彼がアンリエッタさんのために作ったんだわ。だからアンリエッタさんも、あんなに嬉しそうにしていたのよ」
「…………でたらめだ」
「だったら、花の神の神官にでも聞いてみるといいわ」
突き放すように言うと、セレスタン様は絶句していた。
人の話を素直に聞き入れてくれるところは、あの時と何も変わっていない。そのせいで大切な奥様を手放してしまったわけだけれど。
「ア、アンリエッタ……! 俺は、俺は……っ!」
その場に座り込み、啜り泣くセレスタン様に、胸が苦しくなった。
これでもう後戻りはできない……。
そう自嘲していると、急に立ち上がったセレスタン様が私へ手を伸ばした。
「俺たちの愛の証を返せ!」
「キャッ!」
セレスタン様に貰ったネックレスを引きちぎられてしまう。
その拍子に尻餅をついた私を、セレスタン様は怒りの形相で見下ろした。
「お前が俺たちを引き裂いたんだ! そして俺を騙して子供まで身籠って……」
「何言ってるのよ。あなたたちが別れることを望んだのは私だけじゃないわ。ねえ、お義母様?」
お義母様は私に名前を呼ばれて、「ヒグッ」と変な声を出した。
いつ自分の名前を呼ばれるのか、ずっと不安だったのかも。
「お義母様はね、アンリエッタさんの居場所を知っていたの。私はそれを聞いて、あなたを連れて行っただけ」
「な……母さんが? 何故俺にすぐ知らせてくれなかったんだ!?」
息子に睨まれ、お義母様の肩がビクッと跳ねる。
「それはその……あなたがカロリーヌさんを信頼するように仕向けたくて」
「カロリーヌの点数稼ぎに利用したということか……!?」
「で、でもね! アンリエッタさんがシャーラ様のところで楽しそうにしているのは、本当だったみたいなの! あなたの妻でいるよりも……」
「黙れ! だったら、どうして赤い花冠を貰って喜んでいたんだ!!」
セレスタン様の怒号が広間に響き渡る。
馬鹿な人。赤い花冠の逸話を知っていれば、ううん。アンリエッタさんの愛を信じていれば、私と結婚することもなかったのに……。
それからすぐに私は離婚されて屋敷も追い出された。
雨の神の神官の資格も剥奪されてしまい、ただの庶民になった。私が悪いから全て、全て受け入れた。
ラウルの捜索はすぐに打ち切られた。
ご両親の意見を無視して、セレスタン様が「あんな女の血を引いた子供なんていらない」と言い張ったせいで。
私もあの子のことはもう忘れてしまって、一からやり直したほうがいいと考えるようになった。
それでも赤ん坊が私を向かって泣き続ける夢を、毎日のように見続けている。
私の罪と罰は一生消えない。
「嘘よ。アンリエッタさんへの未練を、無理矢理にでも断ち切るための嘘」
「ど、どうしてそう言い切れる? お前が気づいていないだけで、あの二人は……」
「アンリエッタさん、赤い花冠をつけていたでしょう?」
「それがどうした! あの男が贈った忌々しいものだぞ」
焦った様子で言葉を返すセレスタン様の無知ぶりに、私は落胆に近い感情を抱いた。
「赤い花冠には夫婦仲を修復するって言い伝えがあるのを知らないの? きっと彼がアンリエッタさんのために作ったんだわ。だからアンリエッタさんも、あんなに嬉しそうにしていたのよ」
「…………でたらめだ」
「だったら、花の神の神官にでも聞いてみるといいわ」
突き放すように言うと、セレスタン様は絶句していた。
人の話を素直に聞き入れてくれるところは、あの時と何も変わっていない。そのせいで大切な奥様を手放してしまったわけだけれど。
「ア、アンリエッタ……! 俺は、俺は……っ!」
その場に座り込み、啜り泣くセレスタン様に、胸が苦しくなった。
これでもう後戻りはできない……。
そう自嘲していると、急に立ち上がったセレスタン様が私へ手を伸ばした。
「俺たちの愛の証を返せ!」
「キャッ!」
セレスタン様に貰ったネックレスを引きちぎられてしまう。
その拍子に尻餅をついた私を、セレスタン様は怒りの形相で見下ろした。
「お前が俺たちを引き裂いたんだ! そして俺を騙して子供まで身籠って……」
「何言ってるのよ。あなたたちが別れることを望んだのは私だけじゃないわ。ねえ、お義母様?」
お義母様は私に名前を呼ばれて、「ヒグッ」と変な声を出した。
いつ自分の名前を呼ばれるのか、ずっと不安だったのかも。
「お義母様はね、アンリエッタさんの居場所を知っていたの。私はそれを聞いて、あなたを連れて行っただけ」
「な……母さんが? 何故俺にすぐ知らせてくれなかったんだ!?」
息子に睨まれ、お義母様の肩がビクッと跳ねる。
「それはその……あなたがカロリーヌさんを信頼するように仕向けたくて」
「カロリーヌの点数稼ぎに利用したということか……!?」
「で、でもね! アンリエッタさんがシャーラ様のところで楽しそうにしているのは、本当だったみたいなの! あなたの妻でいるよりも……」
「黙れ! だったら、どうして赤い花冠を貰って喜んでいたんだ!!」
セレスタン様の怒号が広間に響き渡る。
馬鹿な人。赤い花冠の逸話を知っていれば、ううん。アンリエッタさんの愛を信じていれば、私と結婚することもなかったのに……。
それからすぐに私は離婚されて屋敷も追い出された。
雨の神の神官の資格も剥奪されてしまい、ただの庶民になった。私が悪いから全て、全て受け入れた。
ラウルの捜索はすぐに打ち切られた。
ご両親の意見を無視して、セレスタン様が「あんな女の血を引いた子供なんていらない」と言い張ったせいで。
私もあの子のことはもう忘れてしまって、一からやり直したほうがいいと考えるようになった。
それでも赤ん坊が私を向かって泣き続ける夢を、毎日のように見続けている。
私の罪と罰は一生消えない。
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