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62.詐欺師呼ばわり
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※帰って来ました!
――――――――
突然目の前で繰り広げられた修羅場に呆然としていると、硬い表情をしたメロディに声をかけられた。
「アントワネット様のことをお願いします、リグレット様」
「はいっ! ここは私たちに任せてくださって構いませんので!」
何故か私がアントワネットを追いかける雰囲気になっている。いや放っておくわけにはいかないけれど。
練習から逃げ出した部員を探しに行く部長になったような気持ちになりながら、私も人混みの中に突っ込む。
だけど人が多すぎる上に、二人がどこに行ったのかも分からない。
私は部長失格……と心が折れそうになっていると、
「何だ、テメェ……例の修道女か?」
明らかに敵意のこもった声が背後から聞こえてきた。
嫌だな~嫌だな~振り向きたくないな~と思い、知らんぷりして立ち去ろうとすると、「おい、気づいてんのに逃げてんじゃねーよ」とまた声が聞こえてきたんですよ。
これね、思ったんですよ。ああ、私に言っているんだってね。
だから覚悟を決めて、恐る恐る振り向いたらいたんですよ。
騎 士 団 長 が……!!
「ご、ごきげんよう、ジン騎士団長様」
「ごきげんようって面でもなさそうだがな」
そりゃ攻略キャラのオラオラ系担当と遭遇したら、そんな顔にもなる。
向こうも向こうで、えらい形相で私を睨みつけてくるし。
「エメリーア神のお告げがどうたらほざいてる胡散臭い修道女ってのは、テメェのことだな?」
「胡散臭い……とはどういうことでしょうか?」
「神なんざ本当にいるわけねぇだろ。テメェを聖女呼ばわりしてる連中もいるが、俺からしてみればただの詐欺師だ」
「そ、そんな……!」
すごいぞ、この男。『真実』ってやつにちゃんと気付いている……!!
まあでも腕っぷしだけで出世したと言っても、ジュリアンの命令で勉学にも励んでいるのだ。意外に博識って一面を披露する個別イベントもあった。
で、何のために私に声をかけてきた。詐欺師の悪巧みを暴いてやる! って名探偵みたいなキャラじゃなかったはずなのだけれど。
「おい、詐欺師。テメェに一つ聞きたいことがある」
公衆の場で何て呼び方をするんだ、お前は! けれど、全く無実ってわけでもないから何も言い返せない。
「テメェらの修道所にアントワネットって女がいるな?」
「え? はい……」
「そいつの髪は何色だ?」
「黒に近い灰色ですけれど……」
落ち着いた髪色で、温厚な性格の彼女にぴったりだ。
するとジンは思案に耽っていたかと思うと口を開いて、
「今すぐ、アントワネットに会わせろ。バザーに参加してんだろ?」
「あ、ちょっと無理です」
「んだと?」
「突然どこかに走り去ってしまったんです。多分、この村のどこかにはいるはずなんですが……」
そう、今私はこの大人数の中からアントワネットを見つけるというインポッシブルなミッションに立ち向かっているのだ。こんなガラの悪い兄ちゃんに構っている暇はない。
「では私はこれで失礼します。アントワネット様を探しに行かないといけませんので」
「待ちやがれ」
まだ何かあるのか……。
「俺もついていく。文句は言わせねぇ」
いいからレーズン食って大人しく待ってろと言える雰囲気ではなかった。
――――――――
突然目の前で繰り広げられた修羅場に呆然としていると、硬い表情をしたメロディに声をかけられた。
「アントワネット様のことをお願いします、リグレット様」
「はいっ! ここは私たちに任せてくださって構いませんので!」
何故か私がアントワネットを追いかける雰囲気になっている。いや放っておくわけにはいかないけれど。
練習から逃げ出した部員を探しに行く部長になったような気持ちになりながら、私も人混みの中に突っ込む。
だけど人が多すぎる上に、二人がどこに行ったのかも分からない。
私は部長失格……と心が折れそうになっていると、
「何だ、テメェ……例の修道女か?」
明らかに敵意のこもった声が背後から聞こえてきた。
嫌だな~嫌だな~振り向きたくないな~と思い、知らんぷりして立ち去ろうとすると、「おい、気づいてんのに逃げてんじゃねーよ」とまた声が聞こえてきたんですよ。
これね、思ったんですよ。ああ、私に言っているんだってね。
だから覚悟を決めて、恐る恐る振り向いたらいたんですよ。
騎 士 団 長 が……!!
「ご、ごきげんよう、ジン騎士団長様」
「ごきげんようって面でもなさそうだがな」
そりゃ攻略キャラのオラオラ系担当と遭遇したら、そんな顔にもなる。
向こうも向こうで、えらい形相で私を睨みつけてくるし。
「エメリーア神のお告げがどうたらほざいてる胡散臭い修道女ってのは、テメェのことだな?」
「胡散臭い……とはどういうことでしょうか?」
「神なんざ本当にいるわけねぇだろ。テメェを聖女呼ばわりしてる連中もいるが、俺からしてみればただの詐欺師だ」
「そ、そんな……!」
すごいぞ、この男。『真実』ってやつにちゃんと気付いている……!!
まあでも腕っぷしだけで出世したと言っても、ジュリアンの命令で勉学にも励んでいるのだ。意外に博識って一面を披露する個別イベントもあった。
で、何のために私に声をかけてきた。詐欺師の悪巧みを暴いてやる! って名探偵みたいなキャラじゃなかったはずなのだけれど。
「おい、詐欺師。テメェに一つ聞きたいことがある」
公衆の場で何て呼び方をするんだ、お前は! けれど、全く無実ってわけでもないから何も言い返せない。
「テメェらの修道所にアントワネットって女がいるな?」
「え? はい……」
「そいつの髪は何色だ?」
「黒に近い灰色ですけれど……」
落ち着いた髪色で、温厚な性格の彼女にぴったりだ。
するとジンは思案に耽っていたかと思うと口を開いて、
「今すぐ、アントワネットに会わせろ。バザーに参加してんだろ?」
「あ、ちょっと無理です」
「んだと?」
「突然どこかに走り去ってしまったんです。多分、この村のどこかにはいるはずなんですが……」
そう、今私はこの大人数の中からアントワネットを見つけるというインポッシブルなミッションに立ち向かっているのだ。こんなガラの悪い兄ちゃんに構っている暇はない。
「では私はこれで失礼します。アントワネット様を探しに行かないといけませんので」
「待ちやがれ」
まだ何かあるのか……。
「俺もついていく。文句は言わせねぇ」
いいからレーズン食って大人しく待ってろと言える雰囲気ではなかった。
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