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86.時計塔
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リーゼのプリズンブレイクを警戒していたら、まさかのブランシェが逃亡。まさに急展開……!!
兵士の報告を聞いたテオドールが眉間に眉を顰める。
「どういうことだ。あらかじめキューギスト家には書状を送り、ブランシェを見張っておくように指示を出していたはずだ」
「それが……外側から鍵をかけて彼女の部屋に閉じ込めていたということなんですが、窓からこっそり抜け出したそうなんです。ブランシェ嬢の部屋は三階だったんですが、カーテンや衣服を繋げて作ったロープでするするっと下に下りて行ったみたいで……」
流石は悪役令嬢、知恵が回る。しかし今この状況で逃げ出して、彼女を匿ってくれる人間はいるのだろうか。
「何としてでも見つけ出せ。彼女には聞くことがあまりにも多い」
「はい!」
「……ということだ。俺たちがここにいる理由がなくなった」
落胆と苛立ちが綯い交ぜになった表情でテオドールが私たちに言う。
何かこう……がっかり感がすごい。ついに真相究明か……! と思っていたら、重要参考人に逃げられてしまうとは。刑事ドラマの尺伸ばしじゃないんだぞ。
レイスも溜め息をついて、
「仕方ありませんね。ここは一旦帰るとしましょう」
「あ、レイス様。院長へのお土産を……」
目的を果たせなかったとしても、院長が欲していたカカオリキュールは買って帰らなければ。
「はい。忘れていませんよ。それにどうせなら、修道女の皆様にもお土産を用意しませんか?」
ナイス、レイス。みんなにはお礼も兼ねて、美味しくて珍しいお菓子を買って行こう。
と思っていると、テオドールに「待て」と止められた。
「買い物に行くなら、護衛に兵士を数人連れて行け。お前たちはどちらもブランシェに命を狙われていたんだ。彼女が野放しになっている以上、警戒しておいたほうがいい」
「それもそうですね。僕だけではリグレット様を守り切れると限らないですし」
「……お前は自分自身の心配もしろ」
「分かっています。さあ行きましょう、リグレット様」
う~~ん。本当に分かっているのかね、この男は……。
院長が欲していたカカオリキュールに、行列のできるお菓子屋のクッキーやキャンディ。
気がつけば結構な荷物になっていたのだけれど、それらはレイスが全部持ってくれた。護衛兵が「私どもが持ちます」と申し出ても、荷物を渡そうとしなかった。
「リグレット様にいいところを見せたいのです。なので僕に持たせてください」
本人が横にいる前で、そんな目論みを語るな語るな。
しかし私とレイスが並んで歩いているだけで、人々の注目を集めているこの状況。ボディーガードを引き連れた海外のセレブカップルにでもなったような気分だ。
「リグレット様、この辺まで来たのですからあそこに上ってみませんか?」
そう言ってレイスが見上げたのは、前方に聳え立つ時計塔だった。
ゲーム本編でも登場する展望スポット。リーゼが好感度の高いキャラと上り、街を見渡しながらイチャついていたなぁ……。
螺旋階段を上り切ると絶景が広がっており、こんなに綺麗な街並みだったのかと少し驚いた。ここからだと聖鐘祭の時に行った城もよく見える。
思わず見とれてしまっていると、レイスが東の方角を指差した。
「あの辺りですね。ナヴィア修道院があるのは」
「わぁ~、結構大きな山で……」
何か……あの辺から黒煙が上がっているのだが?
兵士の報告を聞いたテオドールが眉間に眉を顰める。
「どういうことだ。あらかじめキューギスト家には書状を送り、ブランシェを見張っておくように指示を出していたはずだ」
「それが……外側から鍵をかけて彼女の部屋に閉じ込めていたということなんですが、窓からこっそり抜け出したそうなんです。ブランシェ嬢の部屋は三階だったんですが、カーテンや衣服を繋げて作ったロープでするするっと下に下りて行ったみたいで……」
流石は悪役令嬢、知恵が回る。しかし今この状況で逃げ出して、彼女を匿ってくれる人間はいるのだろうか。
「何としてでも見つけ出せ。彼女には聞くことがあまりにも多い」
「はい!」
「……ということだ。俺たちがここにいる理由がなくなった」
落胆と苛立ちが綯い交ぜになった表情でテオドールが私たちに言う。
何かこう……がっかり感がすごい。ついに真相究明か……! と思っていたら、重要参考人に逃げられてしまうとは。刑事ドラマの尺伸ばしじゃないんだぞ。
レイスも溜め息をついて、
「仕方ありませんね。ここは一旦帰るとしましょう」
「あ、レイス様。院長へのお土産を……」
目的を果たせなかったとしても、院長が欲していたカカオリキュールは買って帰らなければ。
「はい。忘れていませんよ。それにどうせなら、修道女の皆様にもお土産を用意しませんか?」
ナイス、レイス。みんなにはお礼も兼ねて、美味しくて珍しいお菓子を買って行こう。
と思っていると、テオドールに「待て」と止められた。
「買い物に行くなら、護衛に兵士を数人連れて行け。お前たちはどちらもブランシェに命を狙われていたんだ。彼女が野放しになっている以上、警戒しておいたほうがいい」
「それもそうですね。僕だけではリグレット様を守り切れると限らないですし」
「……お前は自分自身の心配もしろ」
「分かっています。さあ行きましょう、リグレット様」
う~~ん。本当に分かっているのかね、この男は……。
院長が欲していたカカオリキュールに、行列のできるお菓子屋のクッキーやキャンディ。
気がつけば結構な荷物になっていたのだけれど、それらはレイスが全部持ってくれた。護衛兵が「私どもが持ちます」と申し出ても、荷物を渡そうとしなかった。
「リグレット様にいいところを見せたいのです。なので僕に持たせてください」
本人が横にいる前で、そんな目論みを語るな語るな。
しかし私とレイスが並んで歩いているだけで、人々の注目を集めているこの状況。ボディーガードを引き連れた海外のセレブカップルにでもなったような気分だ。
「リグレット様、この辺まで来たのですからあそこに上ってみませんか?」
そう言ってレイスが見上げたのは、前方に聳え立つ時計塔だった。
ゲーム本編でも登場する展望スポット。リーゼが好感度の高いキャラと上り、街を見渡しながらイチャついていたなぁ……。
螺旋階段を上り切ると絶景が広がっており、こんなに綺麗な街並みだったのかと少し驚いた。ここからだと聖鐘祭の時に行った城もよく見える。
思わず見とれてしまっていると、レイスが東の方角を指差した。
「あの辺りですね。ナヴィア修道院があるのは」
「わぁ~、結構大きな山で……」
何か……あの辺から黒煙が上がっているのだが?
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