悪役令嬢の腰巾着に転生したけど、物語が始まる前に追放されたから修道院デビュー目指します。

火野村志紀

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92.困った時の

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 仮にブランシェのいう『リセット』が本当にできたとして。
 この世界は奴の望みが叶うまで延々と繰り返されて、私はその度に見敵必殺される。
 ドギツいループものが始まってしまうのか……と覚悟を決める。

 そう、あれやこれや考えて覚悟を完了するくらいの余裕があった。
 私はとっくに丸焦げになっているはずなのに、今もピンピンしている。

「いけないわねぇ、シスターリグレット。人間生きることだけは、簡単に諦めてはいけないのよ」

 私の目の前にいつの間にか立っていたのは院長だった。
 その後ろでは、ブランシェが放った火球たちがピタリと動きを止めていた。
 いや違う。ブランシェも周囲の炎も、燃える音すらも時が停止しているかのように固まっている。

 ……院長が魔法で助けてくれた?

「い、院長何でこんなところにいるんですか? もしかして私たちを助けるために……」
「たまーにこの世界に迷い込む魂はあれど、あなたくらい私を楽しませてくれた子は初めてよ。見守るだけのつもりだったけれど、考えが変わったわ。一度だけ助けてあげましょう」
「……院長?」

 何だ、この院長から放たれる強者のオーラは……

「さあ、シスターリグレット。どうしようもないくらい追い込まれた時に使うあの言葉・・・・を言ってご覧なさい」

 突然始まったクイズのお時間が私を襲う。
 追い込まれた時に使う言葉って何ぞ。
「肥溜めに頭から突っ込むよりかはマシ」?
「二日完徹すれば何とかいける」?

 あと最近で使ったそれっぽい言葉といえば……

「……困った時の神頼み?」

 そう呟いた途端、院長の姿がパッと消えた。
 それだけじゃない。宙で停止していた火球が再び動き出す。

「キャアアアアッ!?」

 けれど火球は、私ではなくブランシェへとまっすぐ向かって行った。
 レイスの時とは比にならない激しい爆音。
 え……あんなに喰らって大丈夫なの? 目の前でブランシェの丸焼き一丁上がりってのは、流石にトラウマになる……

「ひ、ひぃぃ……」

 生きてた。どこも怪我をしていないし、ドレスも無事。
 だけどムンクの叫び五秒前みたいな顔で、床に座り込んでいる。

「どうなってんのよ……ど、どうして魔力を最大まで込めた私の炎を反射して……」
「これで最大? 人間はか弱い生き物ねぇ」
「キャッ!」

 自分の背後に立っていた院長に気づいて短く叫ぶ。
 院長はそんなブランシェを見下ろしていたかと思うと、修道服の袖から無数の光る糸のようなものを出した。
 それはブランシェへ次々と絡みついていく。

「何これっ、嫌! や、やめて……」
「あなたは命を落とせばこの世界ごとリセットされて、いくらでもやり直しが利くと本気で思っているようねぇ」
「そうよ! だってここはゲームの世界で……」
「残念だけれど、人生はそんなに甘くないの。だってここはあなたの知っている世界と似ているだけであって、イコールではないもの」

 ブランシェが光の糸に包まれて、蚕の繭のようになる様子を見て院長が笑う。

「ブランシェ。異世界からの転生者であり、数多くの罪を犯した人の子よ。神々はあなたに神罰を下すことを決定しました」
「ば、罰って何を……」
「生きたまま地獄へと連行し、そこで死にたくとも死ねない苦痛を味わってもらいます。あなたにはそのような罰が妥当でしょう」

 瞬間、院長の体から白い閃光が放たれた。
 そして光が消えた直後、院長とブランシェの姿はその場から消え去っていた。

「……リグレット様」

 目を覚ましたレイスがゆっくりと立ち上がる。

「いったい何があったのですか? ブランシェ嬢も、僕が受けた傷も……消えている」

 レイスは驚いた表情で、自分の両手を見下ろしていた。
 そう。彼が全身に負ったはずの火傷も、綺麗さっぱりなくなっていたのだ。

「わ、私も何がなんだか……」

 超展開すぎて思考が纏まらねぇ。
 とりあえずブランシェという名の災厄はいなくなったことだし、さっさとここから脱出しよう……
 
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