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2.友人との再会
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セレスタンと結婚してから三年が経ったけれど、毎日が忙しくて自由な時間を確保するのが難しい。
だから私が以前働いていたレストランのウエイトレスで、友人のエレナと会う時間を作るのも一苦労だった。何度もお義母様に頭を下げて、ようやく会いに行くことを許してくれた。
街のカフェの前で待ち合わせしていると、
「……え? あんた、アンリエッタ? 本当に?」
「エレナ! 久しぶり!」
三年ぶりに再会した友人は、以前と殆ど変わっていなかった。活発な性格の彼女らしい明るい茶髪と夏の海のような青い瞳。
嬉しくて思わず抱き着こうとした私の肩をエレナが強く掴む。
「何でそんなに痩せてんの!? 前からほっそりしてるなぁって思ってたけど、ここまでガリガリじゃなかったじゃん!」
「ま、毎日神官の仕事が忙しくて」
「いやいや、それにしては尋常じゃないでしょ! 目の下にクマできてるし、顔色だってすっごく悪いし……とりあえず中に入ろう! 今日は私の奢りだから!」
エレナに引き摺られるようにカフェに入った。すると店員や他の客がこちらを見て、ぎょっとした顔をする。
「エレナ、大騒ぎしながら入ったからみんなびっくりしてるよ……」
「違うわ! あんたを見てびっくりしてんの!」
怒られながらテーブル席に座る。店内はコーヒーの香りに混じってパンやケーキの匂いも漂っていて、それらに刺激されて私のお腹がぐぅと鳴った。屋敷にいる時は不思議とお腹が全然空かないのに。
「それで何食べる? ここってロブスターのサンドが美味しいって評判なんだけど」
「うーん……そんなの食べたら太らないかな……?」
今の体型になってやっとお義母様に文句を言われなくなったのに、ここで太ったらまた怒られるかもしれない。そう思うと怖くて食欲が失せてしまった。
飲み物も水だけにしようと思っていると、怒った顔をしたエレナがウエイトレスに「ロブスターサンドとアップルジュースを二つずつ」と勝手に頼んでいた。
「エレナ!」
「あんた、自分の鏡を見たほうがいいよ。それ以上痩せたら多分死ぬから。ううん、絶対に死ぬ」
「で、でも、お義母様が……」
「姑が文句を言うって? 何で?」
「太ってるとやっと妊娠したのかって期待するから、気を付けなさいって言うの」
結婚してから三年が経つ。
その間、私は毎日屋敷で使用人たちに混じって家事をしていたし、花の神と嵐の神の両神殿にも出向いている。だけどセレスタンとの時間をないがしろにしていたわけではない。妊娠を妨げる効果を持つとされる食材も極力避けていた。
それでもダメだった。病院で診察してもらうと、医者から「あなたは子供が出来にくい体質なのかもしれない」と難しい表情で言われてしまった。
そのことをセレスタンに報告すると、彼は「お前が悪いわけじゃないだろ」と言ってくれたけれど、お義母様には後から箒で体を叩かれた。お義父様は興味すらないのか、無反応だった。
辛くて、悲しくて、申し訳なくて。
そういう気持ちから逃げたい一心で暴飲暴食を続けて太ってしまい、さっき私が言ったことをお義母様に言われた。セレスタンのいないところで。
だから絶対に太ってはいけないと自分に言い聞かせて、痩せることばかり考えていた。
と、これまでのことをエレナに話し終えたと同時に、ロブスターサンドとアップルジュースが運ばれて来た。
どっちも美味しそうだと思っていると、エレナはアップルジュースをストローで思い切り吸ってから吐き捨てるように言った。
「そんな悪魔がいる家なんて、さっさと出て行きなよ」
だから私が以前働いていたレストランのウエイトレスで、友人のエレナと会う時間を作るのも一苦労だった。何度もお義母様に頭を下げて、ようやく会いに行くことを許してくれた。
街のカフェの前で待ち合わせしていると、
「……え? あんた、アンリエッタ? 本当に?」
「エレナ! 久しぶり!」
三年ぶりに再会した友人は、以前と殆ど変わっていなかった。活発な性格の彼女らしい明るい茶髪と夏の海のような青い瞳。
嬉しくて思わず抱き着こうとした私の肩をエレナが強く掴む。
「何でそんなに痩せてんの!? 前からほっそりしてるなぁって思ってたけど、ここまでガリガリじゃなかったじゃん!」
「ま、毎日神官の仕事が忙しくて」
「いやいや、それにしては尋常じゃないでしょ! 目の下にクマできてるし、顔色だってすっごく悪いし……とりあえず中に入ろう! 今日は私の奢りだから!」
エレナに引き摺られるようにカフェに入った。すると店員や他の客がこちらを見て、ぎょっとした顔をする。
「エレナ、大騒ぎしながら入ったからみんなびっくりしてるよ……」
「違うわ! あんたを見てびっくりしてんの!」
怒られながらテーブル席に座る。店内はコーヒーの香りに混じってパンやケーキの匂いも漂っていて、それらに刺激されて私のお腹がぐぅと鳴った。屋敷にいる時は不思議とお腹が全然空かないのに。
「それで何食べる? ここってロブスターのサンドが美味しいって評判なんだけど」
「うーん……そんなの食べたら太らないかな……?」
今の体型になってやっとお義母様に文句を言われなくなったのに、ここで太ったらまた怒られるかもしれない。そう思うと怖くて食欲が失せてしまった。
飲み物も水だけにしようと思っていると、怒った顔をしたエレナがウエイトレスに「ロブスターサンドとアップルジュースを二つずつ」と勝手に頼んでいた。
「エレナ!」
「あんた、自分の鏡を見たほうがいいよ。それ以上痩せたら多分死ぬから。ううん、絶対に死ぬ」
「で、でも、お義母様が……」
「姑が文句を言うって? 何で?」
「太ってるとやっと妊娠したのかって期待するから、気を付けなさいって言うの」
結婚してから三年が経つ。
その間、私は毎日屋敷で使用人たちに混じって家事をしていたし、花の神と嵐の神の両神殿にも出向いている。だけどセレスタンとの時間をないがしろにしていたわけではない。妊娠を妨げる効果を持つとされる食材も極力避けていた。
それでもダメだった。病院で診察してもらうと、医者から「あなたは子供が出来にくい体質なのかもしれない」と難しい表情で言われてしまった。
そのことをセレスタンに報告すると、彼は「お前が悪いわけじゃないだろ」と言ってくれたけれど、お義母様には後から箒で体を叩かれた。お義父様は興味すらないのか、無反応だった。
辛くて、悲しくて、申し訳なくて。
そういう気持ちから逃げたい一心で暴飲暴食を続けて太ってしまい、さっき私が言ったことをお義母様に言われた。セレスタンのいないところで。
だから絶対に太ってはいけないと自分に言い聞かせて、痩せることばかり考えていた。
と、これまでのことをエレナに話し終えたと同時に、ロブスターサンドとアップルジュースが運ばれて来た。
どっちも美味しそうだと思っていると、エレナはアップルジュースをストローで思い切り吸ってから吐き捨てるように言った。
「そんな悪魔がいる家なんて、さっさと出て行きなよ」
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