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21.悲しみの再会

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 セレスタンが私にくれたネックレスをどうして彼女が着けているのだろう。
 困惑していると、セレスタンは冷ややかな眼差しを私に向けた。

「何だ。前よりも健康的になったと思えば、また医者の世話になっているのか。それとも仮病を使って、そこの女主人や新しくできた恋人に甘やかしてもらおうという算段か?」
「……セレスタン?」

 セレスタンのこんな冷たい声、初めて聞いた。
 やっぱり私が勝手にいなくなったから怒っていたのだ。けれど、新しい恋人……?
 私が言葉を失っていると、代わりにシャーラ様が口を開いた。

「恋人って何の話? この子にそんな相手はいないわよ」
「シャーラ殿、あなたがアンリエッタを擁護しようとしても無駄だ。私はそこの女が他の男に色目を使っている現場をこの目ではっきりと見たのだから」

 何のことか分からないし、身に覚えもない。
 浮気を疑われていたことにショックを受けながらも、私はカラカラに乾き切った口でどうにか言葉を紡いだ。

「待って、セレスタン……急に屋敷から出て行ったのは謝らせて。でも私、浮気なんてしてない。あなたにもたくさん謝りたいことがあって──」
「……やめてくれ。そんな目で俺を見るんじゃない。辛くなるだけだ」

 セレスタンは苦しげに表情を歪めながら、私の言葉を遮った。
 そして激情を抑え込んだような声で告げる。

「それに俺とお前はもう他人なんだ」
「え?」
「先日離婚の手続きをしてきた。どうせお前にとってはどうでもいいことだと思って、シャーラ殿にも知らせていなかったがな」

 離婚……他人……。
 頭を固いものでガツンッと殴られたような衝撃に、立ち眩みを起こして倒れそうになる。それを支えてくれたのはシャーラ様だった。
 そんな私を見据え、セレスタンは深く息を吐いた。

「……俺は俺を裏切ったお前を許せない。本当だったら酷い目に遭わせてやりたいと思う。だがそんなことをしても何の得にもならないし、もうお前とは関わりたくない。だからこれからはお互い別々の未来を選ぶ。それで済ませよう」
「もしかして、その隣にいる女があんたの新しいパートナーってこと?」

 そう尋ねたのはシャーラ様だった。

「ああ、今度カロリーヌとは結婚する予定でな。物腰柔らかで俺に尽くしてくれて……アンリエッタによく似た女性だ」

 口角を吊り上げたセレスタンに肩を抱かれ、カロリーヌと呼ばれた女性は曖昧な笑みを浮かべながら私たちに頭を下げた。
 私が何も反応できずにいると、セレスタンは私を強く睨みつけてからどこかへ歩き出した。カロリーヌもそれについていく。

「……あの男、何であそこまで考え方が変わったのかしら」

 シャーラ様が訝しそうに呟く。
 セレスタンは私がシャーラ様の別荘にいると知って、どうにか取り戻そうと尽力してくれていたらしい。だからシャーラ様もセレスタンの行動次第で、私がソール家で平和に暮らせるように考えるつもりだったのだけれど……それも不可能になった。
 何かのきっかけで、セレスタンは私と別離する覚悟をしたのだ。それを責める権利なんて私にはない。
 どんなに辛くても、悲しくてもただ受け入れることしかできなかった……。
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