悪役令嬢の腰巾着に転生したけど、物語が始まる前に追放されたから修道院デビュー目指します。

火野村志紀

文字の大きさ
上 下
60 / 96

60.バザー開催

しおりを挟む
 それから日にちが経ち、とうとうバザー当日となった。
 ナヴィア修道院は朝から大忙し……と思いきや、いつも通りの朝を迎えていた。
 きっかり三十分間祈りを捧げて、私が来た時よりも料理が上達した修道女の朝ごはんを食べて。

 身支度も済ませたところで、私といつもの三人娘。それから数人が外に出ると三台の馬車が待機していた。アントワネットとテオドールがせっせと作ってくれたレーズンは既に積み終わっているので、後は私たちが乗車するだけ。
 行き先は勿論エレナック村。修道院総出でバザーに参加するわけにもいかないので、行くのは私を含めた少数のみ。

 私とアントワネット以外は、誰かが行くのか揉めたので私が発案したあみだくじで決めた。クラリスとメロディが当たりを引いたのは、最高にミラクルだったと思う。
 あみだ、漢字表記にすると阿弥陀。他宗教の神様が絡んでると気づいたのは、メンバー決定後。
 神託(偽)を連発した上に、別世界の神様が由来になっているくじまでやったら、流石のエメリーア神も激おこかもしれない。お詫びとしてレーズンをお供えしたかったけれど、エメリーア神は供物を拒否する神様とのこと。仕方ないので、寝る前に脳内で記者会見を開いて滅茶苦茶謝罪した。

 さて聖鐘祭で久しぶりの社交界を満喫した私とは違い、他の子たちは緊張しつつも今日を楽しみにしていたわけだけれど。

「アントワネット様、かっこいいところを見せてくださいね!」
「……はい」

 やはりアントワネットだけが乗り気ではない。クラリスの応援にも元気なさげに応えていた。
 行きたくないなら無理しなくてもいいよ、と私も言ってあげたいのだが、それも難しい。
 新鮮な葡萄も持って行き、そこで実際にレーズン作りを披露しよう! ということになってしまったのだ。
 実演販売というのは結構効果があると思う。客の興味関心を惹きつけやすいし、試食タイムの流れに持っていきやすい。

 しかし、その調理師があんまり行きたくなさそう。
 アントワネットもレーズン作りは、すごく頑張っていた。一緒に熱風を出していたテオドールに「少し休め」と言われるまで、ずっと作業をしていたくらいなので。ナヴィア修道院はいつからブラック企業の社員になった。
 私が思うに、もしかしてエレナック村に行きたくないだけなのでは……?
 本人に聞くに聞けないまま、私たちを乗せた馬車は村へと直行。

 途中、馬車の渋滞に捕まってしまった。これ全部、バザーに参加する人たちが乗っているのだろうか。
 国境で開催されるわりには大規模だなと窓から外の景色を眺めていると、

「あれは王家の馬車ですね」

 一緒の馬車に乗っていたメロディが口を開いた。
 その視線の先には、所々黄金やら宝石で装飾されたゴージャスな馬車。その周りを護衛用の騎兵が囲んでいる。
 あからさますぎる。権力と地位の高さを誇示するためかもしれないけれど、『偉い人が乗っているから、どうぞ狙ってください』感がすごい。

「何でもバザーには毎年ジュリアン王太子殿下も参加されるそうですよ」
「あーなるほど……」
「今年は、その護衛としてジン騎士団長も同行するのだとか」

 今すぐ帰って二度寝したくなってきたな。





しおりを挟む
ツギクルバナー
感想 429

あなたにおすすめの小説

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。

ヒロイン不在だから悪役令嬢からお飾りの王妃になるのを決めたのに、誓いの場で登場とか聞いてないのですが!?

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
ヒロインがいない。 もう一度言おう。ヒロインがいない!! 乙女ゲーム《夢見と夜明け前の乙女》のヒロインのキャロル・ガードナーがいないのだ。その結果、王太子ブルーノ・フロレンス・フォード・ゴルウィンとの婚約は継続され、今日私は彼の婚約者から妻になるはずが……。まさかの式の最中に突撃。 ※ざまぁ展開あり

愛されない王妃は、お飾りでいたい

夕立悠理
恋愛
──私が君を愛することは、ない。  クロアには前世の記憶がある。前世の記憶によると、ここはロマンス小説の世界でクロアは悪役令嬢だった。けれど、クロアが敗戦国の王に嫁がされたことにより、物語は終わった。  そして迎えた初夜。夫はクロアを愛せず、抱くつもりもないといった。 「イエーイ、これで自由の身だわ!!!」  クロアが喜びながらスローライフを送っていると、なんだか、夫の態度が急変し──!? 「初夜にいった言葉を忘れたんですか!?」

我慢するだけの日々はもう終わりにします

風見ゆうみ
恋愛
「レンウィル公爵も素敵だけれど、あなたの婚約者も素敵ね」伯爵の爵位を持つ父の後妻の連れ子であるロザンヌは、私、アリカ・ルージーの婚約者シーロンをうっとりとした目で見つめて言った――。 学園でのパーティーに出席した際、シーロンからパーティー会場の入口で「今日はロザンヌと出席するから、君は1人で中に入ってほしい」と言われた挙げ句、ロザンヌからは「あなたにはお似合いの相手を用意しておいた」と言われ、複数人の男子生徒にどこかへ連れ去られそうになってしまう。 そんな私を助けてくれたのは、ロザンヌが想いを寄せている相手、若き公爵ギルバート・レンウィルだった。 ※本編完結しましたが、番外編を更新中です。 ※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。 ※独特の世界観です。 ※中世〜近世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物など、その他諸々は現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっています。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。

【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。

扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋 伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。 それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。 途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。 その真意が、テレジアにはわからなくて……。 *hotランキング 最高68位ありがとうございます♡ ▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス

完】異端の治癒能力を持つ令嬢は婚約破棄をされ、王宮の侍女として静かに暮らす事を望んだ。なのに!王子、私は侍女ですよ!言い寄られたら困ります!

仰木 あん
恋愛
マリアはエネローワ王国のライオネル伯爵の長女である。 ある日、婚約者のハルト=リッチに呼び出され、婚約破棄を告げられる。 理由はマリアの義理の妹、ソフィアに心変わりしたからだそうだ。 ハルトとソフィアは互いに惹かれ、『真実の愛』に気付いたとのこと…。 マリアは色々な物を継母の連れ子である、ソフィアに奪われてきたが、今度は婚約者か…と、気落ちをして、実家に帰る。 自室にて、過去の母の言葉を思い出す。 マリアには、王国において、異端とされるドルイダスの異能があり、強力な治癒能力で、人を癒すことが出来る事を… しかしそれは、この国では迫害される恐れがあるため、内緒にするようにと強く言われていた。 そんな母が亡くなり、継母がソフィアを連れて屋敷に入ると、マリアの生活は一変した。 ハルトという婚約者を得て、家を折角出たのに、この始末……。 マリアは父親に願い出る。 家族に邪魔されず、一人で静かに王宮の侍女として働いて生きるため、再び家を出るのだが……… この話はフィクションです。 名前等は実際のものとなんら関係はありません。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

処理中です...