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12.十年前④(リディア視点)
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「まあ、とても綺麗ですわね」
お世辞ではなく、本心からの賞賛だった。「ありがとう」ライネス様が照れ臭そうに笑う。
人工宝石ということもあり、天然のものに比べると輝きに差は出てくる。
けれど、人間の技術でここまで再現出来た。それは奇跡と言ってもいい。
「ですが貴族からの評判は、よくありません。実物を見ないうちから、『偽物だ』や『自然への冒涜だ』と咎められるのです」
「あら、でしたら自分たちも同じですのに」
人間の都合で品種改良された植物は少なくない。それらを庭園に飾っている貴族たちも、似たようなものだと思う。
「ですが、どうして人工宝石を作り始めましたの?」
「美しく生まれ変わらせたいと思ったのがきっかけでした」
自作のダイヤモンドを見下ろしながら、ライネス様が語る。
「人工宝石の中には、天然の宝石を加工したものもあります。それらは本来ではあればクズ石呼ばわりされ、価値すらつかないこともある。それは哀れだと思ったのです。……ただ私の力不足だったようで、貴族には見向きもされませんでした」ライネス様は苦笑いを浮かべながら、自らの思いを語った。
「そうですのね。ですが、こんなに綺麗なのに……」
白いレースの手袋をはめた指でダイヤを摘み、シャンデリアの光に翳す。
貴族たちもこの美しさを一目見れば、考え方を改めるだろうに。
「……そうですわ。平民に売り込むというのは、どうでしょう?」
「平民に?」
「ええ。まずは彼らの心を掴むのです。天然物よりも安価であれば、買い求めやすくなると思いますの」
「なるほど……」
「ライネス・ジュエリー」
「はい?」
「あなたの作る宝石の名称ですわ。人工宝石であることはしっかりと公言する必要がありますけど、偽物やイミテーションの宝石ではなく、あなたが作り上げた宝石とアピールしますの」
そんなわけで、ライネス・ジュエリーは実家の店でひっそりと販売を始めた。
初めのうちは、平民も関心が薄かった。けれど地道な営業を続けていくうちに、少しずつ購入者が増え始めていった。
「あら、セレナちゃん。綺麗な髪飾りをつけているのね」
「うん! ライネスおじちゃんが作ってくれたの!」
「とっても綺麗ね。私も欲しくなっちゃう」
「でしょー!」
「この前とデザインと石が違うな。だが、これも美しい……」
セレナも影の功労者だ。娘の髪飾りを間近で見て、購入を決めた客も多い。
そして数年後、ライネス・ジュエリーは貴族の目にも留まるようになった。芸術品として評価されたり、家宝のレプリカを作成して欲しいと依頼されたりと需要は高まっていった。
この頃、私はアデラ・スィールという名前で営業を行っていた。
デセルバート家の人間だと悟られてはいけない、と父から助言を受けたのだ。
そして、思わぬ形でセザール様と再会した。
まさか他国の商会にいるとは思わなくて動揺したが、他人の振りをして商談の席に着く。
十年ぶりに会った元夫は、まあ、何というかあの頃のままで。不遜な態度を取られ、私は謎の感動すら覚えた。
お世辞ではなく、本心からの賞賛だった。「ありがとう」ライネス様が照れ臭そうに笑う。
人工宝石ということもあり、天然のものに比べると輝きに差は出てくる。
けれど、人間の技術でここまで再現出来た。それは奇跡と言ってもいい。
「ですが貴族からの評判は、よくありません。実物を見ないうちから、『偽物だ』や『自然への冒涜だ』と咎められるのです」
「あら、でしたら自分たちも同じですのに」
人間の都合で品種改良された植物は少なくない。それらを庭園に飾っている貴族たちも、似たようなものだと思う。
「ですが、どうして人工宝石を作り始めましたの?」
「美しく生まれ変わらせたいと思ったのがきっかけでした」
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「そうですのね。ですが、こんなに綺麗なのに……」
白いレースの手袋をはめた指でダイヤを摘み、シャンデリアの光に翳す。
貴族たちもこの美しさを一目見れば、考え方を改めるだろうに。
「……そうですわ。平民に売り込むというのは、どうでしょう?」
「平民に?」
「ええ。まずは彼らの心を掴むのです。天然物よりも安価であれば、買い求めやすくなると思いますの」
「なるほど……」
「ライネス・ジュエリー」
「はい?」
「あなたの作る宝石の名称ですわ。人工宝石であることはしっかりと公言する必要がありますけど、偽物やイミテーションの宝石ではなく、あなたが作り上げた宝石とアピールしますの」
そんなわけで、ライネス・ジュエリーは実家の店でひっそりと販売を始めた。
初めのうちは、平民も関心が薄かった。けれど地道な営業を続けていくうちに、少しずつ購入者が増え始めていった。
「あら、セレナちゃん。綺麗な髪飾りをつけているのね」
「うん! ライネスおじちゃんが作ってくれたの!」
「とっても綺麗ね。私も欲しくなっちゃう」
「でしょー!」
「この前とデザインと石が違うな。だが、これも美しい……」
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そして数年後、ライネス・ジュエリーは貴族の目にも留まるようになった。芸術品として評価されたり、家宝のレプリカを作成して欲しいと依頼されたりと需要は高まっていった。
この頃、私はアデラ・スィールという名前で営業を行っていた。
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そして、思わぬ形でセザール様と再会した。
まさか他国の商会にいるとは思わなくて動揺したが、他人の振りをして商談の席に着く。
十年ぶりに会った元夫は、まあ、何というかあの頃のままで。不遜な態度を取られ、私は謎の感動すら覚えた。
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