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67.祈りの時間

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「初めてベルを作られたのでしょう? 失敗は誰にもあることですし……」

 アントワネットがすごく気を遣ってくれて心が痛い。
 だけど無理がありすぎる。ベルを想像したら鍵が出来るってどうなってんだ。脳から情報が正常に伝達されていないじゃないか……。
 ワンモアッ。ワンモアベル作りッと思っていると、広場にこの村の村長らしきお爺さんが現れて、

「これより祈りの時間を始めます。皆様、ベルを握り締めて平和への祈りを捧げてください」

 祈りから逃れられない……!!
 仕方ないので鍵を握って瞼を閉じることに。しかし本当にこの鍵、何用だ?
 家の鍵にしては小さいし、これはどちらかと言えば……。

「さあ、目を開けてください」

 一分間の黙祷が終わったので目を開けると、広場の中心に巨大な鼈甲の塊が置かれていた。あれは琥珀だ。多分高さは5メートルほどあるだろう。
 琥珀の中には蛇のような見た目の化け物が入っていた。その禍々しい姿に、悲鳴を上げる者もいる。
 風習なんだろうが、楽しいバザーで何ておっかない物をご披露するのだ。突然の魔物にびっくりした子供たちが泣き叫ぶ。
 が、慣れているようで村長はニコニコと笑いながら「ご安心ください」と言った。

「この琥珀は、土属性魔法で作り出された巨大かつ強力な封印石です。この封印を解くには光属性魔法で──皆様どうされました?」

 怪訝そうな顔をする私たちに向かって、村長が首を傾げる。
 村長は化石の前に立っているので分からないのだ。──琥珀に大きなヒビが入り始めていることに。
 ついでに言うなら、中の魔物が不穏な動きをしている。まるで琥珀の外へ出ようとしているような……。
 怯えて逃げ出す人も現れ始め、村長が慌てた様子で後ろを振り返ったと同時に、

 パァンッ! と音を立てて琥珀が砕け散った。

「馬鹿な……! 何故封印が解け──」

 村長の言葉は最後まで続かなかった。というより聞こえなかった。
 魔物が口を大きく開けて咆哮を上げたのだ。それが「おはようございます!」なのか、「よくも長い間閉じ込めてくれたな。絶対許さんぞ」なのかは……まあ後者だろう。ブゥンと嫌な風切り音を上げながら長い尻尾を振り回した。
 それはいくつかの民家に直撃して、屋根が吹き飛ばされたり壁に大穴が開いてしまった。

「キャアアアアッ!」

 誰かが叫んだ途端、皆一斉にパニックを起こした。その場から走り出す者。その場に留まって甲高く叫び続ける者。中には失神して倒れてしまった者もいる。

 封印……解けとるやないかい!!

 実は内心、魔物の封印が解けて大暴れされそうな予感はしていた。
 絶対大丈夫みたいな空気感を出されると、どうしてもこう何かやらかすんじゃ……と勘繰ってしまうのだ。多分エメリーア神だって「やらかすで」と神のお告げをリリースするのでは。
 猿やら猪やら狸やらとはレベルが違う。とんでもない奴が復活してしまった……と呆然としていると、魔物が私たちの店目掛けて突っ込んできた。

「みんな早く逃げて!」

 私もそう叫びながら店から離れようとした矢先、最悪なことが起こった。

「アントワネット様……!」

 メロディのすぐ側にいたアントワネットが蛇に咥えられて、連れて行かれてしまったのだ。
 幸いなのは横向きに咥えている状態なので、すぐに丸飲みはしそうにない。魔物は食べることには興味がないのか、その長すぎる尾を鞭のように振り回して民家や屋台を壊しまくっている。
 もちろん、彼らがこれを黙って見ているわけがない。

「ジュリアン様、お下がりください! 危険です!」
「僕は下がらない! 今度こそ彼女を救ってみせる!」

 護衛兵の制止を振り切って、ジュリアンが自分の周りに水球をたくさん浮かべ、そこから水鉄砲のようなものを発射する。
 全て尻尾に弾き飛ばされてしまったけれど。

「ちぃ……っ!」

 ジンも大剣を構えて尻尾を斬りつけようとするものの、やっぱり地上からだと難しい。

「ジン団長! お得意の魔法であの魔物に落雷を落としてやりましょうよ!」
「あぁ!? そんなことをしたら、あの修道女まで巻き添えを喰らうだろうが! まずはテメェに雷落とすぞコラァ!」
「し、失礼しました!」

 護衛兵がジンにマジ切れされている。私だって切れるかもしれない。
 だけど現状で一番有効な手と言えば、それしかないのかもしれない。だからアントワネットをどうにか助ける必要があるのだけれど、あんな高いところまでどうやって行くっていうのだ。空を飛ぶ魔法なんて流石にないだろうし。

「ああ、何ということだ……まさか魔物が蘇ってしまうとは……」

 村長は項垂れてブツブツ呟いていた。大丈夫かな、あの爺さん。いい加減誰か避難させてやらんかね……と思っていると、ジンが村長の肩を掴んで揺さぶった。

「おい、村長! 青玉の馬とやらを出せ!」

 



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