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73.相棒
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「い、痛い……! 何をするんで……ヒャッ」
リーゼは抗議しようとするものの、アントワネットが放つ凄まじい怒気に気圧されて悲鳴を上げた。
私たちも突然のことに呆然としていた。
見える。アントワネットの灰色の髪が金色にカラーチェンジして逆立っている幻覚が見える……。
「そんなつまらない理由で、あなたは古の魔物を蘇らせたのですね……」
アントワネットの声がいつもより三トーンくらい低くなっている。ソプラノパートが得意だと思ったら、アルトのほうが向いている人だった。
対するリーゼがソプラノで反論しようとする。
「あなたを巻き込んじゃったのは申し訳ないと思ってます! でも、それはあなたにブレスレットを着けさせた聖女さんが悪いので! どうせデザインが気に入らなかったとかで、あなたにブレスレットを押しつけヘブゥッ」
再びビンタが炸裂した。
「私は私が襲われたことは、どうでもいいと思っています。私が怒っているのは自分勝手な理由でリグレット様の命を奪おうとしたこと、ジュリアン王太子殿下やジン騎士団長を手に入れようとしたことですので」
「え……えええっ!? あなたもジュリアン様とジン様狙いだったなんてギャフゥッ」
三発目のビンタ。心なしか、先程より音が大きくなっている気がするのだけれど、今のアントワネットは超人だから誰も止められない。そもそも止めるつもりもない。
「助けてジュリアン様! この人、私がジュリアン様と仲良くしていたからきっと嫉妬してる……!」
「好きにさせてあげるんだ。君はこのあと、魔物を故意的に暴走させた罪で逮捕されて、二度と顔を合わせることがなくなるのだから」
「た、たい……そんなの嫌です! 私、ジン様とお別れしたくない!」
「うるせぇ。俺に二度とその面を見せんな」
ジュリアンは冷徹な言葉をリーゼに突きつけ、ジンに至っては家から出て行ってしまった。村人たちも殺気混じりの怒気を漂わせている。
最早リーゼに味方はいなかった。そのことを悟ったのか、青ざめた顔で「な、何で、私、私」とブツブツ言っている。
「私みたいな貧乏な女の子でも、光属性の魔法があれば五人までなら付き合えるって書いてあったのに……」
書いてあった? それについて詳しく聞こうとしたけれど、「詳しい話は城で聞く!」と護衛兵によって連れ出されてしまった。
……メインヒロイン、逮捕されてしまったんだが?
その後、派遣されてきた救護兵にあとのことを任せて、私たちはナヴィア修道院に帰ることにした。
そこにはアントワネットの姿もある。別れ際、ジュリアンから「アリスに戻るつもりはないんだね?」と尋ねられて、首を縦に振っていた。
一方ジンは深々と頭を下げてきた。詐欺師呼ばわりしたことへの謝罪と、アントワネットを助けたことへの感謝、そしてアントワネットをよろしく頼むというお願いの意味が込められていた。欲張りバリューセットかよ。
「リグレット様ー! 何だかそのお姿かっこいいですね~~!」
「ええ。お似合いですよ、リグレット様」
馬車の窓から顔を出したクラリスとメロディに褒められてコクンと頷いた。
現在、私は青玉の馬に乗って馬車と並走していた。しっかりとヘルメットを装着して。
出番が終わり、再び村長宅にお持ち帰りかと思いきや、青玉の馬は勝手に走り出して私の下に現れたのだ。そしてライトをチカチカ。
「あんた……まだ走り足りないって?」
そう尋ねてみれば、肯定するようにブロロロッとエンジン音を轟かせた。
こんな反応をされると置いて行けない。それにいざという時に備えて乗り物があるのはいいことだし。
だけど流石に普段、ノーヘルで走りたくはないなぁと考えていると、上空からゴトンッと丸い物体が降って来た。
私の足元に転がる青いヘルメット。お気遣いどうもありがとう。
何はともあれ私に相棒が出来た瞬間だった。
リーゼは抗議しようとするものの、アントワネットが放つ凄まじい怒気に気圧されて悲鳴を上げた。
私たちも突然のことに呆然としていた。
見える。アントワネットの灰色の髪が金色にカラーチェンジして逆立っている幻覚が見える……。
「そんなつまらない理由で、あなたは古の魔物を蘇らせたのですね……」
アントワネットの声がいつもより三トーンくらい低くなっている。ソプラノパートが得意だと思ったら、アルトのほうが向いている人だった。
対するリーゼがソプラノで反論しようとする。
「あなたを巻き込んじゃったのは申し訳ないと思ってます! でも、それはあなたにブレスレットを着けさせた聖女さんが悪いので! どうせデザインが気に入らなかったとかで、あなたにブレスレットを押しつけヘブゥッ」
再びビンタが炸裂した。
「私は私が襲われたことは、どうでもいいと思っています。私が怒っているのは自分勝手な理由でリグレット様の命を奪おうとしたこと、ジュリアン王太子殿下やジン騎士団長を手に入れようとしたことですので」
「え……えええっ!? あなたもジュリアン様とジン様狙いだったなんてギャフゥッ」
三発目のビンタ。心なしか、先程より音が大きくなっている気がするのだけれど、今のアントワネットは超人だから誰も止められない。そもそも止めるつもりもない。
「助けてジュリアン様! この人、私がジュリアン様と仲良くしていたからきっと嫉妬してる……!」
「好きにさせてあげるんだ。君はこのあと、魔物を故意的に暴走させた罪で逮捕されて、二度と顔を合わせることがなくなるのだから」
「た、たい……そんなの嫌です! 私、ジン様とお別れしたくない!」
「うるせぇ。俺に二度とその面を見せんな」
ジュリアンは冷徹な言葉をリーゼに突きつけ、ジンに至っては家から出て行ってしまった。村人たちも殺気混じりの怒気を漂わせている。
最早リーゼに味方はいなかった。そのことを悟ったのか、青ざめた顔で「な、何で、私、私」とブツブツ言っている。
「私みたいな貧乏な女の子でも、光属性の魔法があれば五人までなら付き合えるって書いてあったのに……」
書いてあった? それについて詳しく聞こうとしたけれど、「詳しい話は城で聞く!」と護衛兵によって連れ出されてしまった。
……メインヒロイン、逮捕されてしまったんだが?
その後、派遣されてきた救護兵にあとのことを任せて、私たちはナヴィア修道院に帰ることにした。
そこにはアントワネットの姿もある。別れ際、ジュリアンから「アリスに戻るつもりはないんだね?」と尋ねられて、首を縦に振っていた。
一方ジンは深々と頭を下げてきた。詐欺師呼ばわりしたことへの謝罪と、アントワネットを助けたことへの感謝、そしてアントワネットをよろしく頼むというお願いの意味が込められていた。欲張りバリューセットかよ。
「リグレット様ー! 何だかそのお姿かっこいいですね~~!」
「ええ。お似合いですよ、リグレット様」
馬車の窓から顔を出したクラリスとメロディに褒められてコクンと頷いた。
現在、私は青玉の馬に乗って馬車と並走していた。しっかりとヘルメットを装着して。
出番が終わり、再び村長宅にお持ち帰りかと思いきや、青玉の馬は勝手に走り出して私の下に現れたのだ。そしてライトをチカチカ。
「あんた……まだ走り足りないって?」
そう尋ねてみれば、肯定するようにブロロロッとエンジン音を轟かせた。
こんな反応をされると置いて行けない。それにいざという時に備えて乗り物があるのはいいことだし。
だけど流石に普段、ノーヘルで走りたくはないなぁと考えていると、上空からゴトンッと丸い物体が降って来た。
私の足元に転がる青いヘルメット。お気遣いどうもありがとう。
何はともあれ私に相棒が出来た瞬間だった。
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