愛は全てを解決しない

火野村志紀

文字の大きさ
上 下
7 / 17

7.私の大切な(ミシェル視点)

しおりを挟む
 セザールと出会ったのは、十年前。隣国の酒場を訪れた時だった。
 お父様の商談に着いてきたけど、特にやることもなくて王都を観光していた。
 そしてたまたま立ち寄った酒場で、酔い潰れている男を見付けたわ。

 今まで出会ったどんな男よりも、整った顔立ちをしていた。
 真っ赤な顔でテーブルに突っ伏す姿を見て、ぺろりと舌なめずりをする。
 この人を食べちゃいたい。

 店員に知り合いだと嘘をついて、酒場から連れ出して近くの宿屋へ向かった。
 その後は簡単よ。私の誘いを受けて断れる男なんていない。獣のようにギラギラした目で私を貪る彼は、とっても素敵だったわ。

 ピロートークの最中、お互いの素性を明かした。
 セザールは男爵家の当主だった。そして自分を取り巻く環境を疎んでいた。

「私はどうにか男爵家を再建しようとしているんだ。だが誰もそのことを理解してくれない……先日の事業だって、妻が余計なことを言わなければ……!」

 子犬のような目で私を見詰めてくるセザールに、私は無言で頷いていた。
 彼に同情する振りをしながら、どうやって彼を手に入れるかを考えていたの。
 だってこんな美形を逃すなんて勿体ない!
 それに、体の相性は最高。
 セザールは私が首輪を着けて、大事に飼ってあげるんだから。

 心が弱っていたセザールは、すっかり私を信用しきって男爵家を捨てると決意した。
 もう少し悩むと思っていたから、ちょっと意外だった。
 だから一応、「奥さんと娘さんはいいの?」って聞いてみたわ。
 そうしたら、

「私は妻と子供のために、自分を犠牲に出来ない……頼む。私を窮屈な世界から連れ出してくれ!」
「勿論よ。大好きなあ・な・た」

 こうしてセザールは全てを捨てて、私を選んだ。
 私たちの国へ亡命した後、お父様にお願いして架空の戸籍を作って結婚した。
 初めはお父様も渋っていたけど、二人で駆け落ちすると言ったら、慌てて動いてくれた。ふふ、ただの冗談だったのにね。

 そしてエルマも生まれて、私たちは幸せな日々を送っていたはずだったのに……!

「お父様! ちょっといいかしら!?」

 私が執務室に乗り込むと、ルシマール商会の重役たちが集まっていた。
 皆、一様に深刻そうな表情をしている。売上が下がって、お父様に怒られているのかしら。

「ミシェル、今は大事な話をしているんだ。後にしてくれ」
「こっちだって大事な話よ! セザール様をお父様の補佐に戻し……」
「そのセザールのせいで、うちの商会は大変なことになっているんだ!」

 お父様に怒鳴られるのは生まれて初めてで、私は思わず後ずさりをしてしまった。
 それに商会が大変って……一体何が起きてるの?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

何を間違った?【完結済】

maruko
恋愛
私は長年の婚約者に婚約破棄を言い渡す。 彼女とは1年前から連絡が途絶えてしまっていた。 今真実を聞いて⋯⋯。 愚かな私の後悔の話 ※作者の妄想の産物です 他サイトでも投稿しております

【完結】おまえを愛することはない、そう言う夫ですが私もあなたを、全くホントにこれっぽっちも愛せません。

やまぐちこはる
恋愛
エリーシャは夫となったアレンソアにおまえを愛することはないと言われた。 こどもの頃から婚約していたが、嫌いな相手だったのだ。お互いに。 3万文字ほどの作品です。 よろしくお願いします。

旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。

アズやっこ
恋愛
私は旦那様を愛していました。 今日は三年目の結婚記念日。帰らない旦那様をそれでも待ち続けました。 私は旦那様を愛していました。それでも旦那様は私を愛してくれないのですね。 これはお別れではありません。役目が終わったので交代するだけです。役立たずの妻で申し訳ありませんでした。

【完結】旦那様は、妻の私よりも平民の愛人を大事にしたいようです

よどら文鳥
恋愛
 貴族のことを全く理解していない旦那様は、愛人を紹介してきました。  どうやら愛人を第二夫人に招き入れたいそうです。  ですが、この国では一夫多妻制があるとはいえ、それは十分に養っていける環境下にある上、貴族同士でしか認められません。  旦那様は貴族とはいえ現状無職ですし、愛人は平民のようです。  現状を整理すると、旦那様と愛人は不倫行為をしているというわけです。  貴族の人間が不倫行為などすれば、この国での処罰は極刑の可能性もあります。  それすら理解せずに堂々と……。  仕方がありません。  旦那様の気持ちはすでに愛人の方に夢中ですし、その願い叶えられるように私も協力致しましょう。  ただし、平和的に叶えられるかは別です。  政略結婚なので、周りのことも考えると離婚は簡単にできません。ならばこれくらいの抵抗は……させていただきますよ?  ですが、周囲からの協力がありまして、離婚に持っていくこともできそうですね。  折角ですので離婚する前に、愛人と旦那様が私たちの作戦に追い詰められているところもじっくりとこの目で見ておこうかと思います。

婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい

矢口愛留
恋愛
【全11話】 学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。 しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。 クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。 スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。 ※一話あたり短めです。 ※ベリーズカフェにも投稿しております。

【完結】旦那様の幼馴染が離婚しろと迫って来ましたが何故あなたの言いなりに離婚せねばなりませんの?

水月 潮
恋愛
フルール・ベルレアン侯爵令嬢は三ヶ月前にジュリアン・ブロワ公爵令息と結婚した。 ある日、フルールはジュリアンと共にブロワ公爵邸の薔薇園を散策していたら、二人の元へ使用人が慌ててやって来て、ジュリアンの幼馴染のキャシー・ボナリー子爵令嬢が訪問していると報告を受ける。 二人は応接室に向かうとそこでキャシーはとんでもない発言をする。 ジュリアンとキャシーは婚約者で、キャシーは両親の都合で数年間隣の国にいたが、やっとこの国に戻って来れたので、結婚しようとのこと。 ジュリアンはすかさずキャシーと婚約関係にあった事実はなく、もう既にフルールと結婚していると返答する。 「じゃあ、そのフルールとやらと離婚して私と再婚しなさい!」 ……あの? 何故あなたの言いなりに離婚しなくてはならないのかしら? 私達の結婚は政略的な要素も含んでいるのに、たかが子爵令嬢でしかないあなたにそれに口を挟む権利があるとでもいうのかしら? ※設定は緩いです 物語としてお楽しみ頂けたらと思います *HOTランキング1位(2021.7.13) 感謝です*.* 恋愛ランキング2位(2021.7.13)

「君を愛することはない」の言葉通り、王子は生涯妻だけを愛し抜く。

長岡更紗
恋愛
子どもができない王子と王子妃に、側室が迎えられた話。 *1話目王子妃視点、2話目王子視点、3話目側室視点、4話王視点です。 *不妊の表現があります。許容できない方はブラウザバックをお願いします。 *他サイトにも投稿していまし。

【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない 

堀 和三盆
恋愛
 一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。  信じられなかった。  母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。  そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。  日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。

処理中です...