73 / 96
73.相棒
しおりを挟む
「い、痛い……! 何をするんで……ヒャッ」
リーゼは抗議しようとするものの、アントワネットが放つ凄まじい怒気に気圧されて悲鳴を上げた。
私たちも突然のことに呆然としていた。
見える。アントワネットの灰色の髪が金色にカラーチェンジして逆立っている幻覚が見える……。
「そんなつまらない理由で、あなたは古の魔物を蘇らせたのですね……」
アントワネットの声がいつもより三トーンくらい低くなっている。ソプラノパートが得意だと思ったら、アルトのほうが向いている人だった。
対するリーゼがソプラノで反論しようとする。
「あなたを巻き込んじゃったのは申し訳ないと思ってます! でも、それはあなたにブレスレットを着けさせた聖女さんが悪いので! どうせデザインが気に入らなかったとかで、あなたにブレスレットを押しつけヘブゥッ」
再びビンタが炸裂した。
「私は私が襲われたことは、どうでもいいと思っています。私が怒っているのは自分勝手な理由でリグレット様の命を奪おうとしたこと、ジュリアン王太子殿下やジン騎士団長を手に入れようとしたことですので」
「え……えええっ!? あなたもジュリアン様とジン様狙いだったなんてギャフゥッ」
三発目のビンタ。心なしか、先程より音が大きくなっている気がするのだけれど、今のアントワネットは超人だから誰も止められない。そもそも止めるつもりもない。
「助けてジュリアン様! この人、私がジュリアン様と仲良くしていたからきっと嫉妬してる……!」
「好きにさせてあげるんだ。君はこのあと、魔物を故意的に暴走させた罪で逮捕されて、二度と顔を合わせることがなくなるのだから」
「た、たい……そんなの嫌です! 私、ジン様とお別れしたくない!」
「うるせぇ。俺に二度とその面を見せんな」
ジュリアンは冷徹な言葉をリーゼに突きつけ、ジンに至っては家から出て行ってしまった。村人たちも殺気混じりの怒気を漂わせている。
最早リーゼに味方はいなかった。そのことを悟ったのか、青ざめた顔で「な、何で、私、私」とブツブツ言っている。
「私みたいな貧乏な女の子でも、光属性の魔法があれば五人までなら付き合えるって書いてあったのに……」
書いてあった? それについて詳しく聞こうとしたけれど、「詳しい話は城で聞く!」と護衛兵によって連れ出されてしまった。
……メインヒロイン、逮捕されてしまったんだが?
その後、派遣されてきた救護兵にあとのことを任せて、私たちはナヴィア修道院に帰ることにした。
そこにはアントワネットの姿もある。別れ際、ジュリアンから「アリスに戻るつもりはないんだね?」と尋ねられて、首を縦に振っていた。
一方ジンは深々と頭を下げてきた。詐欺師呼ばわりしたことへの謝罪と、アントワネットを助けたことへの感謝、そしてアントワネットをよろしく頼むというお願いの意味が込められていた。欲張りバリューセットかよ。
「リグレット様ー! 何だかそのお姿かっこいいですね~~!」
「ええ。お似合いですよ、リグレット様」
馬車の窓から顔を出したクラリスとメロディに褒められてコクンと頷いた。
現在、私は青玉の馬に乗って馬車と並走していた。しっかりとヘルメットを装着して。
出番が終わり、再び村長宅にお持ち帰りかと思いきや、青玉の馬は勝手に走り出して私の下に現れたのだ。そしてライトをチカチカ。
「あんた……まだ走り足りないって?」
そう尋ねてみれば、肯定するようにブロロロッとエンジン音を轟かせた。
こんな反応をされると置いて行けない。それにいざという時に備えて乗り物があるのはいいことだし。
だけど流石に普段、ノーヘルで走りたくはないなぁと考えていると、上空からゴトンッと丸い物体が降って来た。
私の足元に転がる青いヘルメット。お気遣いどうもありがとう。
何はともあれ私に相棒が出来た瞬間だった。
リーゼは抗議しようとするものの、アントワネットが放つ凄まじい怒気に気圧されて悲鳴を上げた。
私たちも突然のことに呆然としていた。
見える。アントワネットの灰色の髪が金色にカラーチェンジして逆立っている幻覚が見える……。
「そんなつまらない理由で、あなたは古の魔物を蘇らせたのですね……」
アントワネットの声がいつもより三トーンくらい低くなっている。ソプラノパートが得意だと思ったら、アルトのほうが向いている人だった。
対するリーゼがソプラノで反論しようとする。
「あなたを巻き込んじゃったのは申し訳ないと思ってます! でも、それはあなたにブレスレットを着けさせた聖女さんが悪いので! どうせデザインが気に入らなかったとかで、あなたにブレスレットを押しつけヘブゥッ」
再びビンタが炸裂した。
「私は私が襲われたことは、どうでもいいと思っています。私が怒っているのは自分勝手な理由でリグレット様の命を奪おうとしたこと、ジュリアン王太子殿下やジン騎士団長を手に入れようとしたことですので」
「え……えええっ!? あなたもジュリアン様とジン様狙いだったなんてギャフゥッ」
三発目のビンタ。心なしか、先程より音が大きくなっている気がするのだけれど、今のアントワネットは超人だから誰も止められない。そもそも止めるつもりもない。
「助けてジュリアン様! この人、私がジュリアン様と仲良くしていたからきっと嫉妬してる……!」
「好きにさせてあげるんだ。君はこのあと、魔物を故意的に暴走させた罪で逮捕されて、二度と顔を合わせることがなくなるのだから」
「た、たい……そんなの嫌です! 私、ジン様とお別れしたくない!」
「うるせぇ。俺に二度とその面を見せんな」
ジュリアンは冷徹な言葉をリーゼに突きつけ、ジンに至っては家から出て行ってしまった。村人たちも殺気混じりの怒気を漂わせている。
最早リーゼに味方はいなかった。そのことを悟ったのか、青ざめた顔で「な、何で、私、私」とブツブツ言っている。
「私みたいな貧乏な女の子でも、光属性の魔法があれば五人までなら付き合えるって書いてあったのに……」
書いてあった? それについて詳しく聞こうとしたけれど、「詳しい話は城で聞く!」と護衛兵によって連れ出されてしまった。
……メインヒロイン、逮捕されてしまったんだが?
その後、派遣されてきた救護兵にあとのことを任せて、私たちはナヴィア修道院に帰ることにした。
そこにはアントワネットの姿もある。別れ際、ジュリアンから「アリスに戻るつもりはないんだね?」と尋ねられて、首を縦に振っていた。
一方ジンは深々と頭を下げてきた。詐欺師呼ばわりしたことへの謝罪と、アントワネットを助けたことへの感謝、そしてアントワネットをよろしく頼むというお願いの意味が込められていた。欲張りバリューセットかよ。
「リグレット様ー! 何だかそのお姿かっこいいですね~~!」
「ええ。お似合いですよ、リグレット様」
馬車の窓から顔を出したクラリスとメロディに褒められてコクンと頷いた。
現在、私は青玉の馬に乗って馬車と並走していた。しっかりとヘルメットを装着して。
出番が終わり、再び村長宅にお持ち帰りかと思いきや、青玉の馬は勝手に走り出して私の下に現れたのだ。そしてライトをチカチカ。
「あんた……まだ走り足りないって?」
そう尋ねてみれば、肯定するようにブロロロッとエンジン音を轟かせた。
こんな反応をされると置いて行けない。それにいざという時に備えて乗り物があるのはいいことだし。
だけど流石に普段、ノーヘルで走りたくはないなぁと考えていると、上空からゴトンッと丸い物体が降って来た。
私の足元に転がる青いヘルメット。お気遣いどうもありがとう。
何はともあれ私に相棒が出来た瞬間だった。
96
お気に入りに追加
5,511
あなたにおすすめの小説
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。

【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた
21時完結
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。

ある王国の王室の物語
朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。
顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。
それから
「承知しました」とだけ言った。
ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。
それからバウンドケーキに手を伸ばした。
カクヨムで公開したものに手を入れたものです。

婚約破棄に全力感謝
あーもんど
恋愛
主人公の公爵家長女のルーナ・マルティネスはあるパーティーで婚約者の王太子殿下に婚約破棄と国外追放を言い渡されてしまう。でも、ルーナ自身は全く気にしてない様子....いや、むしろ大喜び!
婚約破棄?国外追放?喜んでお受けします。だって、もうこれで国のために“力”を使わなくて済むもの。
実はルーナは世界最強の魔導師で!?
ルーナが居なくなったことにより、国は滅びの一途を辿る!
「滅び行く国を遠目から眺めるのは大変面白いですね」
※色々な人達の目線から話は進んでいきます。
※HOT&恋愛&人気ランキング一位ありがとうございます(2019 9/18)

村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
修道女エンドの悪役令嬢が実は聖女だったわけですが今更助けてなんて言わないですよね
星里有乃
恋愛
『お久しぶりですわ、バッカス王太子。ルイーゼの名は捨てて今は洗礼名のセシリアで暮らしております。そちらには聖女ミカエラさんがいるのだから、私がいなくても安心ね。ご機嫌よう……』
悪役令嬢ルイーゼは聖女ミカエラへの嫌がらせという濡れ衣を着せられて、辺境の修道院へ追放されてしまう。2年後、魔族の襲撃により王都はピンチに陥り、真の聖女はミカエラではなくルイーゼだったことが判明する。
地母神との誓いにより祖国の土地だけは踏めないルイーゼに、今更助けを求めることは不可能。さらに、ルイーゼには別の国の王子から求婚話が来ていて……?
* この作品は、アルファポリスさんと小説家になろうさんに投稿しています。
* 2025年2月1日、本編完結しました。予定より少し文字数多めです。番外編や後日談など、また改めて投稿出来たらと思います。ご覧いただきありがとうございました!

【完結】 悪役令嬢が死ぬまでにしたい10のこと
淡麗 マナ
恋愛
2022/04/07 小説ホットランキング女性向け1位に入ることができました。皆様の応援のおかげです。ありがとうございます。
第3回 一二三書房WEB小説大賞の最終選考作品です。(5,668作品のなかで45作品)
※コメント欄でネタバレしています。私のミスです。ネタバレしたくない方は読み終わったあとにコメントをご覧ください。
原因不明の病により、余命3ヶ月と診断された公爵令嬢のフェイト・アシュフォード。
よりによって今日は、王太子殿下とフェイトの婚約が発表されるパーティの日。
王太子殿下のことを考えれば、わたくしは身を引いたほうが良い。
どうやって婚約をお断りしようかと考えていると、王太子殿下の横には容姿端麗の女性が。逆に婚約破棄されて傷心するフェイト。
家に帰り、一冊の本をとりだす。それはフェイトが敬愛する、悪役令嬢とよばれた公爵令嬢ヴァイオレットが活躍する物語。そのなかに、【死ぬまでにしたい10のこと】を決める描写があり、フェイトはそれを真似してリストを作り、生きる指針とする。
1.余命のことは絶対にだれにも知られないこと。
2.悪役令嬢ヴァイオレットになりきる。あえて人から嫌われることで、自分が死んだ時の悲しみを減らす。(これは実行できなくて、後で変更することになる)
3.必ず病気の原因を突き止め、治療法を見つけだし、他の人が病気にならないようにする。
4.ノブレス・オブリージュ 公爵令嬢としての責務をいつもどおり果たす。
5.お父様と弟の問題を解決する。
それと、目に入れても痛くない、白蛇のイタムの新しい飼い主を探さねばなりませんし、恋……というものもしてみたいし、矛盾していますけれど、友達も欲しい。etc.
リストに従い、持ち前の執務能力、するどい観察眼を持って、人々の問題や悩みを解決していくフェイト。
ただし、悪役令嬢の振りをして、人から嫌われることは上手くいかない。逆に好かれてしまう! では、リストを変更しよう。わたくしの身代わりを立て、遠くに嫁いでもらうのはどうでしょう?
たとえ失敗しても10のリストを修正し、最善を尽くすフェイト。
これはフェイトが、余命3ヶ月で10のしたいことを実行する物語。皆を自らの死によって悲しませない為に足掻き、運命に立ち向かう、逆転劇。
【注意点】
恋愛要素は弱め。
設定はかなりゆるめに作っています。
1人か、2人、苛立つキャラクターが出てくると思いますが、爽快なざまぁはありません。
2章以降だいぶ殺伐として、不穏な感じになりますので、合わないと思ったら辞めることをお勧めします。
母と妹が出来て婚約者が義理の家族になった伯爵令嬢は・・
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
全てを失った伯爵令嬢の再生と逆転劇の物語
母を早くに亡くした19歳の美しく、心優しい伯爵令嬢スカーレットには2歳年上の婚約者がいた。2人は間もなく結婚するはずだったが、ある日突然単身赴任中だった父から再婚の知らせが届いた。やがて屋敷にやって来たのは義理の母と2歳年下の義理の妹。肝心の父は旅の途中で不慮の死を遂げていた。そして始まるスカーレットの受難の日々。持っているものを全て奪われ、ついには婚約者と屋敷まで奪われ、住む場所を失ったスカーレットの行く末は・・・?
※ カクヨム、小説家になろうにも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる