93 / 96
93.残されたもの
しおりを挟む
「リグレット様、いきますよ」
レイスが転移魔法を発動させる。
ぐにゃりと歪む視界。奇妙な浮遊感。
私たちが外へ脱出すると、修道女たちが一斉に駆け寄って来た。
「リグレット様、レイス様。よくぞご無事で……」
「この通りピンピンしていますよ。ね、レイス様……レイス様?」
レイスの様子がおかしい。
呆然とした表情で、自分の右手を見下ろしているのだ。
な、なんだ? 強大な力に目覚めたとか?
心配になって声をかけようとするけれど、レイスがハッとした様子で我に返るほうが先だった。
そして、私へ視線を向けると、
「はい。皆様が無事でよかった。……本当に」
そう安堵の笑みを浮かべるのだった。
さて、その後。火事は駆けつけた兵士たちによって無事鎮火。
ただし懸命な捜索にも拘わらず、焼け跡からブランシェと院長を発見することはできなかった。
今も二人は行方不明のまま。……というより院長に関しては、妙な話が出ている。
院長が元々いた修道院に連絡すると、
「うちの者がそちらの院長に? 何のことでしょうか……?」
とまあナヴィア修道院に修道女を送った覚えはないと、首を傾げられてしまったのだ。
これには、グライン公爵もびっくりである。
院長の手配は書面上で行われたはずなのに、その手紙が双方ともに何故か消失していた。
院長の行方だけではなく、素性さえ分からないという事態に騒然とする私たち。
一方向こうの修道院でも、暫く前に大事件が発生していた。
祈りの間に置かれているエメリーア神の石像(2メートル越え)が、突如盗難に遭ったのだとか。
そしてナヴィア修道院が燃えた日の夜に、何事もなかったかのように戻っていたらしい。
キューギスト侯爵は可愛い娘が行方不明となり、大層心を痛めて……はいなかった。
むしろ顔を真っ赤にして激おこである。
「あの馬鹿娘をとっとと捜し出せ。あれのせいでキューギスト家の面目は丸潰れだ。その責任を取らせなければ、私の気が済まん……!」
キューギスト家はブランシェのせいで、結構大変なことになっていた。
私としても色々話を聞きたいので、ブランシェにはカムバックして欲しい気持ちがある。
「リグレット様、あなたにもこれを読む権利があるかと思います」
レイスが一冊のノートを私に貸してくれたのは、火事から約三週間後。
他の修道女と一緒に、グライン邸でお世話になっている時のことだった。
「これは……?」
「ブランシェ嬢の日記です。彼女の部屋から発見されました」
えっ、マジで?
早速中を開くと、1ページからゲームの世界に転生して大はしゃぎな内容だった。
私なんてヤンデレワールドの住人になって絶望していたんだけどな。ポジティブが過ぎる。
その後も逆ハー実現の野望に向けて、ノリノリであれこれやっていたようだけれど、ある出来事がきっかけで計画に狂いが生じ始める。
ナヴィア修道院閉院の撤回。
イレネーがリーゼと恋に落ちる鍵となるのは、元婚約者への罪悪感と喪失感。なのにそれが大分和らいでしまった。
リーゼを悲しみに暮れるテオドールに接近させるため、レイスの毒殺を目論んだけれど、これも大失敗。
しかもレイモンドは他国へGO。
そしてトドメの魔物暴走事件。
逆ハーエンド達成どころか、ヒロインがブタ箱行きになってしまった。
追い込まれたブランシェはリセットするついでに、私をぶち殺すと決めたらしい。人をそんなノリで殺そうとすんな。
「……ノート、ありがとうございました」
読みきるのに1000カロリーくらい消費した気がする。
げんなりしつつノートをレイスに返すと、彼は物言いたげな顔で私を見ていた。
「私に何か?」
「あなたはブランシェ嬢と同じ……いえ、なんでもありません」
何かを言いかけて、首を横に振る。
レイスは私とブランシェの会話を聞いている。
だから質問したいことが山ほどあるだろうに……
それに一瞬、寂しそうな表情を見せたのも気になった。
レイスが転移魔法を発動させる。
ぐにゃりと歪む視界。奇妙な浮遊感。
私たちが外へ脱出すると、修道女たちが一斉に駆け寄って来た。
「リグレット様、レイス様。よくぞご無事で……」
「この通りピンピンしていますよ。ね、レイス様……レイス様?」
レイスの様子がおかしい。
呆然とした表情で、自分の右手を見下ろしているのだ。
な、なんだ? 強大な力に目覚めたとか?
心配になって声をかけようとするけれど、レイスがハッとした様子で我に返るほうが先だった。
そして、私へ視線を向けると、
「はい。皆様が無事でよかった。……本当に」
そう安堵の笑みを浮かべるのだった。
さて、その後。火事は駆けつけた兵士たちによって無事鎮火。
ただし懸命な捜索にも拘わらず、焼け跡からブランシェと院長を発見することはできなかった。
今も二人は行方不明のまま。……というより院長に関しては、妙な話が出ている。
院長が元々いた修道院に連絡すると、
「うちの者がそちらの院長に? 何のことでしょうか……?」
とまあナヴィア修道院に修道女を送った覚えはないと、首を傾げられてしまったのだ。
これには、グライン公爵もびっくりである。
院長の手配は書面上で行われたはずなのに、その手紙が双方ともに何故か消失していた。
院長の行方だけではなく、素性さえ分からないという事態に騒然とする私たち。
一方向こうの修道院でも、暫く前に大事件が発生していた。
祈りの間に置かれているエメリーア神の石像(2メートル越え)が、突如盗難に遭ったのだとか。
そしてナヴィア修道院が燃えた日の夜に、何事もなかったかのように戻っていたらしい。
キューギスト侯爵は可愛い娘が行方不明となり、大層心を痛めて……はいなかった。
むしろ顔を真っ赤にして激おこである。
「あの馬鹿娘をとっとと捜し出せ。あれのせいでキューギスト家の面目は丸潰れだ。その責任を取らせなければ、私の気が済まん……!」
キューギスト家はブランシェのせいで、結構大変なことになっていた。
私としても色々話を聞きたいので、ブランシェにはカムバックして欲しい気持ちがある。
「リグレット様、あなたにもこれを読む権利があるかと思います」
レイスが一冊のノートを私に貸してくれたのは、火事から約三週間後。
他の修道女と一緒に、グライン邸でお世話になっている時のことだった。
「これは……?」
「ブランシェ嬢の日記です。彼女の部屋から発見されました」
えっ、マジで?
早速中を開くと、1ページからゲームの世界に転生して大はしゃぎな内容だった。
私なんてヤンデレワールドの住人になって絶望していたんだけどな。ポジティブが過ぎる。
その後も逆ハー実現の野望に向けて、ノリノリであれこれやっていたようだけれど、ある出来事がきっかけで計画に狂いが生じ始める。
ナヴィア修道院閉院の撤回。
イレネーがリーゼと恋に落ちる鍵となるのは、元婚約者への罪悪感と喪失感。なのにそれが大分和らいでしまった。
リーゼを悲しみに暮れるテオドールに接近させるため、レイスの毒殺を目論んだけれど、これも大失敗。
しかもレイモンドは他国へGO。
そしてトドメの魔物暴走事件。
逆ハーエンド達成どころか、ヒロインがブタ箱行きになってしまった。
追い込まれたブランシェはリセットするついでに、私をぶち殺すと決めたらしい。人をそんなノリで殺そうとすんな。
「……ノート、ありがとうございました」
読みきるのに1000カロリーくらい消費した気がする。
げんなりしつつノートをレイスに返すと、彼は物言いたげな顔で私を見ていた。
「私に何か?」
「あなたはブランシェ嬢と同じ……いえ、なんでもありません」
何かを言いかけて、首を横に振る。
レイスは私とブランシェの会話を聞いている。
だから質問したいことが山ほどあるだろうに……
それに一瞬、寂しそうな表情を見せたのも気になった。
72
お気に入りに追加
5,501
あなたにおすすめの小説
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
転生令嬢の涙 〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜
矢口愛留
恋愛
【タイトル変えました】
公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。
この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。
小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。
だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。
どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。
それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――?
*異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。
*「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。
殿下が恋をしたいと言うのでさせてみる事にしました。婚約者候補からは外れますね
さこの
恋愛
恋がしたい。
ウィルフレッド殿下が言った…
それではどうぞ、美しい恋をしてください。
婚約者候補から外れるようにと同じく婚約者候補のマドレーヌ様が話をつけてくださりました!
話の視点が回毎に変わることがあります。
緩い設定です。二十話程です。
本編+番外編の別視点
【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~
胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。
時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。
王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。
処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。
これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。
タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒―
私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。
「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」
その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。
※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています
この婚約破棄は、神に誓いますの
編端みどり
恋愛
隣国のスーパーウーマン、エミリー様がいきなり婚約破棄された!
やばいやばい!!
エミリー様の扇子がっ!!
怒らせたらこの国終わるって!
なんとかお怒りを鎮めたいモブ令嬢視点でお送りします。
[連載中]蔑ろにされた王妃様〜25歳の王妃は王と決別し、幸せになる〜
コマメコノカ@異世界恋愛ざまぁ連載
恋愛
王妃として国のトップに君臨している元侯爵令嬢であるユーミア王妃(25)は夫で王であるバルコニー王(25)が、愛人のミセス(21)に入り浸り、王としての仕事を放置し遊んでいることに辟易していた。
そして、ある日ユーミアは、彼と決別することを決意する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる