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63.アリス

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 物騒な騎士団長を引き連れているせいで、周囲からの視線が痛い。
 私だって好きでこんなのを同行させているわけじゃないぞ。

「そんで、どうしてそのアントワネットってのは急にいなくなっちまったんだよ」
「ジュリアン王太子の顔を見た途端、走り出してしまったので私にも分かりません。王太子もすぐにアントワネットの後を追いかけてしまわれましたし……」
「……王子も?」

 ジンの声音が変わった。怒っているというわけでもなく、何か確信に至ったような感じに。
 そうだ。そういえば、この男ジュリアンの護衛でここに来ていたのだ。アントワネットよりもそちらの方が大事なのではないだろうか。
 なのにジンに焦りの色は見られなかった。そりゃアントワネットあるところに王子ありの可能性が高いわけだが。

「こっちに行くぞ」
「え? そちらは森では……」
「森の中に公園として使われていた広場があんだよ。今は殆どの遊具が老朽化して、使われなくなっちまったがな」

 そう言いながら森の中に進んでいく。その足取りには一切の躊躇いもない。
 ついて行っていいのか? と私が躊躇っていると、「さっさとついてこい」とガンを飛ばされた。分かったよ、ついて行けばいいんだろと溜め息を一つ。

「ですが、ジン騎士団長は何故この先に公園があるとご存知なのですか?」
「んなこと、テメェに喋ってどうすんだ」

 ほぼ強引について来たのだから、それくらい聞く権利はあるだろうに。
 まともに答えてくれると思っていなかったので、まあいいかとそこで話を終わらせようとすると、

「…………俺はこの村で育った」

 結局答えてくれるのか……。
 ただジンがエレナック村出身なんて初耳だ。
 ジンルートに入っても、そういうエピソードは語られなかった。主にこの狂犬をいかに懐柔して、主人公だけの騎士にするかって内容だったし。

 しかし村はあんなに賑わっているのに、森に入ると別世界かと錯覚するくらい静寂に包まれていた。
 私の家の近くにも山があったけれど、あそこは猿の居城だったので非常に治安が悪かった。作物を狙って人里に下りてくる猿と、それを追い払う人間たちの戦いが毎年繰り広げられていたほどだ。
 この森には獣の気配だとか痕跡がない。いや、いるにはいるんだろうけれど鳥とか小動物くらいなのだと思う。

「お……」

 木とロープで出来たブランコが見えた。それに乗っているアントワネットも。
 傍にジュリアンの姿が見当たらないので、どうやら撒いた模様。
 何はともあれ無事に見付かってよかった。ほっとしつつ声をかけようとすると、私を押しのけてアントワネットに近付いていった。

 そして何と、アントワネットの目の前に跪く。

「あなたは……」
「またこうして、あなたとお会い出来る時が来るとは思いませんでした。……アリス姫」

 突然言動が180°変わったジンと、ジンに姫呼ばわりされたアントワネット……アリス?
 情報が追いつかず混乱していると、後ろから誰かが走って来る音。

「アリス、ここにいたのか。……それにジンも」

 ジュリアンは息を切らしながらジンへと視線を向けた。その顔には苦い笑みが浮かんでいた。
 まさか三角関係か。私という名の部外者がいるのに構わず、話が展開しそうになっている。
 流石に場違いすぎるので気配を消してそっと立ち去ろうとしていると、アントワネットの口から爆弾発言が飛び出した。

「先程は逃げてしまい、申し訳ありませんでした。ですが、今私がここにいる理由をきちんとお話しなければなりませんよね……ジュリアンお兄様」

 多分この時の私は鳩になっていた。くるっぽーと鳴きながら豆鉄砲を喰らっていた。
 そんな鳥類と化した私に視線を移して、アントワネットが言葉を続ける。

「リグレット様、あなたにも……いいえ、あなたには知っていてもらいたいのです。この私が何者であるかを」

 どう考えても断れる雰囲気じゃないだろ……。



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