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66.初めてのベル作り
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リーゼからの贈り物を装着したアントワネットの実演販売が始まった。
完売したレーズンが手に入るかもしれないと、続々と集まって来る客。
その中にはリーゼと合流したのか彼女と腕を組んでいるジュリアンと、仏頂面のジンの姿もある。
二人に気付いたようで、表情を強張らせているアントワネットに声をかける。
「大丈夫ですか、アントワネット様」
「は、はい。失敗したらどうしようって緊張してしまって……」
「そしたら私が全部食べるだけなので、気楽に構えていていいですよ」
「ずるいですよ、リグレット様! 私もいっぱいレーズン食べますからね!」
「そうですね。私たちにもレーズンを食べる権利があるかと」
だから緊張する必要はない。私たちのそんな思いが伝わったらしく、アントワネットの口元が緩む。
「はい。ですけれど、その時は私もいただきます」
と冗談っぽく言ってから、葡萄に手を翳して熱風を送り始める。
葡萄から水分が抜けていくにつれて、周囲に漂う甘い香り。その場にいる誰もが、じーっとレーズンになりかけの葡萄を凝視している。
いや違うか。ジュリアンとジンはアントワネットをまっすぐ見詰めていた。授業参観に来た父兄ばりの真剣な面持ちで。
「……こちら、完成しました。出来立てのレーズンです」
アントワネットが皿に載った二種類のレーズンを見せると、皆の目の色が変わった。
この後は壮絶な争奪戦が繰り広げられた。
限られた量のレーズンをゲットしようと財布を取り出す客、客、客。
ジュリアンを守ることが仕事のはずの護衛兵が、列の整備を始めるという事態になった。落ち着け。
結局十分くらいで実演販売分も完売。残されたのは葡萄の軸だけとなった。
「予想以上の売上でしたね。まさかここまでとは……」
メロディの呟きに同意見だと、皆が頷く。これはもしかしたら、本格的なビジネスチャンスかもしれない。乗るしかないだろ? この大きな波に……。
「あっ、もう少しでお祈りの時間ですね」
「? クラリス、祈りの時間って何かあるのですか?」
「さっきお客様がお話しているのを聞きました。エレナック村に今でも残る魔物の化石を広場の真ん中に置いて、平和の祈りを捧げるそうですよ」
「魔物の……化石!?」
そんなブツを今でも村で保管しているのは、マズいのではなかろうか。何かの拍子で復活したらどうするんだか。
「ちなみに、その魔物ってものすごーく強い封印がされているみたいなので安心してください!」
「まあ安全管理がしっかりしているなら……」
「それとリグレット様、祈りには誓約のベルも使うそうですよ」
「えっ」
メロディにそう教えられてテンパる。ベルなんてまだ一つも作ったことがないぞ。
けれどアントワネットたちは、既に自分のベルを持っていた。
アントワネットは淡い青色、クラリスは明るい山吹色、メロディはちょっと渋めな抹茶色。
私も作らないと。How do you do?
「リ、リグレット様。ベルはこうして両手を胸に当てて、頭の中でベルの形を思い浮かべると作り出すことが出来ますよ」
パニック寸前の私にアントワネットが教えてくれた。
何か想像していたよりもずっと簡単な作り方で安心したので、早速トライしてみることに。
ベル、鐘、除夜の鐘。最後のは駄目だ。あの寺とかにあるアレが出てきてしまったら持ち運びが無理になる。
「あ、リグレット様の手から光が漏れてます! ベル出来たみたいですよ!」
クラリスに言われてから気づく異物感。
何かが掌にくっついている。
やった、成功だ! と内心はしゃぎながら手を胸元から離すと、
チャリン、と音を立てて落下した銀色の物体。
それを見た三人娘が不思議そうな顔をする。
「これはベル……なのですか?」
「う~ん、やけに平べったいですねぇ」
「このような形のベルは見たことがありませんね……」
私は無言で自作のベルを拾った。
太陽の光を反射して鋭い輝きを放つ銀色。
先端のギザギザとした凹凸。
プラスチック製の黒いカバーがついた先端。
どこからどう見ても何かの鍵だった。
完売したレーズンが手に入るかもしれないと、続々と集まって来る客。
その中にはリーゼと合流したのか彼女と腕を組んでいるジュリアンと、仏頂面のジンの姿もある。
二人に気付いたようで、表情を強張らせているアントワネットに声をかける。
「大丈夫ですか、アントワネット様」
「は、はい。失敗したらどうしようって緊張してしまって……」
「そしたら私が全部食べるだけなので、気楽に構えていていいですよ」
「ずるいですよ、リグレット様! 私もいっぱいレーズン食べますからね!」
「そうですね。私たちにもレーズンを食べる権利があるかと」
だから緊張する必要はない。私たちのそんな思いが伝わったらしく、アントワネットの口元が緩む。
「はい。ですけれど、その時は私もいただきます」
と冗談っぽく言ってから、葡萄に手を翳して熱風を送り始める。
葡萄から水分が抜けていくにつれて、周囲に漂う甘い香り。その場にいる誰もが、じーっとレーズンになりかけの葡萄を凝視している。
いや違うか。ジュリアンとジンはアントワネットをまっすぐ見詰めていた。授業参観に来た父兄ばりの真剣な面持ちで。
「……こちら、完成しました。出来立てのレーズンです」
アントワネットが皿に載った二種類のレーズンを見せると、皆の目の色が変わった。
この後は壮絶な争奪戦が繰り広げられた。
限られた量のレーズンをゲットしようと財布を取り出す客、客、客。
ジュリアンを守ることが仕事のはずの護衛兵が、列の整備を始めるという事態になった。落ち着け。
結局十分くらいで実演販売分も完売。残されたのは葡萄の軸だけとなった。
「予想以上の売上でしたね。まさかここまでとは……」
メロディの呟きに同意見だと、皆が頷く。これはもしかしたら、本格的なビジネスチャンスかもしれない。乗るしかないだろ? この大きな波に……。
「あっ、もう少しでお祈りの時間ですね」
「? クラリス、祈りの時間って何かあるのですか?」
「さっきお客様がお話しているのを聞きました。エレナック村に今でも残る魔物の化石を広場の真ん中に置いて、平和の祈りを捧げるそうですよ」
「魔物の……化石!?」
そんなブツを今でも村で保管しているのは、マズいのではなかろうか。何かの拍子で復活したらどうするんだか。
「ちなみに、その魔物ってものすごーく強い封印がされているみたいなので安心してください!」
「まあ安全管理がしっかりしているなら……」
「それとリグレット様、祈りには誓約のベルも使うそうですよ」
「えっ」
メロディにそう教えられてテンパる。ベルなんてまだ一つも作ったことがないぞ。
けれどアントワネットたちは、既に自分のベルを持っていた。
アントワネットは淡い青色、クラリスは明るい山吹色、メロディはちょっと渋めな抹茶色。
私も作らないと。How do you do?
「リ、リグレット様。ベルはこうして両手を胸に当てて、頭の中でベルの形を思い浮かべると作り出すことが出来ますよ」
パニック寸前の私にアントワネットが教えてくれた。
何か想像していたよりもずっと簡単な作り方で安心したので、早速トライしてみることに。
ベル、鐘、除夜の鐘。最後のは駄目だ。あの寺とかにあるアレが出てきてしまったら持ち運びが無理になる。
「あ、リグレット様の手から光が漏れてます! ベル出来たみたいですよ!」
クラリスに言われてから気づく異物感。
何かが掌にくっついている。
やった、成功だ! と内心はしゃぎながら手を胸元から離すと、
チャリン、と音を立てて落下した銀色の物体。
それを見た三人娘が不思議そうな顔をする。
「これはベル……なのですか?」
「う~ん、やけに平べったいですねぇ」
「このような形のベルは見たことがありませんね……」
私は無言で自作のベルを拾った。
太陽の光を反射して鋭い輝きを放つ銀色。
先端のギザギザとした凹凸。
プラスチック製の黒いカバーがついた先端。
どこからどう見ても何かの鍵だった。
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