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56.レーズン
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他の国はどうか分からないけれど、少なくともこの国ではドライフルーツという概念がないらしい。天日干しや熱風に当て続けて、果物から水分を抜いたものだと説明すると、
「えっ! そんなことをしたら果物がしなしな~ってなって、何も味がなくなっちゃうんじゃないですか!?」
ぎょっとした様子のクラリスの意見に同意するように、アントワネットとメロディもうんうんと頷く。
確かに見た目は萎びて可哀想なことになってしまう。ただ無味になるわけでもないのだと、私は説明を続ける。
「糖分は果物に残ったままですよ。むしろ水分が抜けた分、味が濃くなって美味しいのです」
「味を濃縮させるということですか……確かにそうすれば、甘みも強くなっているかもしれませんね」
そう、アントワネットの言う通り新鮮な状態で食べるより甘くて味も濃くなる。
「それに方法さえしっかりしていれば、ある程度の期間保存も利きます」
「そうすれば、冬などの果物が採れない時季でも食べられる……味だけではなくて、これも大きな利点だわ……」
興味深そうな表情でメロディがぶつぶつと呟く。
「ちなみにドライフルーツを蜂蜜とかラム酒に漬け込んだりもできます。そうすると水分の代わりに蜂蜜とかラム酒を吸収して柔らかくなるので、そのまま食べるだけじゃなくて、お菓子の材料としても使えるのですよ」
「は、蜂蜜、ラム酒……そんなの絶対美味しいに決まっています……! た、食べたいです!」
鼻息を荒くしたクラリスが私に詰め寄る。
私だってレーズンの話をしていたら、猛烈に食べたくなってきた。
あの濃厚な甘みが懐かしい。
多分、うちの葡萄でもレーズンに向いてそうな種類があるのだけれど。
今から作ってすぐに食べられるわけじゃないのが切ない。
「レ、レーズンを作るには長い間天日干しにしなければいけないのです。熱風で一気に水分を抜き取る方法もありまけれど、この国にそういった道具はないと思いますし……」
「そうですか~……」
がっくりと肩を落とすクラリス。ごめん。
ただ実験のつもりで天日干ししてみようかなと思っていると、
「あの……その熱風というのは魔法で出したものでも可能なのでしょうか?」
アントワネットが恐る恐る私に尋ねた。
「もちろん、魔法でも大丈夫だと思いますよ。ですけれど、ナヴィア修道院には魔法が使える人がいなくて……」
「……使えます」
「え?」
「私、魔法が使えるのです。それも火属性と風属性の二つを」
何とまあ……。
「えっ! そんなことをしたら果物がしなしな~ってなって、何も味がなくなっちゃうんじゃないですか!?」
ぎょっとした様子のクラリスの意見に同意するように、アントワネットとメロディもうんうんと頷く。
確かに見た目は萎びて可哀想なことになってしまう。ただ無味になるわけでもないのだと、私は説明を続ける。
「糖分は果物に残ったままですよ。むしろ水分が抜けた分、味が濃くなって美味しいのです」
「味を濃縮させるということですか……確かにそうすれば、甘みも強くなっているかもしれませんね」
そう、アントワネットの言う通り新鮮な状態で食べるより甘くて味も濃くなる。
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「そうすれば、冬などの果物が採れない時季でも食べられる……味だけではなくて、これも大きな利点だわ……」
興味深そうな表情でメロディがぶつぶつと呟く。
「ちなみにドライフルーツを蜂蜜とかラム酒に漬け込んだりもできます。そうすると水分の代わりに蜂蜜とかラム酒を吸収して柔らかくなるので、そのまま食べるだけじゃなくて、お菓子の材料としても使えるのですよ」
「は、蜂蜜、ラム酒……そんなの絶対美味しいに決まっています……! た、食べたいです!」
鼻息を荒くしたクラリスが私に詰め寄る。
私だってレーズンの話をしていたら、猛烈に食べたくなってきた。
あの濃厚な甘みが懐かしい。
多分、うちの葡萄でもレーズンに向いてそうな種類があるのだけれど。
今から作ってすぐに食べられるわけじゃないのが切ない。
「レ、レーズンを作るには長い間天日干しにしなければいけないのです。熱風で一気に水分を抜き取る方法もありまけれど、この国にそういった道具はないと思いますし……」
「そうですか~……」
がっくりと肩を落とすクラリス。ごめん。
ただ実験のつもりで天日干ししてみようかなと思っていると、
「あの……その熱風というのは魔法で出したものでも可能なのでしょうか?」
アントワネットが恐る恐る私に尋ねた。
「もちろん、魔法でも大丈夫だと思いますよ。ですけれど、ナヴィア修道院には魔法が使える人がいなくて……」
「……使えます」
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