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60.バザー開催

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 それから日にちが経ち、とうとうバザー当日となった。
 ナヴィア修道院は朝から大忙し……と思いきや、いつも通りの朝を迎えていた。
 きっかり三十分間祈りを捧げて、私が来た時よりも料理が上達した修道女の朝ごはんを食べて。

 身支度も済ませたところで、私といつもの三人娘。それから数人が外に出ると三台の馬車が待機していた。アントワネットとテオドールがせっせと作ってくれたレーズンは既に積み終わっているので、後は私たちが乗車するだけ。
 行き先は勿論エレナック村。修道院総出でバザーに参加するわけにもいかないので、行くのは私を含めた少数のみ。

 私とアントワネット以外は、誰かが行くのか揉めたので私が発案したあみだくじで決めた。クラリスとメロディが当たりを引いたのは、最高にミラクルだったと思う。
 あみだ、漢字表記にすると阿弥陀。他宗教の神様が絡んでると気づいたのは、メンバー決定後。
 神託(偽)を連発した上に、別世界の神様が由来になっているくじまでやったら、流石のエメリーア神も激おこかもしれない。お詫びとしてレーズンをお供えしたかったけれど、エメリーア神は供物を拒否する神様とのこと。仕方ないので、寝る前に脳内で記者会見を開いて滅茶苦茶謝罪した。

 さて聖鐘祭で久しぶりの社交界を満喫した私とは違い、他の子たちは緊張しつつも今日を楽しみにしていたわけだけれど。

「アントワネット様、かっこいいところを見せてくださいね!」
「……はい」

 やはりアントワネットだけが乗り気ではない。クラリスの応援にも元気なさげに応えていた。
 行きたくないなら無理しなくてもいいよ、と私も言ってあげたいのだが、それも難しい。
 新鮮な葡萄も持って行き、そこで実際にレーズン作りを披露しよう! ということになってしまったのだ。
 実演販売というのは結構効果があると思う。客の興味関心を惹きつけやすいし、試食タイムの流れに持っていきやすい。

 しかし、その調理師があんまり行きたくなさそう。
 アントワネットもレーズン作りは、すごく頑張っていた。一緒に熱風を出していたテオドールに「少し休め」と言われるまで、ずっと作業をしていたくらいなので。ナヴィア修道院はいつからブラック企業の社員になった。
 私が思うに、もしかしてエレナック村に行きたくないだけなのでは……?
 本人に聞くに聞けないまま、私たちを乗せた馬車は村へと直行。

 途中、馬車の渋滞に捕まってしまった。これ全部、バザーに参加する人たちが乗っているのだろうか。
 国境で開催されるわりには大規模だなと窓から外の景色を眺めていると、

「あれは王家の馬車ですね」

 一緒の馬車に乗っていたメロディが口を開いた。
 その視線の先には、所々黄金やら宝石で装飾されたゴージャスな馬車。その周りを護衛用の騎兵が囲んでいる。
 あからさますぎる。権力と地位の高さを誇示するためかもしれないけれど、『偉い人が乗っているから、どうぞ狙ってください』感がすごい。

「何でもバザーには毎年ジュリアン王太子殿下も参加されるそうですよ」
「あーなるほど……」
「今年は、その護衛としてジン騎士団長も同行するのだとか」

 今すぐ帰って二度寝したくなってきたな。





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