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72.自白
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「お前に文句を言える権利があると思ってんのか!? お前のせいで家が壊されたし、怪我人もたくさん出たんだぞ!?」
「だ、だって、私だってあんなに凶暴な魔物だなんて思わなかったんです! それに被害がいっぱい出ちゃったのは、兵士さんたちが早くやっつけてくれなかったからで……」
お花畑理論を展開するリーゼだったけれど、ジュリアンが低く呻くような声音で「……リーゼ」と呼ぶと、私たちの存在に気づいたようで表情を引き攣らせた。何て分かりやすい悪女ムーヴをするんだ、このピンク頭は……。
ジュリアンはリーゼに冷たい眼差しを向けつつ、彼女と口論していた村人に話しかけた。
「彼女が魔物の封印を解いたのは本当かな?」
「はい。あの封印は元々光属性魔法によるもので、魔物が苦手とする光属性の魔力を結晶化させて対象を閉じ込めていたんです。ですが魔物を広場に運び出す直前に、この娘が自分の魔力を結晶に注ぎ込んで封印が解けるように細工していました」
「確かに、光属性魔法の使い手であるリーゼなら可能だね。だけど、どうやって突き止めたんだい?」
「あまりにも単純ですよ。こんな馬鹿に村を滅茶苦茶にされたのかって呆れるくらいに。……聞きます?」
村人の問いかけにジュリアンは無言で頷いた。リーゼが「ちょ、待ってください!」と制止しようとするけれど、その場にいた全員に睨まれて大人しくなった。
「村人の間で、誰かが意図的に封印を解いたんじゃないかって話になりまして。それを聞いた子供たちが、その犯人をボロカスに言い出したんです。『早く悪者を捕まえなくちゃ』とか、『お馬に乗ってる聖女様にやっつけられちゃえ』とか……そしたら、この娘、『何で私があんな人にやられなくちゃいけないの!? 絶対嫌だもん……!』って自分から言い出したんです」
何……だと!?
「しかもそれとは別に、魔物を封印している結晶に触っていたって目撃証言も出ていたんです。なので問い詰めてみたら、自分がやったって白状しましたよ」
村人は説明を終えると、深い溜め息をついた。その気持ち、とても分かる。
メインヒロインのやらかしに変な汗が止まらない。もう一度言うけれどホント何してんだ、こいつ……。
ただ本人にも言い分があるのか、リーゼが不満そうに口を開いた。
「わ、私はそんなに悪くないと思うんです! だって私は手紙の通りにやっただけなんですから!」
「手紙?」
ジュリアンが反応した。
「『このままだとあなたは好きな人と結ばれません。魔物にナヴィア修道院の聖女を襲わせるのです』って手紙が届いたんです。だから私、頑張らなくちゃって思って……」
「好きな人とは誰のことだい?」
「ジュリアン様……とジン様……とイレネー様」
「はぁ?」
ジュリアン、渾身の「はぁ?」。
ジンも眉間に皺を数本刻んだ顔でリーゼを睨みつけている。好きな人は誰なのか聞いたのに複数人答えたメインヒロインに、室内の空気が凍りついた。
いや待て、ナヴィア修道院の聖女というのはまさか……。
「だからぁ、魔物を復活させてやったー! って思ったのに、どうしてそっちのシスターさんがブレスレット着けてるんですか!? 私、ちゃんと『走って行った人に渡してください』って言ったのに!」
やっぱリグレットかよ!!
「レイモンド様は他の国に行っちゃうし、テオドール様も雰囲気が変わってかっこよくなくなっちゃうし! それが聖女さんのせいだって知ったら、誰だってこう思いますよ! 『聖女さんなんていなくなっちゃえ!』って!」
「私のせいって、いやそんな」
「本当は五人全員と結ばれたかったのに……っ、好きな人と一緒にいたいって想うのはそんなに悪いことですか……?」
嘘泣きではなくて、本気で泣いているところに感じるヤバさ。後半の台詞だけなら哀れなヒロインでいられたのに、前半パートが全力で足を引っ張っている。
あんまりにもさらっと言うもんだから、この国って一妻多夫いけるんだったかと疑ったけれど、ジュリアンとジンのドン引き顔がそれを否定する。リーゼが全方位恋愛脳なだけだった。
だけどテオドール、レイモンド、ジュリアン、ジン、イレネーとピンポイントで攻略キャラを狙いを定めている。
ということはリーゼも私と同じで、前世の記憶持ちか? と考えていると、
「リーゼ様、でしたね。仰りたいことはそれで全てですか?」
天使のような微笑みを湛えたアントワネットがリーゼの前に立つ。
するとリーゼはムッとした顔で、
「そんなのいっぱいありま」
アントワネットが無言でリーゼの顔面にビンタを喰らわせた。
「だ、だって、私だってあんなに凶暴な魔物だなんて思わなかったんです! それに被害がいっぱい出ちゃったのは、兵士さんたちが早くやっつけてくれなかったからで……」
お花畑理論を展開するリーゼだったけれど、ジュリアンが低く呻くような声音で「……リーゼ」と呼ぶと、私たちの存在に気づいたようで表情を引き攣らせた。何て分かりやすい悪女ムーヴをするんだ、このピンク頭は……。
ジュリアンはリーゼに冷たい眼差しを向けつつ、彼女と口論していた村人に話しかけた。
「彼女が魔物の封印を解いたのは本当かな?」
「はい。あの封印は元々光属性魔法によるもので、魔物が苦手とする光属性の魔力を結晶化させて対象を閉じ込めていたんです。ですが魔物を広場に運び出す直前に、この娘が自分の魔力を結晶に注ぎ込んで封印が解けるように細工していました」
「確かに、光属性魔法の使い手であるリーゼなら可能だね。だけど、どうやって突き止めたんだい?」
「あまりにも単純ですよ。こんな馬鹿に村を滅茶苦茶にされたのかって呆れるくらいに。……聞きます?」
村人の問いかけにジュリアンは無言で頷いた。リーゼが「ちょ、待ってください!」と制止しようとするけれど、その場にいた全員に睨まれて大人しくなった。
「村人の間で、誰かが意図的に封印を解いたんじゃないかって話になりまして。それを聞いた子供たちが、その犯人をボロカスに言い出したんです。『早く悪者を捕まえなくちゃ』とか、『お馬に乗ってる聖女様にやっつけられちゃえ』とか……そしたら、この娘、『何で私があんな人にやられなくちゃいけないの!? 絶対嫌だもん……!』って自分から言い出したんです」
何……だと!?
「しかもそれとは別に、魔物を封印している結晶に触っていたって目撃証言も出ていたんです。なので問い詰めてみたら、自分がやったって白状しましたよ」
村人は説明を終えると、深い溜め息をついた。その気持ち、とても分かる。
メインヒロインのやらかしに変な汗が止まらない。もう一度言うけれどホント何してんだ、こいつ……。
ただ本人にも言い分があるのか、リーゼが不満そうに口を開いた。
「わ、私はそんなに悪くないと思うんです! だって私は手紙の通りにやっただけなんですから!」
「手紙?」
ジュリアンが反応した。
「『このままだとあなたは好きな人と結ばれません。魔物にナヴィア修道院の聖女を襲わせるのです』って手紙が届いたんです。だから私、頑張らなくちゃって思って……」
「好きな人とは誰のことだい?」
「ジュリアン様……とジン様……とイレネー様」
「はぁ?」
ジュリアン、渾身の「はぁ?」。
ジンも眉間に皺を数本刻んだ顔でリーゼを睨みつけている。好きな人は誰なのか聞いたのに複数人答えたメインヒロインに、室内の空気が凍りついた。
いや待て、ナヴィア修道院の聖女というのはまさか……。
「だからぁ、魔物を復活させてやったー! って思ったのに、どうしてそっちのシスターさんがブレスレット着けてるんですか!? 私、ちゃんと『走って行った人に渡してください』って言ったのに!」
やっぱリグレットかよ!!
「レイモンド様は他の国に行っちゃうし、テオドール様も雰囲気が変わってかっこよくなくなっちゃうし! それが聖女さんのせいだって知ったら、誰だってこう思いますよ! 『聖女さんなんていなくなっちゃえ!』って!」
「私のせいって、いやそんな」
「本当は五人全員と結ばれたかったのに……っ、好きな人と一緒にいたいって想うのはそんなに悪いことですか……?」
嘘泣きではなくて、本気で泣いているところに感じるヤバさ。後半の台詞だけなら哀れなヒロインでいられたのに、前半パートが全力で足を引っ張っている。
あんまりにもさらっと言うもんだから、この国って一妻多夫いけるんだったかと疑ったけれど、ジュリアンとジンのドン引き顔がそれを否定する。リーゼが全方位恋愛脳なだけだった。
だけどテオドール、レイモンド、ジュリアン、ジン、イレネーとピンポイントで攻略キャラを狙いを定めている。
ということはリーゼも私と同じで、前世の記憶持ちか? と考えていると、
「リーゼ様、でしたね。仰りたいことはそれで全てですか?」
天使のような微笑みを湛えたアントワネットがリーゼの前に立つ。
するとリーゼはムッとした顔で、
「そんなのいっぱいありま」
アントワネットが無言でリーゼの顔面にビンタを喰らわせた。
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