70 / 96
70.魔封石
しおりを挟む
魔物が倒されて一件落着……というわけにはいかなかった。このデカブツを片付けなければならないし、半壊した民家の修理も、怪我人の手当てもある。
実演販売していた頃が懐かしいと思いながら、私は壊れた屋台の残骸を運んでいた。応急手当なんて私には経験がないので、自分から力仕事を志願したのだ。そういうのはメロディやクラリスが得意みたいなので。
「おお……すごい! 瓦礫が浮き上がった!」
「お嬢さん、魔法が使えるんだねぇ……」
アントワネットも魔法を使って瓦礫の撤去を手伝っていた。大人の男数人がかりで持ち上げるのがやっとのような塊も、風属性魔法で簡単に浮く。
やっぱり魔法ってすごいなと実感していると、
「アントワネット、ちょっといいかな?」
やけに硬い表情をしたジュリアンがアントワネットに声をかけた。
「はい。何でしょうか、王太子殿下」
「あの蛇の魔物は、何故か君をピンポイントで襲ってきた。僕のように、魔法で魔物の攻撃を妨害していたわけじゃなかったのにね。何か原因があると思ったんだけれど……」
それは確かに私も気になっていた。しかもアントワネットを丸呑みにするのかと思いきや、ずっと銜えたままだった。そのおかげで私のバイク特攻作戦も成功したわけだけれど。
「原因ですか……私には心当たりがありません」
アントワネットは申し訳なさそうに首を横に振った。そりゃそうだろう。
まさか魔物に一目惚れされたなんて、種族を超えた愛が芽生えたわけじゃないだろうに。
と、魔物の死骸を観察していたジンがアントワネットのところに走って来た。
「アリ……修道女、あんた魔封石を着けていなかったか?」
魔封石。ゲーム本編でも登場したアイテムだ。その名の通り魔力を封じ込めた石のことで、リーゼの魔力を閉じ込めた魔封石を悪用しようとする輩が出てきていた。
「魔物には魔法を使うことができる人間に惹かれる性質がある。だが奴は殿下や俺じゃなくて、真っ先にあんたに狙いを定めた。理由があるとしたら、魔封石の有無だ。魔物にとってはご馳走のようなものだからな」
「い、いえ。そのようなものも私は持っていません」
そう。第一ナヴィア修道院ではそんなものの持ち込みは禁止されて、いて……。
「……アントワネット様、ちょいと失礼」
一つだけ思い当たる節があった。
私はアントワネットの手を掴んで、修道服の袖を捲った。その下にあるのは、妖しい輝きを放つ紫色のブレスレット。実演販売を終えると、恥ずかしいと言ってアントワネットはすぐに袖の下に隠してしまっていたのだ。
それを見たジュリアンやジン、護衛兵たちの表情が変わる。
「これは……魔封石だ。つまりジンの言う通りみたいだね」
「ああ。こんなものを着けていたのに、すぐに食われなかったのは本人も優秀な魔法の使い手だから。俺たちを始末した後でゆっくり食うつもりだったんだな……」
つまり頑張った自分へのご褒美おやつ的な……?
そんな独身OLみたいな理由でアントワネットは助かったのかと複雑になる。
そして約一名に対する疑惑。
「アントワネット、このブレスレットをどこで手に入れたんだい? 魔封石なんて簡単に手に入るような代物ではないはずなのに……」
「リーゼです」
アントワネットの代わりに私が答えた。
「え?」と目を大きく見開くジュリアンに、私はもう一度「リーゼです」と告げた。
というか、お前と腕を組んでたピンク頭はどこに行ったんじゃい。
実演販売していた頃が懐かしいと思いながら、私は壊れた屋台の残骸を運んでいた。応急手当なんて私には経験がないので、自分から力仕事を志願したのだ。そういうのはメロディやクラリスが得意みたいなので。
「おお……すごい! 瓦礫が浮き上がった!」
「お嬢さん、魔法が使えるんだねぇ……」
アントワネットも魔法を使って瓦礫の撤去を手伝っていた。大人の男数人がかりで持ち上げるのがやっとのような塊も、風属性魔法で簡単に浮く。
やっぱり魔法ってすごいなと実感していると、
「アントワネット、ちょっといいかな?」
やけに硬い表情をしたジュリアンがアントワネットに声をかけた。
「はい。何でしょうか、王太子殿下」
「あの蛇の魔物は、何故か君をピンポイントで襲ってきた。僕のように、魔法で魔物の攻撃を妨害していたわけじゃなかったのにね。何か原因があると思ったんだけれど……」
それは確かに私も気になっていた。しかもアントワネットを丸呑みにするのかと思いきや、ずっと銜えたままだった。そのおかげで私のバイク特攻作戦も成功したわけだけれど。
「原因ですか……私には心当たりがありません」
アントワネットは申し訳なさそうに首を横に振った。そりゃそうだろう。
まさか魔物に一目惚れされたなんて、種族を超えた愛が芽生えたわけじゃないだろうに。
と、魔物の死骸を観察していたジンがアントワネットのところに走って来た。
「アリ……修道女、あんた魔封石を着けていなかったか?」
魔封石。ゲーム本編でも登場したアイテムだ。その名の通り魔力を封じ込めた石のことで、リーゼの魔力を閉じ込めた魔封石を悪用しようとする輩が出てきていた。
「魔物には魔法を使うことができる人間に惹かれる性質がある。だが奴は殿下や俺じゃなくて、真っ先にあんたに狙いを定めた。理由があるとしたら、魔封石の有無だ。魔物にとってはご馳走のようなものだからな」
「い、いえ。そのようなものも私は持っていません」
そう。第一ナヴィア修道院ではそんなものの持ち込みは禁止されて、いて……。
「……アントワネット様、ちょいと失礼」
一つだけ思い当たる節があった。
私はアントワネットの手を掴んで、修道服の袖を捲った。その下にあるのは、妖しい輝きを放つ紫色のブレスレット。実演販売を終えると、恥ずかしいと言ってアントワネットはすぐに袖の下に隠してしまっていたのだ。
それを見たジュリアンやジン、護衛兵たちの表情が変わる。
「これは……魔封石だ。つまりジンの言う通りみたいだね」
「ああ。こんなものを着けていたのに、すぐに食われなかったのは本人も優秀な魔法の使い手だから。俺たちを始末した後でゆっくり食うつもりだったんだな……」
つまり頑張った自分へのご褒美おやつ的な……?
そんな独身OLみたいな理由でアントワネットは助かったのかと複雑になる。
そして約一名に対する疑惑。
「アントワネット、このブレスレットをどこで手に入れたんだい? 魔封石なんて簡単に手に入るような代物ではないはずなのに……」
「リーゼです」
アントワネットの代わりに私が答えた。
「え?」と目を大きく見開くジュリアンに、私はもう一度「リーゼです」と告げた。
というか、お前と腕を組んでたピンク頭はどこに行ったんじゃい。
80
お気に入りに追加
5,483
あなたにおすすめの小説
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
乙女ゲームのヒロインの顔が、わたしから好きな人を奪い続けた幼なじみとそっくりでした。
ふまさ
恋愛
彩香はずっと、容姿が優れている幼なじみの佳奈に、好きな人を奪われ続けてきた。親にすら愛されなかった彩香を、はじめて愛してくれた真二でさえ、佳奈に奪われてしまう。
──こうなることがわかっていれば、はじめから好きになんてならなかったのに。
人間不信になった彩香は、それきり誰と恋することなく、人生を終える。
彩香だった前世をふっと思い出したのは、フェリシアが十二歳になったとき。
ここがかつてプレイした乙女ゲームの世界で、自身がヒロインを虐める悪役令嬢だと認識したフェリシア。五人の攻略対象者にとことん憎まれ、婚約者のクライブ王子にいずれ婚約破棄される運命だと悟ったフェリシアは、一人で生きていく力を身につけようとする。けれど、予想外にも優しくされ、愚かにも、クライブに徐々に惹かれていく。
ヒロインを虐めなければ、このままクライブと幸せになる未来があるのではないか。そんな馬鹿な期待を抱きはじめた中、迎えた王立学園の入学式の日。
特待生の証である、黒い制服を身に包んだヒロイン。振り返った黒髪の女性。
その顔は。
「……佳奈?」
呟いた声は、驚くほど掠れていた。
凍り付いたように固まる。足が地面に張り付き、動けなくなる。
「……な、んで」
驚愕の声はフェリシアではなく、なんとクライブのものだった。
クライブの緑の瞳が、真っ直ぐに、ヒロイン──佳奈に注がれる。
「……い、いや」
無意識に吐露し、クライブに手を伸ばす。クライブはその手をするりとかわし、佳奈に向かって走っていった。
(……また、佳奈に奪われる)
ヒロインに、なにもかも奪われる。その覚悟はしていた。でも、よりによって佳奈に──なんて。
フェリシアは伸ばした手を引っ込め、だらんと下げた。
悪役令嬢予定でしたが、無言でいたら、ヒロインがいつの間にか居なくなっていました
toyjoy11
恋愛
題名通りの内容。
一応、TSですが、主人公は元から性的思考がありませんので、問題無いと思います。
主人公、リース・マグノイア公爵令嬢は前世から寡黙な人物だった。その為、初っぱなの王子との喧嘩イベントをスルー。たった、それだけしか彼女はしていないのだが、自他共に関連する乙女ゲームや18禁ゲームのフラグがボキボキ折れまくった話。
完結済。ハッピーエンドです。
8/2からは閑話を書けたときに追加します。
ランクインさせて頂き、本当にありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ
お読み頂き本当にありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ
応援、アドバイス、感想、お気に入り、しおり登録等とても有り難いです。
12/9の9時の投稿で一応完結と致します。
更新、お待たせして申し訳ありません。後は、落ち着いたら投稿します。
ありがとうございました!
〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です
hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。
夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。
自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。
すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。
訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。
円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・
しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・
はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?
旦那様、離婚しましょう
榎夜
恋愛
私と旦那は、いわゆる『白い結婚』というやつだ。
手を繋いだどころか、夜を共にしたこともありません。
ですが、とある時に浮気相手が懐妊した、との報告がありました。
なので邪魔者は消えさせてもらいますね
*『旦那様、離婚しましょう~私は冒険者になるのでお構いなく!~』と登場人物は同じ
本当はこんな感じにしたかったのに主が詰め込みすぎて......
王子は婚約破棄を泣いて詫びる
tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。
目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。
「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」
存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。
王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。
婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい
矢口愛留
恋愛
【全11話】
学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。
しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。
クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。
スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。
※一話あたり短めです。
※ベリーズカフェにも投稿しております。
婚約を破棄され辺境に追いやられたけれど、思っていたより快適です!
さこの
恋愛
婚約者の第五王子フランツ殿下には好きな令嬢が出来たみたい。その令嬢とは男爵家の養女で親戚筋にあたり現在私のうちに住んでいる。
婚約者の私が邪魔になり、身分剥奪そして追放される事になる。陛下や両親が留守の間に王都から追放され、辺境の町へと行く事になった。
100キロ以内近寄るな。100キロといえばクレマン? そこに第三王子フェリクス殿下が来て“グレマン”へ行くようにと言う。クレマンと“グレマン”だと方向は真逆です。
追放と言われましたので、屋敷に帰り準備をします。フランツ殿下が王族として下した命令は自分勝手なものですから、陛下達が帰って来たらどうなるでしょう?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる