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80.神隠し
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私のせいで将来を嘱望されている青年の人生が滅茶苦茶になろうとしている。ファムファタールか、私は。というか、ファムファタールなんて言葉よくパッと浮かんだな……。
前からレイスに恋愛的な意味で好かれているとは何となく気づいていたけれど、私以外の全てを捨てる覚悟があるとかめっちゃくちゃヘビー級だった。もう少しライトにいけよ。
あの調子だと、もし私が「この国にいると、赤の他人の恋路のせいで危ないんで他国に逃げます」とカミングアウトしたら、迷わず着いて来そうだ。何だかんだで世話になっているグライン公爵やテオドールに合わせる顔がない。
あ、いや、でも待て。恋愛脳もとい破滅の使者のリーゼはまさかの囚人ルートを選んだわけだ。
つまりこの国は安泰なのでは? そうなれば国外脱出の意味もなくなる。
私が国から出て行かないということは、レイスの人生を破綻させることもない。
レイスも私とずっと一緒にいることができるし、これぞ一石二鳥……。
そこまで考えてから私は首を傾げた。
一緒にいるって何だ。私は修道女で、レイスは貴族のお坊ちゃまだ。恋愛事はご法度な以上、私たちの関係が発展することはあってはならない。
ただまあ、私がナヴィア修道院を出れば話は別だろうけれど。いやいや、何で例外のパターンを考えているのだろう……。
レイスと私の関係についてあれこれ考えてしまったせいで、その夜はよく寝つけなかった。
日課の畑仕事の最中に何度も欠伸が出てしまう。いかんいかん、集中せねばと自分に言い聞かせていると、あることに気づく。
「あれ、アントワネット様とメロディ様は?」
「そういえば見かけませんねぇ……」
クラリスと一緒にきょろきょろと周囲を見回す。
じゃがいも掘りの時に院長に呼ばれたっきり、一向に二人が戻って来ない。
アントワネットとメロディだけじゃない。他にも何人か見当たらない。別の仕事でも任せられたのかなと思いつつ、土を掘っているとようやく戻って来た……けれど。
メロディは隠しもせず不快そうな表情をしているし、アントワネットも笑顔で誤魔化そうとして誤魔化せていない。
どうしたのか聞いてみても、
「「どうぞ、お気になさらず」」
としか返って来ない。
まさか仁義なき女の戦いでも起こったのかと心配するも、そのあとは普通に仲良さそうに茄子を収穫していたし謎だ……。
けれど、これは単なる序章にしか過ぎなかった。
この日を境に、数人の修道女が突然いなくなったかと思うと、その一時間後に何事もなかったかのように戻って来る謎の現象が多発するようになった。しかもどこに行っていたのかは決して明かそうとはしない。ただしとっても不機嫌そう。
しかも多分、まだ消えていないのは私だけ。もしや私のためにサプライズパーティーでも企画している? と思ったけれど、私の誕生日もあと三ヶ月も先だ。しかもその準備のせいでみんなが不機嫌になっているとしたら、ショックすぎて泣く。
リーゼがいなくなって平和が訪れたはずなのに、レイスのことといい、みんなのことといい私の脳内は大忙しだ。そろそろ頭をすっからかんにしたいと思いながら、自室でレーズン作り用のザルを作成している時だった。
「いい加減にリグレット様のことは諦めなさい!」
廊下から聞こえてきたアントワネットの怒鳴り声。
私のことを諦めろって、まさかレイスが何かやらかしたのだろうか。心配になって部屋を飛び出すと、
「リグレット!? よかった……やっと君に会うことができた……!」
アントワネットを始めとする数人の修道女と口論になっていたらしいイレネーがこっちに向かってきた。
お前かよ。
「リグレット様はお部屋に戻っていてください! そんな方とお話する必要はありません!」
元がつくとは言え、お姫様にそう言われちゃ従うしかない。私は無言で部屋に戻って鍵をかけた。
前からレイスに恋愛的な意味で好かれているとは何となく気づいていたけれど、私以外の全てを捨てる覚悟があるとかめっちゃくちゃヘビー級だった。もう少しライトにいけよ。
あの調子だと、もし私が「この国にいると、赤の他人の恋路のせいで危ないんで他国に逃げます」とカミングアウトしたら、迷わず着いて来そうだ。何だかんだで世話になっているグライン公爵やテオドールに合わせる顔がない。
あ、いや、でも待て。恋愛脳もとい破滅の使者のリーゼはまさかの囚人ルートを選んだわけだ。
つまりこの国は安泰なのでは? そうなれば国外脱出の意味もなくなる。
私が国から出て行かないということは、レイスの人生を破綻させることもない。
レイスも私とずっと一緒にいることができるし、これぞ一石二鳥……。
そこまで考えてから私は首を傾げた。
一緒にいるって何だ。私は修道女で、レイスは貴族のお坊ちゃまだ。恋愛事はご法度な以上、私たちの関係が発展することはあってはならない。
ただまあ、私がナヴィア修道院を出れば話は別だろうけれど。いやいや、何で例外のパターンを考えているのだろう……。
レイスと私の関係についてあれこれ考えてしまったせいで、その夜はよく寝つけなかった。
日課の畑仕事の最中に何度も欠伸が出てしまう。いかんいかん、集中せねばと自分に言い聞かせていると、あることに気づく。
「あれ、アントワネット様とメロディ様は?」
「そういえば見かけませんねぇ……」
クラリスと一緒にきょろきょろと周囲を見回す。
じゃがいも掘りの時に院長に呼ばれたっきり、一向に二人が戻って来ない。
アントワネットとメロディだけじゃない。他にも何人か見当たらない。別の仕事でも任せられたのかなと思いつつ、土を掘っているとようやく戻って来た……けれど。
メロディは隠しもせず不快そうな表情をしているし、アントワネットも笑顔で誤魔化そうとして誤魔化せていない。
どうしたのか聞いてみても、
「「どうぞ、お気になさらず」」
としか返って来ない。
まさか仁義なき女の戦いでも起こったのかと心配するも、そのあとは普通に仲良さそうに茄子を収穫していたし謎だ……。
けれど、これは単なる序章にしか過ぎなかった。
この日を境に、数人の修道女が突然いなくなったかと思うと、その一時間後に何事もなかったかのように戻って来る謎の現象が多発するようになった。しかもどこに行っていたのかは決して明かそうとはしない。ただしとっても不機嫌そう。
しかも多分、まだ消えていないのは私だけ。もしや私のためにサプライズパーティーでも企画している? と思ったけれど、私の誕生日もあと三ヶ月も先だ。しかもその準備のせいでみんなが不機嫌になっているとしたら、ショックすぎて泣く。
リーゼがいなくなって平和が訪れたはずなのに、レイスのことといい、みんなのことといい私の脳内は大忙しだ。そろそろ頭をすっからかんにしたいと思いながら、自室でレーズン作り用のザルを作成している時だった。
「いい加減にリグレット様のことは諦めなさい!」
廊下から聞こえてきたアントワネットの怒鳴り声。
私のことを諦めろって、まさかレイスが何かやらかしたのだろうか。心配になって部屋を飛び出すと、
「リグレット!? よかった……やっと君に会うことができた……!」
アントワネットを始めとする数人の修道女と口論になっていたらしいイレネーがこっちに向かってきた。
お前かよ。
「リグレット様はお部屋に戻っていてください! そんな方とお話する必要はありません!」
元がつくとは言え、お姫様にそう言われちゃ従うしかない。私は無言で部屋に戻って鍵をかけた。
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