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68.青玉の馬

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 あまりのショックで再起不能になりかけていた村長は顔を上げると、ジンを見て目を大きく見開いた。

「お前……まさかジン坊か? おお、随分と大きくなって……」
「いいから青玉の馬はどこにある!?」
「うががががが」

 ジンに揺さぶられて村長の口からブルドーザーみたいな声が出ている。ご老体の寿命が縮まってしまう。
 見兼ねた村人が二人を引き剥がしたけれど、ジンはなおも村長に飛びかかろうとする。

「翼がないのに空を駆けることのできる青玉の馬……それがあれば、あの魔物の間合いに入れるし彼女を取り返せるかもしれない!」
「だがな、ジン坊。あれは古の魔導具だ。今まで誰も使いこなすことが出来なかった……」
「でも何もしないよりはマシだろうが!」

 ジンの言う通りだ。少しでも可能性があるなら、それに賭けてみるしかないだろう。
 村人たちからも「村長……」と求めるような声が上がる。それで村長も腹を括ったのか、深く溜め息をつく。

「そうだな……今はそれしかない。青玉の馬をここへ運んでくる。何人かついて来てくれるか?」

 村長の呼びかけに数人の村人がついていく。
 それを見たジュリアンはジンや護衛兵たちへ「みんな!」と声をかけた。

「僕たちの役目は、青玉の馬が来るまでの時間稼ぎだ。魔物の攻撃から民家や人々を守ろう」
「殿下、あんたは逃げていろ。ここは俺たちだけでいい」
「いいや、ジン。あの魔物にとって、遠距離への攻撃ができる僕は邪魔な存在だ。だから魔物は僕を優先的に狙うだろう。そうすれば周囲への攻撃も多少減るはずだよ」
「それはそうかもしれないが……」
「ジン、を守るということは、民たちを守ることにも繋がる。……よろしく頼む」

 ジュリアン王太子、覚醒。これにはジンも頷くしかなかった。
 ここまでまっすぐな性格だったろうか。アントワネット、いやアリスとの再会が彼を変えたのかもしれない。リーゼ? どっか行った。

「行くぞ、ジュリアン王太子と共にエレナック村を守るぞー!!」
「「「おお!!」」」

 護衛兵もやる気に溢れている。何か熱い展開になってきた……。
 バザーに参加していた修道女たちも避難の誘導や、怪我人の手当てを手伝っている。その中には当然ナヴィア修道院のみんなも。
 私もそれに加わっていると、村長たちが戻って来た。

「待たせたな皆の者、これが村の地下に保管されていた青玉の馬だ!」

 台車に載せられた『それ』が広場に運ばれてくる。
 が、『それ』を見た皆の表情は困惑に変わった。

「な、何だそれは。本当に『馬』なのか……?」
「こんなものどうやって使えと!?」
「確かに翼はない。だが、これは動物の脚というより車輪にようではないか?」

 青玉の馬のご登場にざわつく広場。
 持って来いと言っていたジンも、背後に宇宙が浮かんでいるような真顔をしている。

 無理もなかった。何せどこからどう見ても馬の形をしていない。
 青く塗装された鉄のボディ。
 どんなに険しい荒野でも駆け抜けることが出来るであろう黒いタイヤ。
 握りがいのありそうな太いハンドル。

 まるでバイクのような……いや、バイク。どこからどう見てもバイクだった。
 突然登場したモダンな乗り物に世界観がこわれる! 筑前煮に突然ホワイトソースをぶっ込まれたようなこの気持ち。
 しかもどうでもいいことだけれど、よほど保管状態が良かったのかピッカピカ。新品かよ。

「……どうやったら動くんだ?」

 ぼそっとジンが一言。言い出しっぺはお前だろ! 村長以外こんなの来ると思わなかったから、仕方ないとは思うけれど。

「鉄で出来ているようだけど……魔力を注入して動かすのかな」
「それらしき場所はない。ん? この部分に何かを差し込むのか……?」

 ジュリアンとジンの会話を聞きながら、私はバイクのある部分を凝視していた。
 タンクのところに『Regret0502』と品名らしきものがゴシック体で書いてある。どう見てもリグレットって読めるし、0502ってリグレットの誕生日なのだが。
 え? リグレットって実はバイクの妖精だったの? と混乱しつつ、先程ベルと間違えて作ってしまった鍵を見る。
 キーヘッドの部分に小さな字で『Regret0502』と刻まれていた。

 疾風かぜが私を呼んでいる……?




 



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